新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

ハイキングに里山再生、れんちゃんとお父さんの日々。

搾取される若者たち

2021年05月19日 | ニュース

5月18日、Twitterのタイムラインに、「詐欺受け子(21)逮捕 コロナで仕事無く……」というTVニュースの画面キャプチャが流れてきた。ニュースにリンクを貼ろうと思ったが、実名で報道されてしまっている。高齢者を狙った卑劣な犯罪ではあるけれど、将来ある21歳の青年のことだし、やり直しを応援する意味でも拡散はしない。以下、名前を伏せた上で記事を要約する。

容疑者は詐欺グループの現金受取役と見られる21歳の青年。容疑は、詐欺を見抜いた男性に暴行をふるったことである。

警視庁によると、××容疑者は現金をだまし取ろうとして80代女性の自宅を訪れた。近くに住む元警察官の男性が、「お前、詐欺だろう」と取り押さえようとすると、この男性を引きずり倒し、リュックサックを残して逃亡。

リュックの中には住所を示す宅配伝票、「東京でお金持ちになる」などと書かれたメモがあった。取り調べに対し「引きずり倒していない」と容疑を一部否認している。

××容疑者は福岡県のホストで、2日前に上京してきたばかりだったという。「4月に東京に出てきた」「歌舞伎町でホストをして稼ごうと思ったが、コロナで仕事が無かった」と供述しているということである。

なんともやりきれない話である。何もかもCOVID-19が悪い。私の関心を引いたのは、この青年が持っていたというメモである。



R.2.10月
■■■■
■■■■■■■■
■■■■■■■■
■■■■
■■■■■■(伏せ字)
のこれから
必ず おこす おこる事 
おきる事


○全てうまくいく
○お金持になる
○良い環境になる
○きれいな家に住む
○一生捕まらない
○有名ホストになる
○めんどくさい仕事も全てなくなる
○東京に出るともっと有名、お金持ちになる
○であう人全て良い人
○仲間が増える
○ぶりもてる
○やりたい事やるだけ
○TVに出れる
○めぐまれる
○くそデカイ男になる(中身)
○ぶりイケメンになる
○そんけいされる人間になる
○あきらめんな
○マイナス思考をなくせ
○全てプラス思考
○全て自分次第
○2ヶ月45万ためる たまる
○人生週間少年ジャンプ

左下のサインペンで書かれたフレーズがよく読めない。「●服屋たてる」と読めるのだが(●は何と読むのか)、アパレルの仕事に興味があったのだろうか。「週間少年ジャンプ」は「週刊少年ジャンプ」だが、メモのとおりにしてある。「友情・努力・勝利」のジャンプ三原則? と思ったが、そうではなくて、ラップの歌詞のフレーズのようだ。ジャンプでイメージされている作品は、『鬼滅の刃』というより、『ONE PIECE』あたりか。ルフィの名言を集めた自己啓発本などがあった。『ONE PIECE』と自己啓発ビジネスとホストとの相性はよさそうだ。

この元ホストの青年も、マルチや自己啓発ビジネスにハマってしまう若者の典型例かもしれない。記された日付から、この決意のメモを半年間、大切に持ち続けていたかと思うと(途中で書き足すこともあったのだろう)、なんともいじらしい。このメモには、いまどきの若者の真面目さと切実さ、脆さと弱さ、甘さと愚かさを感じないではいられない。被害者の高齢者は自分をお金持ちにしてくれる上等なカモであり、「であう人全て良い人」とは矛盾しなかったのだろう。願わくは初犯で、重い刑罰にもならず、また再スタートしてくれることを祈る。


華やかに見えるホストの世界も厳しい。こんな記事を読んだ。

「これは若さの搾取だ」時給555円の底辺ホストはコロナ禍で歌舞伎町から消えた
https://president.jp/articles/-/44749?page=1

「長いスパンでキャリアを考えているんです。目先のお金よりも経験を買いたいと思ってホストをしています」と語っていたホストのA君は、コロナ禍で店が2週間営業停止になり、収入が半減し、そしてクラブのHPからも名前が消え、音信不通になってしまったという。

二人の青年に共通するのは、プラス思考、ポジティブ思考、前向きなことだ。しかし一人は詐欺の片棒をかつぎ、もう一人は歌舞伎町から消えてしまった。

しかし、マイナス思考、ネガティブ思考はそんなに悪いものなのか。何事にもリスクやデメリットはつきものなのに、プラス思考、ポジティブ思考はそうしたものから目を背けさせる原因にもなる。

姿を消したホストくんは手取り十万円だったが、何の説明もなく「厚生費」を引かれていることに疑問を持たず、「僕も具体的には知らないです。気にならないと言えばうそになるんですけど。気にしなくなるほど稼げばいいんじゃないか!っていう発想転換してます」と「ポジティブ」に答えるのみだった。マルチ商法・詐欺行為と批判される西野某のオンラインサロンで「カモ」になる若者は、彼のような若者なのだろう。若者には若さ(+体力)しか財産がないのに、その若さを搾取して肥え太る連中をこれ以上のさばらせてはいけない。

トップホストをめざし、一攫千金の夢をみるのもいいと思う。もし自分にせがれがいて、ホストになりたいと言い出したら、「やってみろ」というと思う。ただし、ホストを卒業したときに備えて、外国語を習得したり、手に職を付けることは厳命するだろう。自身もホスト遊びを嗜むライター氏が指摘するように、自分の「賞味期限」を見極めた上で、あらかじめ期間を設定しておかねばなるまい。アニメの仕事などもそうだけれど、「夢」のある仕事には競争相手も多く、やりがい詐欺も常態化している。これは義務教育で教えておくべきことではないのか。

私たちの時代の教育が良かったとはちっとも思わないが、退屈な授業も作家や作品との出会いになり、本を読む時間だけはあった。

Twitterのネガティブちゃんは元気だろうか? かつてネガティブちゃんに贈ったことば。

「物を単純に考える人は、悲観的だ涙脆い気持ちだといって、いけないものとしているが、人間はいつもにこにこ笑っているものばかりのものではありません。さびしく或は悲しい気持ちになった時に、はじめてほんとうの自分というものを考えてみるものです」(折口信夫『歌の話』)



最新の画像もっと見る