あってはならない人もいる４

夜になると、ミサキは実家に戻った。
独りでいることが不思議だった。
ベッドは二つ並んでいた。
目を閉じた。
眠りに入りきれない中途半端な時間。
ヒカルは意識を失うことなく、夢を見た。
瞳の裏側に映るイメージを認識し、判断し、新しい記憶が作られた。

会話の続きは、マサルの笑顔の中に消えた。

ゴツーンという音が頭の中で反響した。

それは視界の右端にかすかに残った映像の記憶だった。

目を閉じた男の揺れる頭。
宣伝カーにぶつかった反動で、飛び跳ねる金髪の女の頭。
次の瞬間、男は目をカッと見開き、ヒカルたちを見た。
そして、ダークグレーのジャガーはスーッと吸い込まれるようにトレーラーのタイヤの間に消えていった。
と同時に、マサルの横の窓にアスファルトが近づいてきた。

激しい衝撃音が響いた。

回る世界。

闇。

闇の恐怖。

その恐怖がヒカルをとらえた。
ヒカルは震えた。
汗が冷たかった。

目が覚めた。

景色が違っていた。

いつもの「ベース」の部屋の天井ではなかった。
目の前の天井は二重の構造になっていた。四角い縁取りのような外側と模様が施されて少し高さがある内側、見慣れた天井と違うだけで、妙な不安が忍び寄った。

現実の不確かな記憶がその夢を見たことで、確かな記憶に変わった。

彼らが、死んでしまったのか。

もし、その瞬間、ほかの車に激突していたら・・・・・。

闇から、この世界に戻ることはできなかった。

死の恐怖をヒカルは感じた。

生きていることはなんと果かなく壊れやすいことなのだろう。

目を閉じても、恐怖と不安が忍び寄り、眠りに付くことはできなかった。

気だるさが朝を重たくした。