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代数に惹かれた数学者たち:ジョン・ダービーシャー

2018年02月02日 21時00分00秒 | 物理学、数学
代数に惹かれた数学者たち:ジョン・ダービーシャー

内容紹介:
代数方程式や体論、群論、代数曲線、代数曲面に対して取り組んできた数学者の紹介を中心に、群論と代数幾何に至る代数学の魅力、数学者たちの取り組みの変遷などを、多くのエピソードを織り込みながら、直感的に理解できる数学史ドラマ。現代代数学の前史に迫る。アルジェブラ(代数および代数環)の発展に寄与した数学者たち、特に近代以降の幾何学との関わりを中心に解説する。登場人物は、フィボナッチ(うさぎの数列)、デカルト(代数の記号表記)、ニュートン(方程式解の対称性)、コーシー(置換の算術)、アーベル(5次方程式の代数的一般解の不存在)、ガロア(方程式解に置換群を見いだす)、ハミルトン(4元数)、リーマン(幾何学革命)、ヒルベルト(抽象化と零点定理)、グロタンディーク(抽象代数幾何学)など。
2008年4月刊行、424ページ。

著者について:
ジョン・ダービーシャー(John Derbyshire)
イギリスで数学教育を受け、現在は米国在住のシステム・アナリスト。小説家でもある。

訳者について:
松浦俊輔
名古屋工業大学助教授を経て、翻訳家。名古屋学芸大学非常勤講師など。
訳書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で355冊目。

先月紹介した「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー」と著者も訳者も同じ姉妹本である。

「代数」や「代数学」と聞いて思い浮かべるイメージは人それぞれだろう。中学・高校生にとっては方程式をたてて解くことだろうし、小学生のように加減乗除の計算を思い浮かべる人もいるかもしれない。

また、入学したての理系大学生にとっては線形代数のことだろうし、もう少し学んだ人は群論を例にあげることだろう。数学の勉強が進むにつれて「代数学って結局何なの?」という疑問が頭をもたげてくる。その原因は代数学そのものが発展していく中で、変容していったからなのだ。

中学から大学にかけて学ぶのは、代数学が発展していく流れの中で得られたもののうちの一部である。流れの全体を把握し、どのような順番で互いが影響し合い、発展してきたかを知ると、その重要性がわかって学ぶ意欲が沸いてくることだろう。


本書の始まりは紀元前4000年のメソポタミアとエジプトから始まる。数式を使った方程式が発明されるのはずっと後のこと。それでもその地域に住んでいた人々が生活や政治を行なうために必要な計算をし、「未知数」を求めるための方法論を持っていたこと、そしてその解法が「文章」として残されていたことを紹介する。

そして西暦1世紀から3世紀と生年は定かではないが、ローマが支配するエジプトのアレクサンドリアに生まれたディオファントスが3次方程式や4次方程式に取り組んでいたことも紹介されている。13巻に及ぶ『算術』 ("Arithmetica")を著した。ディオファントスはギリシア語のアルファベットを使って数を記号として書く方式をとっていた。

しかし「代数学の父」は、西暦600年のアルフワーリズミーとされていることは、みなさんもご承知だろう。9世紀前半にアッバース朝時代のバグダードで活躍したイスラム科学の学者である。西暦820年にヒサーブ・アル=ジャブル・ワル=ムカーバラという代数学書を著した。


本書に解説されているその後の代数学史を箇条書きする。

- ピサのレオナルドの『算術の書』
- フィボナッチによる3次方程式の解
- ピサのダルディによる2次~4次方程式の分類
- ニコラ・シュケによる『数の学問における3部作(1484)』
- ジローラモ・カルダーノ、ニコロ・タルターリア、デル・フェッロらによる3次、4次方程式の一般解をめぐる争い
- ラファエル・ボンベッリによる複素数の取り組み
- フランソワ・ヴィエトによる『解析技法入門』
- アレクサンダー・アンダーソンの論文「方程式の完成について」:解の対称性
- ルネ・デカルトによる解析幾何の創始:現代風の数式表記、代数学の基本定理の提唱
- アイザック・ニュートンによる1665年に解の基本対称式について書かれたメモ、『普遍算術(1720)』
- ライプニッツによる連立方程式の解法、解の対称性の研究
- クラメールによる『代数的曲線解析入門(1750)』:行列式
- ド・モアヴルの定理(1722年)
- オイラーによる1の累乗根、5次方程式への取り組み
- ガウスによる『数論研究(1801)』、ガウスの消去法
- アレクサンドル=テオフィール=ヴァンデルモンドによる方程式の解の対称性と置換の考察
- コーシーによる行列に関する決定的な論文(1812年)
- ジャン=ヴィクトル・ポンスレによる『図形の射影による性質に関する論考(1814)』:射影幾何学の基礎
- ユリウス・ブリュッカーによる「直線幾何(1829)」
- ジョージ・ピーコックによる『代数論(1830)』
- エヴァリスト・ガロアによる抽象的な群の研究、ガロア群
- ルドヴィイ・シロウによるシロウの定理、置換群の構造
- エドゥアルト・クンマーによるイデアル因子
- リヒャルト・デデキントによる環のイデアルの概念、関数体の理論、代数の公理化の創始
- オーガスタス・ド・モルガンによる『三角法と二重代数(1849)』、論理の表記法の改善
- ジョージ・ブールによる『思考の法則(1854)』:論理の代数化
- アーサー・ケーリーによる「行列の理論覚書(1858)」、群の理論
- ジョセフ=ルイ・ラグランジュが「方程式の代数的解の考察」という論文を1771年に書き、解の置換によって方程式の解を求める手法を広める。ラグランジュの定理
- パオロ・ルッフィーニによる5次方程式の一般解がないことの証明の試み
- コーシーによる置換の分析により群の発見の種となる発想が生まれた
- アーベルによる5次方程式に一般解が存在しないことの証明(1824)
- エドウィン・A・アボットによる『フラットランド(1884)』出版
- ウィリアム・ローワン・ハミルトンによる四元数(1843)
- ニコライ・ロバチェフスキー、ヤーノシュ・ボヤイによる非ユークリッド幾何学
- アーサー・ケーリーによる「n次元の解析幾何(1843)」
- ジョージ・サーモンによる『円錐曲線論(1848)』、『高次平面曲線論(1852)』、『現代高次代数学入門(1859)』、『3次元解析幾何学論(1862)』
- パーシヴァル・フロストによる『曲線トレーシング(1872)』
- パウル・ゴルダンによる不変量理論
- ダーフィト・ヒルベルトによる零点定理の発表(1893):多様体の概念の導入、環論での発見
- ヘルマン・ギュンター・グラスマンによる「線形拡大の理論」:ベクトル空間の理論、テンソル解析
- ウィリアム・キングドン・クリフォードによるクリフォード多元環
- ジェームズ・クラーク・マクスウェルが電磁気学でベクトルを使用
- ジョサイア・ウィラード・ギブズとオリヴァー・ヘヴィサイドが現代的なベクトル解析を立てた
- ルートヴィヒ・シュレーフリによる多抱体の幾何学
- ベルンハルト・リーマンによる「幾何学の根底にある仮説(1854)」、リーマン面、多様体
- カミーユ・ジョルダンによる『代数的な置き換えと方程式に関する論考(1854)』
- フェリックス・クラインによる「より新しい幾何学研究の考察(1872)」:幾何学の群論化
- ソフス・リーによる連続群論
- エンリコ・ベッティ、フランチェスコ・ブリオスキ、ルイジ・クレモナ、エウジェニオ・ベルトラミに対するリーマンの影響
- グレゴリオ・リッチやトゥリオ・レヴィ=チビタの貢献
- コッラド・セグレ、グイド・カステルヌオーヴォ、フェデリゴ・エンリケス、フランチェスコ・セヴェーリらの貢献
- クルト・ヘンゼルによるp進数の発見(1897)
- アンリ・ポアンカレによる現代トポロジーの創始、ポアンカレ予想(1904)
- L.E.J・ブラウアーによる不動点定理(1910)
- エミー・ネーターによる「環領域におけるイデアル理論(1919)」
- ジュリアン・ローウェル・クーリッジによる『代数的平面曲線論(1931)』:現代古典幾何の終着点
- ソロモン・レフシェッツによる代数幾何の再構築
- オスカル・ザリスキーによる『代数的曲面(1935)』代数幾何の再構築
- アンドレ・ヴェイユが代数曲線、面、多様体などの理論を一般化して、素数や数論一般とのつながりを開き、現代数論の代数化をもたらした。
- セルジュ・ラングによる「いくつかの変数による関数体についての、不分岐類体論(1960)」
- ヴァルター・ファイトとジョン・G・トムソンによる「奇数次の群の可解性について(1963)」
- アンドレイ・ススリンによる「モティヴィティック・コホモロジーに関する業績」
- 中島啓の表現理論と幾何学に関する研究(2003)
- ギャレット・バーコフとサンダース・「マクレーンの『現代代数学概論(1941)』、『代数学(1967)』(関手、圏、射、半順序集合)
- サンダース・マクレーンとサムエル・アイレンベルクによる「群の拡張とホモロジー(1942)」
- サムエル・アイレンベルクとアンリ・カルタンによる「ホモロジー代数の本(1955)」
- アレクサンドル・グロタンディークによるスキームの考案による代数幾何学の大幅な書き直し、抽象代数幾何学
- エーリヒ・ケーラーによるケーラー多様体
- ジェニオ・カラビ、ヤウ・シントゥン(丘成桐)によるカラビ=ヤウ多様体(1977)
- サー・マイケル・アティヤによるアティヤ=シンガーの指数定理

主だったものだけ取り上げてもこれだけある。箇条書きだとわかりにくいかもしれないが、それぞれの数学者の伝記や社会的背景、数学理論の流れがわかるように書かれている。

そして中国や日本の数学研究に関しては、以下のことが解説されている。

- 中国の『九章算術』における連立方程式の解法
- 毛利重能による『割算書(1622)』
- 関孝和による行列式、ベルヌーイ数の発見


箇条書きしたものを見るだけで、代数学の拡がりがとてつもなく広いことがおわかりいただけると思う。学んでいくにつれてイメージがはっきりしなくなるのは代数学が抽象化、一般化するに従い解析、幾何、数論に影響を伸ばしていったためである。そして代数的数論、代数幾何は本書が対象とする読者層には説明不可能なほど抽象化している。

「代数幾何」という分野がどのようなものか気になっている方がいると思う。代数幾何のルーツに関して、本書に次のような記述があった。

「19世紀に生まれたいろいろな思想の流れが、新しい幾何の理解へと流れ込んでいた。ヒルベルトのビールジョッキとエミー・ネーターの環、ブリュッカーの線、リーの群、リーマンの多様体、ヘンゼルの体は、すべて代数幾何という一個の統一された考え方の下に入れられた。」


また本書には、代数学史の流れを追うだけでなく、その理解を助けるために「数学の初歩」として数式を使って解説する項目が設けられている。次のようなことが学べる。

数学の初歩1 数と多項式
数学の初歩2 3次方程式と4次方程式
数学の初歩3 1の累乗根
数学の初歩4 ベクトル空間と複数の「アルジェブラ」
数学の初歩5 体の理論
数学の初歩6 代数幾何


物理学と代数学、幾何学とのかかわりに関しては、次の事がらが紹介されている。

- 特殊相対論とローレンツ変換、ローレンツ群
- 一般相対論とリーマン幾何学
- 量子論と行列理論
- 素粒子物理学とリー群論
- 超弦理論とカラビ=ヤウ多様体


高校数学を終えたばかりの人、大学に入って「代数学とは?」という疑問を持った人が読むのに好都合だ。数学を学ぶ上で大きなモチベーションを得ることができるに違いない。数学読み物として、とてもお勧めできる本だ。


2冊合わせてどうぞ。

素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー」(Kindle版)(紹介記事
代数に惹かれた数学者たち:ジョン・ダービーシャー

 


翻訳の元になった英語版は、それぞれこちら。

Prime Obsession: Berhhard Riemann and the Greatest Unsolved Problem in Mathematics
Unknown Quantity: A Real and Imaginary History of Algebra

 


関連記事:

素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b15d8fa5e7f3e3e5b86cf1bc8a3c3f00


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代数に惹かれた数学者たち:ジョン・ダービーシャー



はしがき
数学の初歩1 数と多項式

第1部:未知数

第1章:4000年前
第2章:代数の父
第3章:補完と削減
数学の初歩2 3次方程式と4次方程式
第4章:商取引と競争
第5章:想像力への救援

第2部:普遍算術

第6章:ライオンの爪
数学の初歩3 1の累乗根
第7章:5次方程式攻め
数学の初歩4 ベクトル空間と複数の「アルジェブラ」
第8章:4次元への飛躍
第9章:項を四角く並べたもの
第10章:ヴィクトリア朝の霧の島

第3部:何段階かの抽象化

数学の初歩5 体の理論
第11章:夜明けのピストル
第12章:環ものがたり
数学の初歩6 代数幾何
第13章:幾何学の復興
第14章:代数的なあれこれ
第15章:普遍算術から普遍代数へ

訳者あとがき
原註
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2 コメント

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Unknown (三村道夫)
2018-02-02 23:04:08
数学を鳥瞰図的に理解したいと思います。多分、代数/解析/幾何のマルがあり、お互いは部分的に重なるでしょう。各々の分野は専門的に細分されるでしょう。数学基礎論はマルの外でしょうか。統計などはどのような、位置付けですか。
それぞれを解説した冊子が出来ると嬉しいのです。

色々な水準の読者があり、説明も変わるでしょう。私は工学部出身ですから、合わせた説明をよろしく。
返信する
三村道夫様 (とね)
2018-02-02 23:30:37
三村道夫様
コメントありがとうございます。
数学基礎論は数理論理学が起源で、流れとしてはフレーゲ、ラッセル、ブラウワー、ヒルベルト、ゲーデル、ペアノということになるのでしょう。

本書では代数学の発展史の中で、ド・モルガン、ブール、ラッセル、ペアノなどの流れで紹介されています。

統計学は確率論をベースにしており、代数/解析/幾何という分類の中では解析に関連しますが、どちらかというと応用数学ですね。

数学を鳥瞰図的に眺めるということに関しては、次の記事がお役に立つと思います。

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

『数学ガイダンス2016』数学セミナー増刊:日本評論社
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/20e4c86d6279ba015ba36e0e79953bf5
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