仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

壁の向こうの溜息の意味9

2010年05月27日 17時19分39秒 | Weblog
 ヒカルにもたれながら、ミサキは揺れた。ミサキは単純にヒカルといることが嬉しかった。そして、右手が、掌がヒカルに触れた。電流のような刺激、けれど、セーブされた刺激。心地良かった。
 ヒカルがポツンといった。
「違うんだね。」
「なあに。」
「ヒデオさんと話したことがあったんだ。生まれるところが違うとずいぶん違うものだなって。」
「何のこと。」
「ねえ、ミサキ、どうして・・・・・、僕との暮らしに満足していたの。」
「何を言っているの。」
「だってこんな大きな家に住んでいたんでしょ。お手伝いさんもいて。」
「うーん、ヒカルは何が言いたいの。」
「何がって・・・。」
「私はあなたと出会えたことが奇跡のように思うわ。あなたが私を受け入れてくれたことも。そう、あなたと一緒にいれること、それだけで充分よ。」
「あんな小さな部屋でも。」
「うん。私ね。ちいさいころから独りの部屋を与えられたの。だから、あんなふうに暮らしができるなんて思わなかった。いつもね、ヒカルを感じて生きていられる。お仕事で、昼間、いなくても、ヒカルの臭いを感じることができる。とても、嬉しかった。」
「そうなの。」
「父も母も忙しくて、あまり、一緒いた記憶がないの。でも、父は月に一度、皆でいられる時間を作ったの。第三水曜日、私は、学校を休んだの。」
ミサキは続けた。
「ほんとうに幸せそうな家族のようだった。」
「家族でしょう。」
「でもね。水曜日以外は一人でいることが多かった。だから、ずっと一緒にいられることがとても嬉しかった。」
「なんていうか。」
「私、お料理もね、ヒカルと暮らすことができたからできるようなったのよ。だから、「ベース」でもおやくにたてたの。」
ヒカルはミサキの言葉に救われた。言葉使いがいつもと違うような気はしたが、境遇の違いを意識しなくてよくなってきた。
「ところで、どんな話なんだろう。」
「解らないって言うとヘンね。」
「なに。」
「聞いてはいないの。でも、これからのことだと思うわ。」
「これからのことって。」
「父があの状態なので、私にこちらに戻るように言われると思うの。」
「そんな、「ベース」の農場はどうするの。」
「うん。」
今度は、ミサキが言葉に詰まった。