NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

ひかり(6)

2010-03-25 08:53:08 | ひかり
 もの憂う秋がやってきた。
庭の桜の葉が赤くなり、家から見える山も少しずつ赤や黄に濃く染まってきた。
街路樹のイチョウの葉が散り、草木が茶色を帯びてくるに従い、心のすき間を埋められない晴美は将来への不安もあり寂しさがどんどん増してくる。
子供たちは学校や幼稚園で、今日も晴美は母の八重子と二人で昼食をとっていた。
前日の残りの野菜の煮ものと鶏のから揚げ、八重子にはイワシを焼いた。
「そろそろ勤めに出ようかしら。
お母さんもこの頃元気になったし、午前中だけの仕事なら何とか勤められそうに思うの。」
「家の中にいると気の滅入ることもあると思うけど、健太さんの一周忌が済むまでは外に出ない方がいいのじゃないかしら。」
「今日ね、大通りの坂口歯科の入口に<受付事務員募集>の張り紙がしてあったのよ。
午前と午後の勤務があって、午前は9時から13時までで、午後は16時から20時までと書いていたわ。
午前だけでも午後だけでも良いらしく、希望するならその両方の勤務でも良いと書いていたのよ。
和樹の幼稚園は水曜日だけが午前中に帰ってくるけれど、お母さんが家にいてくれるから心配ないと思うので午前だけ勤めることにして応募してみようと思うの。
どうかしら。」
「晴美が勤めたいのなら無理には止めたりはしないわよ。」
坂口歯科医院は晴美の家から1キロほどの所にあり、距離的にも近い場所だ。
早速坂口歯科医院に電話をしてみた。
今週の土曜日午後2時から面接をするので履歴書をを持って来るようにとの返事だった。
 土曜日 晴美は午後2時15分前に歯科医院の玄関ドアを開けた。
入ると直ぐに待合室があって、布張りの長椅子が窓際に並べてあり、晴美より少し若いと思われる女性が二人その椅子に掛けていた。
話をしてみると二人とも面接試験を受けに来ているという。
一人は31歳で幼稚園児が一人いて夫の両親と同居しているという。午前中の勤務を希望していた。
もう一人は24歳の独身で午前と午後の両方の勤務を望んでいるという。
勤務時間の合い間に習い事をするのだそうだ。
2時になり、診察室から白衣の女性が出てきて一番若い女性の名前を呼んで中に入るよう促した。
その間にもう一人の女性と話をしていて知ったことだが、この医院は歯科医が二人と衛生士が二人、歯科技工士が一人いてかなりよく流行っているらしい。
事務の仕事も忙しいそうだ。
晴美の面接は最後で、診察室の奥の部屋に案内された。
狭い部屋に大きなテーブルと椅子が何脚かあり、小さな食器棚や湯沸かしポット、コーヒーメーカーなどが見える。
ここは休憩室なのだろうか。
テーブルの正面に白衣の50歳くらいの男性が座っていて、その前の椅子に座るよう指示された。
履歴書を出して、家庭のことなど問われるままに答え、午前の勤務を希望することを伝えた。
結果は来週の初めに郵送で連絡するとのことだった。
どうも受かるようね気がしない。
39歳の晴美は自分より若いあの二人に条件的に劣っているような気がするのだ。


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