びぼーろぐ

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Only Lovers Left Alive

2013-12-30 | レビュー


ジム・ジャームッシュ監督

主演 トム・ヒドルストン
   ティルダ・スウィントン

 今や絶滅危惧種となったVampire 吸血鬼の物語。
清浄な血だけが、彼らを生き永らえさせる。

 ピュアーな魂は、孤高でありながら、センシティブ過ぎて危うい。キャピタリズムに汚された「血」では生きられずに、アダムとイブは極端に潔癖症。
反面、「血」を選ばない雑食の妹エヴァは、ゴキブリのごとくたくましい。

 かつて隆盛を誇ったモータウン・デトロイトの場末が舞台と言うのも、皮肉が効いていて面白い。

大阪アースダイバー

2013-12-19 | レビュー


 確かに、朝鮮半島や中国から、関門海峡を通過し瀬戸内海を行く航路は、安全で、大阪への外国人流入は、何の不思議もないことである。卑弥呼の魔鏡やアマテラスの信仰すら起源が大陸だとしたら、日本人のオリジナルなものとはいったい?と疑問が頭をもたげてくる。自分のルーツでさえ、ホントにネイティブなのか怪しんでしまう。
 考えてみれば、かつてローマがセルティックワールドに攻め入って行き、ガリアがローマ化されフランク族がフランス人としてのアイデンティティを持つに至る過程を見れば、混血・融合・統合こそがオリジナリティを作ると言えないだろうか。
人の個性もまた、模倣にすぎないとなれば、オリジナリティを追究することそのものがばかげているかも。
あまり、「日本独自の」とか「日本古来の」なんて言うのはかえって、排他性を強めることになりかねないな。

ハニカム狂

2013-08-12 | レビュー


少年王者館 名古屋公演
於 七ツ寺共同スタジオ

  作    天久聖一
構成・演出  天野天街

「Haney Comb」ハニカムの中で繰り広げられる、不条理な世界。
愚かしくも、日々を暮らし、意味を問い続ける登場人物(?)たち。
生命活動から、熱が生まれ、
そのエネルギーが、ガラパゴスダンスで放出される・・・


フランシス=ベーコン展

2013-06-18 | レビュー
目撃せよ。体感せよ。記憶せよ。

  フランシス=ベーコン展(豊田市美術館)



 暗闇に浮かびあがった対象は、薄ぼんやりと光を放っている。
 シャッタースピードが速すぎて、ぶれてしまった写真のように見える画面は、瞬間にいくらかの時間の幅を持たせるかのようだ。



 過去の記録である写真の数々を、スライドショーで見るときの感覚に似ている。浮かび上がっては、闇に同化されゆっくりと消えていく。



 人も、犬も、スフィンクスも、物体は、輪郭を持ちながらも半ば透明感を持って描かれている。薄ぼんやりした対象が放つ光は、「エネルギー」や「魂」「知性」「感情」といったものの抽象的表現か。

 第2室に入ると、いきなり目に飛び込んでくるのは、生々しい「肉体」である。血がしたたり、赤々とした食肉の塊を思わせる作品。精神を表現すべく媒体としての肉体ということだろうか?

 対象の見え方は、見る方向によって、あるいは描き手との関係性によってまるで違って見える。印象ばかりが記憶に残り、頭の中で再統合されたような。多方向から見た印象をピカソ的に集合させて表すと、「ダイアのトリプティック」のような作品になるのかと。



 やがてどろりと溶けて、あるいは闇に吸いこまれて無くなってしまう「はかない」存在ながら、精神のエネルギーの宿る「肉体」は、部分的であれ、美しい。


 
 20世紀的「いまここ」感の表現なのでは?と思った。

奇跡のリンゴ

2013-06-05 | レビュー
自然と対話し、「共生」をさぐる農業にこそ、「奇跡」は生まれる。

人間が、傲慢にも神のごとく自然を支配・管理しようとするところに誤りがあり、逆に、人間も自然の一部だと自覚するところに「恩恵」がある。
自然に対して謙虚になれば、小さくても、ちゃんと「贈り物」を受け取ることができるんだね。

岩木山のたたずまいが、something greatで象徴的であります。

自然への「愛」、家族への「愛」
「愛」に満ち溢れた映画です。

阿部サダヲさんのひたむきさが、よく表れていてよかったです。

http://www.kisekinoringo.com/

中沢新一 著  「愛と経済のロゴス」

「愛」の無い経済学に、戦いを挑む「野生の科学」第3弾


ホーリー モーターズ

2013-04-22 | レビュー
ホーリー モーターズ
Holy Motors

名古屋今池のシネマテークにて上映。
『ポンヌフの恋人』のレオス・カラックス監督13年ぶりの新作。

 HolyMotorsとは、「聖なる乗り物」という意味なのでしょうか?「肉体は魂の乗り物である」と、仏教のキーワードを記憶しています。カラックスさんは、「禅」に傾倒されているのでしょうか。

 映画は、村上春樹的な壁抜けと思われるシーンから始まる。主人公は、映画館に入り込み、九つのアポイントを抱える役者として、夢の世界を生きる。ある時は浮浪者、ある時は怪物、ある時は平凡な父親、またある時は瀕死の老人・・

 人生は役者が役割を演じるがごとく、あらゆる可能性を持つものである。ただしどの役も他者との関わり(=アポイント)によってのみ役を全うできる。

 路傍の石に命が吹き込まれ、転がり始めるように、リムジンたちもまた、役者の魂のエネルギーを原動力に走りだす。

http://www.holymotors.jp/




外食2.0

2013-04-10 | レビュー
外食2.0  君島佐和子



著者は、雑誌「料理通信」編集長。

「外食」は、どこに向かっているのか?
外食の黄金期から、料理業界の変遷をウォッチし続け、外食を食べつくした感のある著者の総決算とも言うべき本著。
かつては空腹を満たし、次第に糖質と脂質を求め、技巧を凝らし、多様なスパイスを加味してついには無国籍となった美食の数々。伝統からの脱却、あるいは伝統への回帰。料理人たちはどこへ行くのか?私たちは、どこで何を食せばいいのか?そもそも「おいしさ」とは何か?という疑問を投げかける。

肉のうまみを最大限に引き出すのは、実は低温でじっくりが良いなどの厨房の実験室化。坪単価によるレストランの立地条件。なぜイタリアンなのか?バルが流行る理由。北欧レストラン「ノーマ」の成功。「うまみ」の再発見。シェフの発信力。など、様々な見地から外食産業の今を伝えている。シェフたちの裏話なども興味深い。

結局「おいしさ」は極めて主観的なものであり、作る個人と食べる個人の求めるものが一致したときに「おいしい」があるわけで、ミシュランのような客観的評価が、私の「おいしい」と一致するはずがないのである。個人と個人の出会いのステージがレストランもしくはバルということになるのではないか。

さしずめ、私自身に開業の余地があるとして、その時は編集長いわくの「素朴系女子」の範疇にくわえてもらっていいですか。

円山応挙展

2013-03-20 | レビュー
円山応挙展
愛知県立美術館
主催 中日新聞社
特別協力 レクサス

 伊藤若冲・曽我蕭白らとともに江戸時代中期に人気を博した絵師。この展覧会のキャッチコピーによると「真の実力者」ということである。写生を得意とし、対象をよりリアルに描くために、伝統やぶりも厭わない探究心旺盛な人だったようである。
西洋で確立した遠近法が、鎖国の世にも忍び込み、気鋭の絵師応挙が取り入れることで、京都画壇に一石を投じている。

 伊藤若冲がデジタルなら、こちらはトリックアート?屏風の折れや襖の角を利用して立体感を作り出すなどという技によって、見るものがあたかも絵の中に入り込むような不思議な感覚にとらわれる。何よりも、日本人の中に科学の目が芽生えてきた過程が、ここかしこに見受けられるのが興味深い。


伝統もふまえつつも、立体感を施した、「雪松図」。有名な幽霊の絵のように、足が無い。



そぼ濡れた竹林
「雨竹風竹図」



愛くるしい子犬
「柳下狗子図」



ウサギの体温さえ感じられる描写力
「木賊兎図」



ライフ オブ パイ

2013-02-27 | レビュー
ライフ オブ パイ 




 とてもよくできた作り話で、信じるもよし、信じないのもよし。ただ真実は事実の中にではなく、物語の中にある、というアン・リー監督のユニバーサルな思想に共感。
 パイ少年は、はじめ虎に食われまいとしてあれこれ策を弄するが、やがて、虎を生かすことが自分を生かす道であることに気づく。さらには、虎に、共に生きる同志的感情を持つようになり、孤独からも救われることになる。人間的感情など持ちえない虎との友情なのか?(虎が友情など感じていなかったことは、別れの際に明らかになるのだが。)
 ひたすら与え続ける「無償の愛」の底力に感動を覚える。 

アースダイバー

2013-02-17 | レビュー
アースダイバー  中沢 新一著 2005年



宗教学者で思想家の中沢先生。明治大学特任教授

著者お手製の縄文地図を携えて、東京という土地の記憶をたどる。

かつて東京の海岸線は、複雑に入り組んだフィヨルドだったという。
古くからの洪積台地とやがてすがたを現わす湿った沖積台地。

ビル群に覆われた東京の街ですら、縄文の記憶に宿命的に性格づけられているらしい。
侵してはならざる土地といううものがやはりあって、反面どうにも逃れられない影を背負った土地もある。

東京には山があって、谷があり、平野が広がる。当たり前といえばそれまでだが、縄文地図を片手に歩いてみれば、街によって微妙に異なる湿度のようなものを風の中に感じるかもしれない。

レ・ミゼラブル

2013-01-12 | レビュー
レ・ミゼラブル



トム・フーバー監督

配役
ジャン・バルジャン  ヒュー・ジャックマン
ジャベール警部    ラッセル・クロウ
ファンティーヌ    アン・ハサウェイ
コゼット       アマンダ・セイフライド
マリウス       エディ・レッドメイン

 フランスの文豪ビクトル・ユゴーの大河小説。
「正義と善」という重いテーマを引きながらも、ハリウッド的で十分楽しめる娯楽作品に仕上がっていました。 
時はフランス革命後の動乱期。一度は「解放」を手に入れたものの列強諸国との戦争や、王政への揺れ戻し・度重なる暴動の中で、民衆は疲弊しきっていた。若い共和国が、未だ「正義」の扱いに不慣れで、人心を手なづけられずにいる時代の話。現代でも「正義」はときに冷酷に物事を一刀両断してしまう。だからこそセイフティネットが必要なんだな。
キャスティングは、文句のつけようもなく、中でも、アン・ハサウェイの体当たり演技はかなり堂に入っていて、ミゼラブルな状況での哀しみをよく表現できていたと思う。コゼット役のアマンダ・セイフライドの透明感あふれる美しさがこの映画の「宝石」だ。いたいけなコゼットや勇ましい少年革命家のガブローシュも素晴らしい。

http://www.lesmiserables-movie.jp/

動員の革命

2013-01-10 | レビュー
動員の革命 ソーシャルメディアは何を変えたのか
 津田大介 2012年

 ジャーナリスト・メディアアクティビストとして、各種メディアで活躍する津田大介氏。彼の行動は、既成のメディアを攪乱しているようにもみえるが、実際は、SNSで「繋ぐ」ことで、世の中をより広い地平に向かって先導している。
 最新刊は「ウェブで政治を動かす」。時代の寵児と言ってもいいだろう。かつてのホリエモンのようなぎらついた野心などは感じられない。むしろ使命感を持って、より高度に「民主的」な社会を志向するクレバーな青年だ。 
 確かにSNSは、何らかのイシューについての動員数をスピーディーにかつ飛躍的に増やすことができる。ある意味で「革命」かもしれない。が、この先起きてくるであろう「ムーブメント」が革命を引き起こすかは別問題だ。
 

わかりあえないことから

2012-12-22 | レビュー
わかりあえないことから
 コミュニケーション能力とは何か  平田オリザ 2012年

 再び、平田オリザ である。「17歳の~」を読んだ後では、やたら説得力があるように感じてしまう。

 人間は演じる生き物なのだ。
「演じる」ことは「本当の自分を偽る」こととは違う。人格とは、様々な社会的役割、すなわち様々な仮面の総体である。むしろplayerとして様々な自分を演じることを楽しむべきである。

 コミュニケーション能力に関するダブルバインドが日本社会を閉塞させているといううのが、著者の主張。つまり、異文化交流への要請と日本社会の中での同調圧力のダブルバインドによってである。そこにはやはり、明治以降の急激な西洋化や経済成長によって置き去りにされてきたコミュニケーション教育の遅れの問題がある。その能力を身につけるべく取り組みの紹介である。

 多文化共生の昨今では、考えの違うもの同志が、コミュニケーションを通じて何とか妥協点を見いだして暮らしていかなければならない。その場合必要なのは「対話」であり、互いに「説明」をすることである。わかりあえる者同士の間に対話は必要ない。わかりあえないからこそ、粘り強く対話するのである。まずは、馴れること。

 コミュニケーションの極意?
「対話」は表現の一種である。従来の国語教科書にあるような、センテンスでは実際伝わらないのである。場面に応じた効果的な表現方法というものがある。また、無駄とも思われる人間的な表現(繰り返し・間投詞・相槌・沈黙・ダンス)が、伝えることにおいてはより効果的だったりする。逆に、受け取る側もまた、耳を澄まし、目を凝らして相手の文脈を探ることに努める必要がある。社会的弱者を扱うような微妙な現場においては、対話をしやすい環境を整える、ことも必要とされている。(コミュニケーションデザイン)

 言うまでもないことだが、舞台で、役者の演技が文脈に沿った自然なものであるほど、架空のストーリーに真実味が増し、結果、作品のメッセージを良く伝え、感動を引き起こす。演じる過程で役同士のコミュニケーションをなぞり、更に作品としてアウトプットすることで、観客とのコミュニケートを図る。つくづく演劇は面白い。