「パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ」(Kindle版)
久しぶりに熱中できる本に出会った。全部吸収したいのでゆっくり熟読した。パラレルワールド(並行宇宙): 11次元の宇宙から超空間へという副題がついている。ミチオ・カクというニューヨーク市立大学の理論物理学の教授が書いた本だ。(原著は英語。日本語版はNHK出版からでている。)タイトルだけ見るとSFの本と見間違うが、れっきとした宇宙物理学の本である。
相対性理論や量子論の勉強にとりかかる前に、現在までの宇宙物理学の全容を把握しておこうということで読み始めた。数式は一切でてこない。著者の雄弁な語り口で、現在に至るまでのの宇宙物理学の発展を細かく理解できる。
物質は原子で構成されていて、原子は原子核と電子からなる。さらに原子核は陽子と中性子と中間子からできている。ここまでは高校で学習する。それ以降の物理学では、陽子や中性子、中間子がクォークとよばれるいくつかの種類の粒子でできていることが確認された。そして最新の物理学ではクォークは実は粒子ではなく、ごく微小ないくつかのパターンの「ひも(弦)」が振動している状況がいろいろな種類の粒子としてクウォークを見せている原因だというのだ。これを「超ひも理論」という。また、5つの超ひも理論を統一した「M理論」というのもあり、これは11次元空間に存在する超ミクロの「膜」に「ひも」を拡張したものだそうだ。そしてこれら原子よりもずっと小さい「ひも」や「膜」の近傍に別の宇宙につながるミニ・ブラックホールが存在するだとか、そこに別の次元があるとか、私達のいる宇宙の他にも無数の宇宙(パラレルワールド)があるとかいう話があたりまえのように解説されている。
「超ひも理論」や「M理論」はまだ数学的な仮説の段階だが、空間や時間、重力をはじめとする4つの力、相対性理論や量子論から現代に至るまでの物理理論をすべて矛盾なく取り込むことができている。
とにかく時間的にも空間的にもスケールの大きい話ばかりで5ページ読み進むたびに奇想天外な理論が繰り広げられ読者を飽きさせることがない。この素晴らしい本に出会えて本当によかったと思う。
数式は一切出てこないし、ものすごく説明がわかりやすい。いろいろな人にお勧めしたい本だ。
今後の勉強予定:
ゼロから学ぶ量子力学(竹内薫 著)見てみる
道具としての相対性理論(一石賢 著)見てみる
以下は竹内薫先生によるこの本の書評である。
http://kaoru.txt-nifty.com/diary/2006/03/index.html
書評:パラレルワールド
「パラレルワールド」ミチオ・カク(著)、斉藤隆央(訳)NHK出版
現代物理学からみた並行宇宙(パラレルワールド)の解説書である。
第一部「宇宙」では、われわれの宇宙について、現在わかりつつある科学的な事実が紹介される。
たとえば、われわれの宇宙は、アクセル全開で、ぐんぐんスピードをあげながら、加速膨張をつづけている。
このままいくと、いずれ、宇宙はバラバラにちぎれ飛んで、絶対零度まで冷たくなって、真っ暗になってしまう。なんとも恐ろしい未来だ。
続く第二部「マルチバース」では、いよいよ、宇宙が(われわれのもの以外にも)たくさん存在する、という驚くべき仮説が登場する。
「今、マルチバースの概念が、『宇宙(ユニバース)』という言葉自体を廃れさせてしまう新たなパラダイム・シフト(思想的枠組みの転換)をもたらしている」(410頁)
もしかしたら、宇宙に数多く存在するブラックホールは、すべて、他の宇宙への入口かもしれない。
超ひも理論によれば、われわれの宇宙は、本当は十一次元の拡がりをもっている。その高次元の中で、並行宇宙は、われわれの宇宙から、たった一ミリという目と鼻の先に浮かんでいるかもしれないのだ。
われわれを取り巻く時間と空間は「ユニ(唯一)」ではなく「マルチ(複数)」であることが物理学者たちの間では常識となりつつある。
第三部「超空間への脱出」では、加速膨張により冷え切って希薄になった死の宇宙を抜け出て、われわれの子孫が並行宇宙へと脱出する可能性が探られる。
そのシナリオは、はたして物理学なのか、それともSFなのか。(実際、本書には、SF小説からの引用が非常に多い。)
著者のミチオ・カクは、超ひも理論の研究で有名な物理学者で、数多くの専門論文や教科書のほかに、一般書も著している才人だ。
知の第一線で活躍する科学者による「パラレルワールド」の報告は、われわれの想像力を宇宙へと誘い、改めて人生の意味を問い直すきっかけを与えてくれる。
(竹内薫・サイエンスライター、共同通信社、地方新聞各紙掲載)
応援クリックをお願いします!
「パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ」(Kindle版)
第Ⅰ部 宇宙
第一章 宇宙が赤ん坊だったころ
第二章 パラドックスに満ちた宇宙
第三章 ビッグバン
第四章 インフレーションと並行宇宙
第Ⅱ部 マルチバース
第五章 次元の入口とタイムトラベル
第六章 量子論的な並行宇宙
第七章 M理論──すべてのひもの母
第八章 設計された宇宙?
第九章 十一次元のエコーを探す
第Ⅲ部 超空間への脱出
第十章 すべての終わり
第十一章 宇宙からの脱出
第十二章 マルチバースを超えて