とね日記

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福島の原発事故をめぐって― いくつか学び考えたこと:山本義隆

2015年08月31日 22時29分29秒 | 日記
福島の原発事故をめぐって― いくつか学び考えたこと:山本義隆」(Kindle版

内容紹介:
「まえがき」より
事故発生以来、日本の原発政策を推進してきた電力会社と経済産業省(旧通産省)と東京大学工学部原子力工学科を中心とする学者グループ、そして自民党の族議員たちからなる「原子力村」と称される集団の、内部的には無批判に馴れ合い外部的にはいっさい批判を受け入れない無責任性と独善性が明るみにひきだされている。
学者グループの安全宣伝が、想定される過酷事故への備えを妨げ、営利至上の電力会社は津波にたいする対策を怠り、これまでの事故のたびに見られた隠蔽体質が事故発生後の対応の不手際をもたらし、これらのことがあいまって被害を大きくしたことは否めない。その責任は重大であり、しかるべくその責任を問わなければならない。

本質的な問題は、政権党(自民党)の有力政治家とエリート官僚のイニシアティブにより、札束の力で地元の反対を押しつぶし地域社会の共同性を破壊してまで、遮二無二原発建設を推進してきたこと自体にある。
一刻もはやく原発依存社会から脱却すべきである―原発ファシズムの全貌を追い、容認は子孫への犯罪であると説いた『磁力と重力の発見』の著者、書き下ろし。
2011年8月刊行、114ページ

著者について:
山本義隆(やまもとよしたか)
1941年大阪生まれ。大阪府出身。大阪市立船場中学校、大阪府立大手前高等学校卒業。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。 東京大学大学院博士課程中退。
1960年代、学生運動が盛んだったころに東大全共闘議長を務める。1969年の安田講堂事件前に警察の指名手配を受け地下に潜伏するが、同年9月の日比谷での全国全共闘連合結成大会の会場で警察当局に逮捕された。日大全共闘議長の秋田明大とともに、全共闘を象徴する存在であった。
学生時代より秀才でならし、大学では物理学科に進んで素粒子論を専攻した。大学院在学中には、京都大学の湯川秀樹研究室に国内留学しており、物理学者としての将来を嘱望されていたが、学生運動の後に大学を去り、大学での研究生活に戻ることはなかった。
その後は予備校教師に転じ、駿台予備学校では「東大物理」などのクラスに出講している。一方で科学史を研究しており、当初エルンスト・カッシーラーの優れた翻訳で知られたが、後に熱学・熱力学や力学など物理学を中心とした自然思想史の研究に従事し今日に至っている。遠隔力概念の発展史についての研究をまとめた『磁力と重力の発見』全3巻は、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を受賞して読書界の話題となった。

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鹿児島県の川内原発1号機が今月11日に再稼動し、来月10日に営業運転を始めるそうなので、原発についてもう一度考えてみようと思って「原子・原子核・原子力―わたしが講義で伝えたかったこと:山本義隆」を読んで紹介したが、引き続き同じ著者の本書を読んでみた。こちらは数式なしの本なので広く一般の方にお読みいただける。

本の内容紹介では自民党の族議員、通産省、学会、民間企業からなる「原子力村」と呼ばれる集団による無責任性と独善性が強調されているが、それはあくまで本書の最後の数ページに結論として書かれていることだ。本書全体の印象とは異なっている。

その結論に至るまでに、むしろ本書で主張されていることは次のような事がらである。

- 原子力技術は原爆を開発するために極めて短期間に進められた未熟な技術であること。
- 原発は「原子力の平和利用」をスローガンにした戦後アメリカの政策の延長にあること。
- 「平和利用」とは軍事目的と表裏一体であること。
- 日本は一流国とみなされるために「原子力発電所を開発運用する技術」、「ロケット開発技術」を保持し軍事転用できる可能性を保持しておく必要があること。
- 日本(そして他の国においても)原子力発電所のような巨大で複雑な装置は安全性を確保する形で建造することが現代の技術をもってしても不可能なこと。
- いくつもの企業の下請け構造の中で問題点は無視され、隠蔽されてきたこと。
- 設計から建設、稼動、点検、修理のあらゆるプロセスで事故や人為的ミスが発生していること。(つまり安全基準をいかに高く設定しようと、事故は防げないこと。)
- 「日本の優れた技術力」というのは、部品や発電所のそれぞれの部分を製造する技術についてであり、原発全体の安全性はほとんど確認できていないこと。
- 修理の際にも原発を停止することは認められず、作業員を命の危険にさらして作業を強いていること。(原発を停止すると1日数億円の損害が生じるため。)

これが1970年代から1990年代にかけてつぎつぎに建設され、稼動していた原発の実態だと思うとぞっとする。

東日本大震災から昨年までNHKスペシャルではたびたび福島第一原発でおきていた新事実が明らかにされ、そのたびに驚きと絶望感に襲われてきたのだが、それらはあくまでこの原発についてのこと、巨大地震や津波に関連しての内容である。日本中の原発の信頼性そのものに疑問を投げかける放送はされていなかった。

本書のタイトルは「福島の原発事故をめぐって」であるが、それにとどまらず日本の原子力政策全体の罪を過去にさかのぼって告発する本なのだ。


よく耳にする次のような反論に対して、山本先生は次のようにお書きになっている。

- 科学技術にリスクはつきもの。原発から得られる利益はリスクをもってしても余りある。リスクを恐れずに進むのが人類のとるべき道だ。

山本先生のお考え:それは核エネルギー以前の科学技術に対して認められることだ。放射線被害は将来の何世代に渡って甚大な負の遺産を子孫に残すのでリスク以前の人道的、倫理的問題である。また原発の場合、発電所周辺の住民がリスクをとり、利益を受けるのは都市部の企業や住民なので、その論理は当てはまらない。

- 原発を廃止すれば、電力不足、電力料金の値上げによる経済活動への悪影響がある。

山本先生のお考え:放射性廃棄物の危険性、安全保管が不可能である以上、多少の不便や不利益は耐えるべきである。特に日本はこれから人口減少社会を迎え、エネルギー需要は減っていくのだから経済活動を支えるだけの原発に頼らずとも電力はじゅうぶん足りる。

- 原子力発電はクリーンなエネルギーである。

山本先生のお考え:とんでもない誤解だ。原発を稼動することにより膨大な量の「死の灰」と呼ばれる核のゴミ(断片)を排出し、海洋を汚染し、将来数十万年に渡って地球を汚染し続ける。出力100万キロワット規模の原発を1日稼動させるのに必要とするウランは1日あたり広島型原爆1つぶんに相当し、1年稼動させると広島型原爆が撒き散らした「死の灰」の約1000倍の「死の灰」を残すこと。原発設備点検ののときでも多量の放射性廃棄物を排出する。放射性廃棄物を処理するためには多量の電力、つまり石油を必要とする。


鹿児島県の川内原発1号機の営業運転を直前に控えた今、もう一度この問題を考えていただきたいと僕は思うのだ。本編は94ページで余白も広くとってあるので2~3時間あれば読めると思う。ぜひお買い求めになっていただきたい。

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9月1日に追記:

この記事を書いた翌日に次のようなニュースが飛び込んできた。

IAEA最終報告書「原発が安全との思い込み」
9月1日 11時53分 (NHKニュース)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150901/k10010211871000.html

IAEA=国際原子力機関は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を総括する最終報告書を公表し、事故の主な要因として「日本に原発が安全だという思い込みがあり備えが不十分だった」と指摘したうえで、安全基準を定期的に再検討する必要があると提言しました。
IAEA=国際原子力機関は31日、福島第一原発の事故について40を超える加盟国からおよそ180人の専門家が参加してまとめた1200ページ以上に上る最終報告書を公表しました。
この中でIAEAは、事故の主な要因として「日本に原発は安全だという思い込みがあり、原発の設計や緊急時の備えなどが不十分だった」と指摘しました。
そのうえで、いくつかの自然災害が同時に発生することなどあらゆる可能性を考慮する、安全基準に絶えず疑問を提起して定期的に再検討する必要がある、と提言しています。
また、市民の健康については、これまでのところ事故を原因とする影響は確認されていないとしたうえで、遅発性の放射線健康影響の潜伏期間は、数十年に及ぶ場合があるものの、報告された被ばく線量が低いため、健康影響の発生率が将来、識別できるほど上昇するとは予測されないとしています。
IAEAは、この報告書を今月行われる年次総会に提出して、事故の教訓を各国と共有し、原発の安全性の向上につなげたいとしています。

「経験から学ぶ姿勢が安全の鍵」

今回の報告書について、IAEAの天野事務局長は「世界中の政府や規制当局、関係者が、必要な教訓に基づいて行動を取れるようにするため、何が、なぜ起きたのかについての理解を提供することを目指している」と述べ、その意義を強調しました。
そのうえで、事故の甚大な影響を忘れてはならないとし、「福島第一原発の事故につながったいくつかの要因は日本に特有だったわけではない。常に疑問を持ち、経験から学ぶ開かれた姿勢が安全文化への鍵であり、原子力に携わるすべての人にとって必要不可欠だ」と述べ、事故の教訓を原発の安全性の向上につなげてほしいと訴えました。

安全の問題に責任と権限が不明確

IAEAは、福島第一原発の事故の背景には、原発は安全だという思い込みが日本にあり、重大な事故への備えが十分ではなかったと指摘しています。
具体的には、仮にマグニチュード8.3の地震が発生すれば最大で15メートルの津波が到達することが予想されたのに、東京電力などが必要な対応を取らなかったとしているほか、IAEAの基準に基づく十分な安全評価が行われず、非常用のディーゼル発電機の浸水対策などが不十分だったとしています。
また、東京電力は、複数の場所で電源や冷却装置が喪失した場合の十分な準備をしていなかったほか、原発の作業員は非常時に備えた適切な訓練を受けておらず、悪化する状況に対応するための機器もなかったと結論づけています。
さらに、当時の日本の原子力の安全や規制については、多くの組織が存在していて、安全上の問題に遅滞なく対応するために拘束力のある指示を出す責任と権限がどの組織にあるのか明確ではなかったとしています。
そのうえで、当時の規制や指針は国際的な慣行に完全に沿うものではなかったとも指摘しています。

これまでのところ健康影響確認されず

市民の健康について、IAEAは、これまでのところ、事故を原因とする影響は確認されていないとしています。そのうえで遅発性の放射線健康影響の潜伏期間は、数10年に及ぶ場合があるものの、報告された被ばく線量が低いため、健康影響の発生率が、将来識別できるほど上昇するとは予測されないとしています。
そして、甲状腺検査の結果、一部で異常が検知された子どもたちについては、被ばく線量が低いことから、事故と関係づけられる可能性は低く、この年代の子どもたちの自然な発生を示している可能性が高いと分析しています。ただ、事故直後の子どもの被ばく線量については不確かさが残るともしています。
一方で、地震や津波などいくつかの要素が関わっているとみられるため、どこまでが原発事故の影響かは判断することは難しいものの、住民の中には、不安感やPTSD=心的外傷後ストレス障害の増加など、心理面での問題があったと指摘しており、その影響を和らげるための対策が求められると強調しています。

東電旧経営陣3人強制起訴へ

福島第一原子力発電所の事故を巡っては、検察審査会の議決を受けて旧経営陣3人が業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴されることになり、今後、裁判で刑事責任が争われます。
政府の事故調査・検証委員会の報告書によりますと、東京電力は事故の3年前に福島第一原発に高さ15.7メートルの津波が押し寄せる可能性があるという試算をまとめましたが、根拠が十分でない仮定の試算で実際にはこうした津波は来ないなどと考え、十分な対策は取られませんでした。
こうした東京電力の対応について検察は、これまでの捜査で、「予測を超える巨大な津波で刑事責任は問えない」などとして旧経営陣を不起訴にしました。
これに対して検察審査会はことし7月に出した議決の中で、自然現象を確実に予測するのはそもそも不可能で、原発を扱う事業者としては災害の可能性が一定程度あれば対策を取るべきだったと指摘しています。
さらに議決では、当時の東京電力の姿勢について、「安全対策よりも経済合理性を優先させ、何ら効果的な対策を講じようとはしなかった」と批判しています。この検察審査会の議決によって東京電力の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が、業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴されることになり、今後、裁判で刑事責任が争われます。

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ご注意: 今日の記事は人によって考え方、感じ方が大きく分かれるセンシティブなテーマなので、内容によってはいただくコメントの公開を承認しないことがありますのでご注意下さい。


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原子・原子核・原子力―わたしが講義で伝えたかったこと:山本義隆
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熱学思想の史的展開〈3〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c4f5c84e9854ddd2e60a1300044c9efc

発売情報: 世界の見方の転換 1~3: 山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0847cdea93a530854efbbb325ab5c147

知ろうとすること。(新潮文庫): 早野龍五、糸井重里
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a4ef77bfa321388003c87214d7367b3d


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福島の原発事故をめぐって― いくつか学び考えたこと:山本義隆」(Kindle版



はじめに

第1章:日本における原発開発の深層底流
- 原子力平和利用の虚妄
- 学者サイドの反応
- その後のこと

第2章:技術と労働の面から見て
- 原子力発電の未熟について
- 原子力発電の隘路
- 原発稼動の実態
- 原発の事故について
- 基本的な問題

第3章:科学技術幻想とその破綻
- 十六世紀文化革命
- 科学技術の出現
- 科学技術幻想の肥大化とその行く末
- 国家主導科学の誕生
- 原発ファシズム


あとがき
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2 コメント

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Re: 原発事故 (とね)
2015-09-21 18:02:28
はやぶさ様

コメントありがとうございます。
「原子力村」と呼ばれる巨大組織には安全管理について「思考すること」、「意見を言うこと」を拒絶する力が作用していたのだと思います。同じことは戦前の日本の軍部(そして日本全体)、御巣鷹山事故以前の日本航空などいろいろな局面で経験してきました。
失敗の原因を徹底的に検証し、今後に活かす努力を怠ってはならないです。

NHKは引き続き原発事故被災地や避難生活者のその後を追う番組を放送し続けていることについて、僕は評価をしています。忙しい日常に埋没して忘れないよう心掛けたいですね。
返信する
原発事故 (はやぶさ)
2015-09-21 13:20:57
福島第一原発は本当に過酷な事故になってしまいました。周辺住民の生活は完全に破壊され、自殺者も数名でました。廃炉作業従事者の中にも、作業に伴う事故で数名が亡くなってしまいました。後には気の遠くなるような廃炉作業の工程が残っています。

私たちは、ともすると権威に弱く、物事を突き詰めて考えることを怠りがちですが、今回の事故の原因の一端には、こうした「思考停止」があったのではないでしょうか。原発をやめるにしても続けるにしても、人間が作る技術には完璧な安全はありえないという前提に立って、思考停止に陥ることなく、あらゆる権威に屈することなく、安全のための不断の検証をし続けていく必要があるのではないでしょうか。

気易くは言えませんが、住民の方には一日でも早く元の生活が戻るように、廃炉作業従事者の方には、無事に作業が進められるようにお祈り申し上げます。
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