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石内都展 ひろしま/ヨコスカ (バイ SSさん)

2008-11-24 | イベント(レポート・お知らせ)

SSさんが石内都さんの展覧会「ひろしま/ヨコスカ」の
オープニングに行ってこられ、かねてからの言葉どおり、
レポをあげてくださいました。
SSさん、ありがとうございます。



石内都展 ひろしま/ヨコスカ
(バイ SSさん)


こんにちは。SSです。
以前からL図書で何度も記事にしていただいた、
石内都さんの「ひろしま」。

ついに東京で展覧会が開催されることとなり、
先日、目黒区美術館で開催されている、
石内都さんの展覧会
「ひろしま/ヨコスカ」のオープニングに行ってきました。

オープニングは大盛況。
大御所らしき方々ばかりで到底輪に入れる感じでもないので、
私はオープニングとはいいうものの、
展示をゆっくりと見ることに集中しました。

久々につくづく良い展示を見たと思いました。
今回は石内さんの大回顧展的にもなっており、
初期の作品である横須賀の街並みをモノクロで撮ったものから
爪や足を撮ったシリーズ、
人の身体の傷を撮ったシリーズから、お母様の遺品を撮影した
マザーズのシリーズとなり、
最後にひろしまの写真になる流れです。

私自身、学生時代をずっと通しての研究テーマが
「包み」、「身体」、「不在の存在」だったので、
今回の展示は本当に何から何までぐっときました。

ずっと本物を見たいと思っていた、人の傷跡を撮っているシリーズは
モノクロなのですが淡いトーンで、本当に美しい。
手術後の傷跡、不随になってしまい片足を使わなくなったことで
両足でまったく細さが違う脚のポートレート、老いた皮膚、
ケロイドになってしまっている皮膚。。
こうやって言葉で書くと、それだけで何かの意味、
特にマイノリティの意味合いを持ってしまうように感じるけれど、
写真からは対象への優しいまなざしと
傷そのものがその人自身の一部としてきちんと納まっているように感じる
自然さ、美しさを感じるのです。
石内さんは、傷跡や老いと共に現れる皺を美しいもの、と仰っています。
その人が刻んだ年月がそこに現れる、誇れるものなのである、と。

その視線がすごく伝わる写真で、ものすごく揺さぶられました。
シリーズのタイトルに「ふれる」というものもあったのですが、
まさに写真を通して触れているように感じました。
優しく撫でるような濃密な写真だけれど、同時にとても自然で軽やかなんです。
展示の仕方もすばらしくって、一緒に観にいった写真家さんと
興奮してしまいました。
写真の額や大きさ、飾る位置も全部バラバラでそれだけで
リズムを刻んでいるんですよ。
目で作品を追っていくと、なにか独特のリズムに身体が乗ってくる感じがして、
その軽やかさもすごく展示の印象に影響していたと思います。
この人は本当に人間が好きなんだなぁ、とシンプルながら思いました。

その後、マザーズのシリーズとひろしまのシリーズが
同じ部屋に展示されていました。
ふたつのシリーズに与えられたタイトルは「不在の肉体」。
ドンピシャすぎる。

マザーズのシリーズは生前どうにも上手くコミュニケーションを
取れなかったお母様が亡くなってから、
どうしてもっとたくさんコミュニケートできなかったんだろう、
という後悔が生まれ、
けれどすでに相手はいなくて、、、という中で遺品を撮影することで
母と再度コミュニケートする、ということを考えて
撮られたシリーズだそうです。
鮮やかに写るシュミーズや使いかけの口紅、香水、靴、
女性らしい日常の品々であるからこそ、
その不在がより一層引き立って現れます。
やはりこれにも優しく飾らない石内さんの自然な眼差しがあって、
すごく心を穏やかにしてくれるし、でも激しく心が奪われる感じがしました。
その前の傷のシリーズは、実際に生きている肉体の写真なわけですが、
これらのモノ達にもそれと同じ生命が宿っている生っぽい印象を覚えて、
人間の身体について改めて考えさせられました。

私たちは自分の肉体が、そして皮膚が、周囲の世界を自分たちを
隔てているものだと信じ込んでいるけれど、
きっとそうではないんだ、それはただ危ういルールでしかないんだ、
そんなことを感じました。
服だって、モノだって、その向こうにある人間を表すのです。
全部を包括する命のようなものが、私たちの中から発信され、
同時に包み込んでいるんだろうな、と
ちょっと怪しい言葉にはなってしまうのですが、感じたのです。

一番驚いたのは、マザーズからひろしまの作品に移る瞬間です。
母の使いかけのオードトワレの写真の隣に、
ひろしまの入れ歯のかけらがポツンと写った写真が
なんの隔たりもなく繋がっていたのです。
ひろしまの写真にも同じ眼差しが注がれている、と思いました。
写真集では何度も何度も見たけれど、
やはり生で見る迫力は全然違いました。
細かな繊維までが大きく引き伸ばされた写真から見えて、
ただその美しさにやられてしまいました。
写真集で見たときは、何かすごく痛いヒリヒリとした
印象を受けていたのですが、
今回はむしろ、ただ美しく、温かく、
石内さんに撮影されることによって
服たちが石内さんと対話をし、
すごく安心したんじゃないかな、と思えたのです。

合間合間に挟まれた靴下や布製の靴のかたちが可愛らしくて、
ささやかな自分たちの生命を思いました。
靴下や服は人のある部分の形をほんのりとなぞることで出来ていて、
それが何か形にならない生命のようなものをくるんでいるように感じて
すごく愛らしく感じたからだと思います。
だから、もっとヘビーな気持になるかと予想していたのに、
むしろすごく心が軽くなって、元気になりました。

最後の写真は高い天井のすごく上の方に掛けられていて、
それこそ天に昇る感じです。
一緒に行ったカメラマンさんは、前の週に石内さん本人に
解説をしてもらったそうで、
そのときには「これはぴゅーっと飛んでいけ!って思ったのよ」と
明るく答えてらしたそうです。
それが本当に涙が出るくらい清清しい言葉だな、と思って、
私は本当に石内さん自身が好きだな、と思いました。

戦争の一番痛ましい記憶とその年月の重みを課せられた服たちが、
いろいろなものから解かれて、放たれる瞬間。
石内さんと「ひろしま」の出会いの貴重さと重要性をつくづく感じました。

もちろん、これらの遺品たちは、戦争の傷跡、という
重要な意味を今後も持ち続けます。
重要な資料としても残っていきます。
ひろしまの痛みが完全に癒えるには時間がかかります。
けれど、まっさらな状態で、ただその日に起きた出来事を
さらりと伝えてのける、そして同時に、
このモノ自身に見出された芸術として昇華していく姿は、
何にも変え難い健やかさと軽やかさをもっている、と思ったのです。
本当に服が楽しそうにぴゅーっと飛んでいくように見えたし、
それは長い年月とシリーズを経て、「身体」という対象にブレない、
愛情を持った眼差しを向け続けた石内さんだからこそ可能であったのだ、
と感じたのです。

もちろん、今回の展示のレイアウトは石内さんご本人がされています。
この空間の使い方の妙、本当にセンスがありすぎて圧巻でした。
何をやってもブレない。強い。
こんなに良い展示はめったにないです。贅沢な贅沢な展覧会です。
もちろんすごくシリアスな写真もあるのですが、
行ったらすごく清清しくて元気になる展覧会だと思います。

是非是非観にいってみてください。

石内都展 ひろしま/ヨコスカ
2008年11月15日(土)~2009年1月11日(日)

目黒区美術館
HPはここから
SSさんの素敵なブログはここから


SSさん、ありがとうございます。
石内さんのレポを読み進めてゆくうちに、
石内さんの作品が包む時間と、
SSさんを包む時間・・・
ふたつのそれぞれの時間が
シンクロした瞬間に
想いをめぐらしました。
そのつながっている一瞬というのは、
SSさんがヒロシマハウスのために
れんがを積み上げ始めた、最初のれんがを
手にした瞬間だったかもしれません。
あるいは、もっとはるかな前に、
少女のSSさんが、
空間というものが、モノのみならず、
こころをも包み込むものであると、
感じ取った瞬間だったのかもしれません。
たぶん、SSさんは石内さんに
出会うべくして出会ったのでしょう。
時間と空間は生けとし生きるもの、
あるいはかたちあるものにだけ許された
いれものなのではないと、何度も言うようですが
思いました。

SSさん、ありがとうございます、
細かく印象をのべるのは差し控えますが、
SSさんのおかげで、そこに行くことが
叶わない多くの人間が
とてもちかくで石内さんに再び、
めぐり合えた気がします。
体調万全でないなか、
レポートを通じて、
貴重な機会を共有させてくださって
ありがとうございました。



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4 コメント

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SSさんありがとう! (Rainy)
2008-11-24 10:10:38
おはようございます☆

SSさん、お帰りなさい~!
樹さん、早速ありがとうございます☆

>服だって、モノだって、
その向こうにある人間を表すのです。

本当にそうなんですね。
そう思うと怖いですね。

重い気持ちになるかと思ったら
元気になれた、というのが
すごいと思います。悲惨な出来事が
下敷きにあるわけですが、それでも
芸術の力って強いんですね。

またSSさんのブログにも
お邪魔します~。
返信する
Unknown (SS)
2008-11-25 19:39:24
まず、樹さん、今回は掲載いただいてありがとうございました!
レポの後に添えていただいた言葉、身に余る光栄でございます!!

たくさんの方がご覧になるL図書で、拙いレポではありますが、こうやってたくさんの方々に知ってもらえる機会を持てる幸せを思います。

石内さんのことをこちらで紹介いただいてから、自分でももっともっと考えるようになったし、すごく重要な出来事に成長していった気がします。

本当にありがとうございました。

そして、Rainyさん、
お忙しいのに、私のところにもこちらにもコメント下さってありがとうございます!!
芸術や文化って、ひとつの作品が全員を納得させられるものではないので、その存在や力の重要度って伝えにくいんですけれど、でもやっぱりこの展覧会には力があるし、重要だ、と思いました。

服もモノも20世紀に入ってから大量生産となって、人の手が残るものばかりではなくなりましたが、それでもやはり人を表すと思います。

馬鹿みたいに聞こえますが(笑)、
アートっていいなぁ、とつくづく思いました。
自由な思考に憧れます。

返信する
Unknown (まろうさぎ)
2008-11-25 21:52:02
SSさん、素敵なレポをありがとうございました。
SSさんのご紹介で、「日曜美術館」を見て、本を買い、……展覧会があることは聞いていたのに、失念していました。
ほんと、日々に流されて忘れていることの、何とおおいことか。
目黒区美術館ですね。近いので、必ず行ってきます!
思い出させて下さったこと、御礼申し上げます。
返信する
Unknown (さち)
2008-11-25 23:22:31
こんばんは。
SSさん、お仕事が忙しく、風邪をひかれたとお聞きしました。どうかご自愛ください。
今回は、とても貴重なお話をありがとうございました。
SSさんの書く文面から、石内さんの作品がとても大切で、大好きであることが伝わってきます。実際に作品を目の前にしている様にも、感じることが出来ました!
石内さんが撮ることで、人も物もはっきりと生きてくるんだなと思えました。
いつも、知的お洒落美人のSSさんにとても憧れます☆ありがとうございました。

樹さん、いつも、いつも素晴らしい記事をありがとうございます!
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