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NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

ひかり(7)

2010-03-25 07:54:16 | ひかり
ダメだと思いながらも晴美は次の週の月曜日から郵便受けを見るために何度も庭に出た。
面接をした医師や衛生士が穏やかで感じの良い人柄に見えたので、働きやすい職場のように思えてその歯科医院で働けるのを半分は期待していた。
水曜日の朝、郵便受けに白い封筒が入っていて、それは歯科医院からのものだった。
急いで開けてみると返送された晴美の履歴書と不採用通知だった。
がっかりして肩を落とした。
半分は諦めていたのにこの落胆ぶりはどうしたことだろう。
寿退職をして以来初めて受けた就職試験は晴美の生活がかかっている。
それだけに本当は期待が大きかったのに、もしもの場合を考えて受かることを否定していたのかもしれない。
また職探しをしなければならない。
その夜、子供たちが寝てから久し振りにリビングの窓を開けて山を見た。
虫の音が煩いほど聞こえてくる。
またあの白い光が虫の音に合わせるように強くなったり弱くなったりしながらぼんやりと光っている。
この光を見ていると不思議なことに、沈んだ気持ちに元気が蘇るような気がしてくるのは以前経験した時と同じなのだ。
「こんな時間に窓なんか開けて寒いじゃないの。
用心も悪いし早く閉めなさい。」
八重子がいつの間にかリビングに来ていた。
「お母さん、あそこに不思議な光が見えるのよ。
お母さんも見てみる?」
八重子が右足を引きずりながら窓際にやってきた。
「何も見えないじゃないの。」
「ほら、あそこよ。」
晴美は山を指差した。
しかし八重子には見えないようだ。
母は歳をとって目が悪くなったのだろうと解釈した。
それからは精力的にハローワークへ行ったり、求人広告を見たりして職を探したが晴美の希望する時間帯や仕事内容の一致する求人がない。
短時間で事務的な仕事というのはなかなかないものだ。
それからも時々夜に山を見るが、あの白い光は見えなくなった。
冬も過ぎ南の方から桜の便りが届き始めた。
4月になれば和樹も小学校に入学する。
フルタイムの職に就くには学童保育という手段もあるが、金銭的に負担が大きくなるのでやはり体の不自由な八重子に帰宅した子供たちの面倒を見てもらうしかない。
4月から働けるフルタイムの仕事を探し始めた。
 庭の桜がほころび始めた。
健太が逝ってからもう一年が過ぎようとしている。
葬式の時にも世話になった近所の寺の住職に依頼して、一周忌の法要をつとめることになった。
健太の両親と兄、そして晴美の妹夫婦が出席して晴美の家で行った。
法要後の食事は車で7~8分の料理屋に会席料理を注文していたのでマイクロバスが迎えにきた。
皆で健太の思い出話や子供たちのこと、晴美の現在の生活などを話しながら会食をしていた。
健太の母は思い出話になると涙を流して、
「可哀そうに。」を連発している。
健太の兄が晴美に同情を示したのか、
「晴美さん、子供たちもまだ小さいのでこれからが大変だね。
就職先が見つからないようだが私も心当たりを探してみます。」
「よろしくお願いします。」
と頼んだが晴美は殆ど当てにしていなかった。


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