とね日記

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量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

宇宙創成はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ

2014年08月26日 12時45分47秒 | 天文、宇宙
宇宙創成はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ

内容
本書は、宇宙輻射背景や軽い元素の存在量についての最近の観測結果と素粒子物理学の知識を駆使して、開闢してまもない宇宙を本格的に分析し解明した、初めての一般書である。ここには、宇宙が爆発的に開闢してから100分の一秒で、輻射のなかに電子と陽電子とわずかな陽子、中性子がとけていた1000億度の熱い宇宙スープが、膨張につれて急速に冷えてゆき、ついに10億度で、今日われわれが見ている物質が形をとりはじめたところまでの約三分間が、感動的に描かれている。さらにワインバーグは、素粒子についての最新の考え方にもとづいて、より以前のより熱い宇宙を理論の目をもって探っている。宇宙の極大温度とか、宇宙の相転移といった考えは、人間の知的推理活動の限界を示すひとつとして、読む人の興奮をさそわずにはおかないだろう。
有史以来、強烈なイメージを伴って人類が語り続けてきた宇宙誕生の物語。物理学の知識や天体観測の技術が飛躍的に向上した現在、われわれが「見る」ことのできる天地創造はどのようなストーリーだろうか?読者はワインバーグの易しく明快な語り口をガイドに、開闢間もない宇宙の姿を目の当たりにするだろう。文庫化にあたり、原著が出版されてからCOBE衛星による最近の観測までを概観した原著者自らによる追補を新たに収録、「ビッグバン宇宙論」を一躍有名にした古典的名著の決定版。2008年9月刊行、327ページ。


著者略歴
スティーブン・ワインバーグ
1933年、ニューヨーク生まれ。コーネル大学を卒業し、コロンビア大学でPh.D.を取得。現在テキサス大学教授。専門は素粒子物理学。1979年にS.グラショウ、A.サラムとともに電弱理論への貢献でノーベル物理学賞を受賞

翻訳者略歴
小尾信彌
1925年、東京生まれ。東京帝国大学理学部天文学科卒業。東京大学名誉教授。理学博士。専門は天体物理学


理数系書籍のレビュー記事は本書で256冊目。

ビッグバン宇宙論を一躍有名にし、現代も読み続けられている古典的名著である。英語版は1977年初版、1988年改訂第1版、1993年改訂第2版が刊行され、それぞれに対応する日本語版は1977年、1995年、2008年に刊行された。翻訳は天体物理学者の小尾信彌先生。数多くの啓蒙書を翻訳または著述し天文ファンの間で広く親しまれている研究者だ。現在89歳。

この本は中学生のときすでに僕は書店で見て知っていた。「最初の3分間」というタイトルはインパクトがある。宇宙の始まりの最初の3分間なのだ。そんなことがいったいどうしてわかるのだろう?

僕はそういう高尚な疑問を持ったわけではない。その当時の僕にとって「3分間」という言葉で思い浮かぶのはカップ麺ができあがるまでの時間だった。

「著者は本が売れるように、カップ麺の「3分間」という言葉をわざとキャッチコピーとして使ったに違いない。」

これが僕の第一印象だった。そういう安易なタイトルをつけるのは好ましくないと思い切り勘違いしていたので購入には結びつかなかった。

当時の僕は素粒子物理学のことなど全く知らなかったし、外国人のノーベル物理学賞はアインシュタインしか知らなかったから無理もない。ワインバーグという名前で想像できたのはハンバーグだけだった。この本のことよりもむしろ当時の僕は「ニュートンはなぜノーベル賞を受賞していないのだろう?」という疑問ほうが気になっていた。少年時代の「とんちんかんぶり」を思うと恥ずかしくて仕方がない。(と言いつつ書いてしまったが。)


そして30年ぶりに本書と出会い、今度こそはと真面目に読んだわけなのだ。

文庫本として出版された一般向け科学教養書とはいえ、本書は文字がぎっしり詰まっているだけでなく内容も高度だ。2~3回読まないと頭に入っていかないと思った。もし中学生や高校生の頃に読んだとしても、きっと途中で投げ出していただろう。読み解くためには科学教養書レベルであっても素粒子物理学のあらましを知っていることが前提となる。(電子、光子、陽子、中性子、中間子、ニュートリノおよびそれらの反粒子など。)一般相対論や量子力学は知らなくても読めると思う。

初版が出版された1977年当時、本書は一般の科学愛好者に広く読まれただけでなく天文学や物理学の専門家にも大きな影響を与えた。特に素粒子物理学者の関心を宇宙論に向けさせたという点で科学史の上でも大きな役割を果たしている。宇宙始まりの謎は素粒子物理学そのものと言ってよいからだ。そして巨大素粒子加速器が必要な理由を明確にし、建設予算承認のための大きな推進力となった。

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」は主にこの20年の成果を知るのにうってつけで「科学教養書初心者」でも読みやすい。それに対して本書では1977年頃までに解明された宇宙誕生後100分の1秒から34分後までを6つのフレームに分け、宇宙を構成する素粒子(原子はまだ構成されていない)がどのような割合で、どのような状態であったかがとても詳しく解説されている。

僕は読む順番が逆になってしまったが、専門書の「ワインバーグの宇宙論(上巻)」にチャレンジするのであれば本書を先に読んでおいたほうがよいとあらためて思った。

巻末に添えられている14ページほどの「数学ノート」は特に有益だ。「NHK宇宙白熱教室」で紹介されたドップラー効果や宇宙膨張の計算も含めて、次のようなことを高校、大学初年度レベルの数式で計算して見せてくれている。

- ドップラー効果
- 臨界密度
- 膨張の時間スケール
- 黒体輻射
- ジーンズ質量
- ニュートリノの温度と密度


翻訳のもとになったのはこちらの英語版だ。改訂第2版(1993年)である。

The First Three Minutes (2nd Updated Edition, 1993: S.Weinb)erg」(Kindle版




関連記事:

発売情報:ワインバーグの宇宙論(上)(下)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3aab4560e20f675285c35002fc96dfab

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20


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宇宙創成はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ



訳者まえがき(1995年、小尾信彌)
序(1976年、S.ワインバーグ)
ペーパーバック第2版の序(1993年、S.ワインバーグ)

序章:巨人と雌牛
宇宙の膨張
宇宙マイクロ波輻射背景
熱い宇宙の処方
最初の3分間
歴史的なよりみち
最初の100分の1秒間
エピローグ:これからの展望

原著者追補1:1976年以降の宇宙論
原著者追補2:1977年以降の宇宙論
解題『宇宙創成はじめの3分間』(佐藤文隆)

補遺
- 表1:いくつかの素粒子の性質
- 表2:いくつかの輻射の性質
- 用語解説
- 数学ノート
- もっと勉強したい人のために

文庫版あとがき
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8 コメント

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Unknown (プロのド素人)
2014-08-29 13:58:54
こんにちわ。はじめまして。
仕事は全くの畑違いですが、ここ1年近く、物理にはまっております。

きっかけは、とね様のブログでも取り上げていましたが、NHKの「100分で名著」の「相対性理論」の番組でした。
私は学生を卒業して多くの時間が経過した、30後半ですが、高校生時代に買った雑誌Newtonの相対性理論という本が何を言っているかわからず、当時は自分には全く物理的素養がないと思ったくらいです。

あれから20年近く経過しましたが、たまたまテレビをつけたとき、佐藤教授のやさしい口調で相対性理論を素人向けに解説していました。
内容は素人向けにしているのでしょうが、あまりの感動に思わず本を買ったくらいです。
そこがスタートで、とね様のブログにある「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る  大栗 博司 (著)」をよみ、挫折(苦笑)。
たとえば重力の説明の「欠損角?」の話、フラットランドの話など、もう理解ができなくなりました。
その後、とりあえず読み進めてみると量子論の話になり、ますますわからず、そこで佐藤教授の500円で販売している「量子論がみるみるわかる本」を購入。

あまりに自分が知っている世界(粒の世界)とは全く違うことにびっくりしたともに、科学が哲学や思想にまで及んでいること(シュレディンガーの猫)にはっとさせれれました。

そこで、今度は、「素粒子論はなぜわかりにくいのか?」を読んでみたところ、これがまたわかりにくいのなんの。

結局、素人には500円程度のやさしい本から一歩踏み出そうとすると、もう理解できなくなるんですよね・・・NHKの「万物の理論」の放送をみましたが、そこから書物の形で少し詳しく知りたいと思うと、すぐに理解不能になる・・・

そこで、豊富な経験をもつとね様に、入口から一歩先に至るまでの上手な橋渡しになるような書物を教えていただきたいのです。内容は量子論、あるいは相対性理論です。
なにとぞよろしくお願い致します。

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プロのド素人さま (とね)
2014-08-29 15:29:29
プロのド素人さま

はじめまして。ブログをお読みいただきありがとうございます。
大栗先生の「重力とは何か」に挑戦されたのですね。この本はわかりやすい文章で数式を使わずにというコンセプトで書かれているのと、文字が主体の本ですのではじめて物理に入門される方には難しいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。そのことを前提にいくつかみつくろってみました。

「量子論」を楽しむ本―ミクロの世界から宇宙まで最先端物理学が図解でわかる! (PHP文庫)
「相対性理論」を楽しむ本―よくわかるアインシュタインの不思議な世界 (PHP文庫)
シルヴィアの量子力学

みるみる理解できる相対性理論―特殊相対性理論も一般相対性理論も実はむずかしくなか (ニュートンムック Newton別冊サイエンステキストシリーズ)

量子論―相対論と双璧をなす物理学の大理論 (ニュートンムック Newton別冊)
未来はすべて決まっているのか―ニュートン力学vs.量子論 (ニュートンムック Newton別冊)
光とは何か?―みるみるよくわかる (ニュートンムック Newton別冊サイエンステキストシリーズ)

科学雑誌Newtonの相対性理論は高校時代には難しすぎたようですが、今なら読めるかもしれません。文章と視覚の両方から学んだほうがわかりやすいと思いましたので、お勧めさせていただきました。

「時間」と「光」はとても不思議で、物理学では特に重要です。最後の2冊はその意味から選ばせていただきました。

これらの本をお読みになってから大栗先生の書かれた3冊「重力とは何か」、「強い力と弱い力」、「超弦理論入門」に再チャレンジされるとよいと思います。

「素粒子論はなぜわかりにくいのか?」は大栗先生の本や南部先生の「クォーク」などの本を読んで素粒子物理学の難しさを知ってから読むような本です。今読んでも難しいとお感じになるのは当然のことですのでご安心を。科学教養書の中では上中下の「上クラス」の難易度です。
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階段 (hirota)
2014-08-29 17:09:47
科学ってのは一段づつ上れば簡単なのに、手抜きすると突然意味不明になるもんですからねー。
ただし、易しい登頂ルートは各人によって違うので他人の方法が自分に合うかどうか分からないのが問題ですが。
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Re: 階段 (とね)
2014-08-29 20:13:55
hirotaさん

一般の人にとって科学教養書はどれが難しくて、どれが易しいのか、どれが自分に合っているのかを見分けるのが難しいでしょうから「階段」を飛ばして進んだとしても気が付かないですよね。hirotaさんがおっしゃるように登頂ルートも人によって違いますし。

上でコメントをくださった「プロのド素人さま」のように、これまでの読書経験や感想などを示していただくと、次に読むとよい本を紹介しやすくなります。
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横から失礼します。 (T_NAKA)
2014-08-29 21:52:16
相対論なら(福島肇)「新装版_相対論のABC」http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062575614 もお勧めです。ピタゴラスの定理が分かっていれば理解できるでしょう。量子論の本は中々良い本が思いつきません。あえて言えば「高校数学でわかるシュレディンガー方程式」http://bookclub.kodansha.co.jp/product?code=257470 でしょうかね。
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Re: 横から失礼します。 (とね)
2014-08-29 22:02:12
T_NAKAさん

本を紹介していただき、ありがとうございます。「新装版 相対論のABC」は見たことありませんので、書店で実物を見てみますね。
返信する
Unknown (プロのド素人)
2014-08-29 22:29:32
本屋さんにいってきました!
座れる本屋なので、助かります。

まず、紹介していただいた本をすべて見てきました。
いずれも簡単に手に入るものでしたので助かりました。
早速、光についてのNewtonの雑誌を買うことにします。

ちなみに、高校数学でわかるシュレディンガー方程式もみてきましたが、
これが高校数学か?と思うくらい。。。
サイン、コサイン、タンジェントなんか忘れてしまった。

素人は結局は雑誌ニュートンまでが限界なんだろうと思うね、寂しいが・・・
返信する
プロのド素人さま (とね)
2014-08-29 22:42:20
プロのド素人さま

行動が素早いですね!
「光とは何か?」はとてもよい本です。光のもつさまざまな側面を知ることができます。
「高校数学でわかる~」シリーズはどれもよい本なのですが、高校の数学IIIまで終えていないと読むことができません。もし今後数式で物理学を学びたくなったら次の記事で紹介している数学書をお読みになるとよいでしょう。

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7
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