
「はじめてのルベーグ積分:寺澤順」
「コンヌ博士の非可換幾何学」を目指して勉強をはじめたわけである。群論や代数系の数学書ばかり読んでいてもバランスに欠けるので、今度は関数解析系の駒を進めてみることにした。
とはいっても僕が読んだのはルベーグ積分の入門書。関数解析へ進むためにはおさえておくべき内容だ。大学時代に高木先生の「解析概論」で学んだはずなのだが、さっぱり覚えていない。(笑)20年もブランクあるのだから忘れているのも無理はない。あと、このところ気分が低調なので今回の本は時間がかかってしまった。何ごとにも「ノリ」は大切だ。
高校で僕らが習うの積分は「リーマン積分」と呼ばれているもの。この方法では積分できない関数が存在するものだから、積分の定義をもっと一般化して行うのが「ルベーグ積分」。だからリーマン積分を使って積分できる関数はわざわざルベーグ積分を使う必要はないのだ。どちらを使っても計算結果は一致するわけなのだから。
リーマン積分とルベーグ積分を直観的に説明するとしたら、ウィキペディアに書かれている説明がわかりやすい。
=========================
山の(海抜より上の部分の)体積を計算する例を考えよう。この山の境界ははっきりと定まっているとする(これが積分範囲である)。
リーマン積分による方法: ケーキを切るときのように、山を縦方向に切り分けて細分する。このとき、各パーツの底面は長方形になるようにする。次に、各パーツで最も標高が高いところを調べ、底面の面積とその標高を掛け合わせる。各パーツごとに計算したその値を足したものを上リーマン和と呼ぶことにする。同様のことを最も標高が低いところに対して行い下リーマン和と呼ぶことにする。分割を細かくしていったときに上下のリーマン和が同じ値に収束するときにリーマン積分可能であるといい、収束先が山の体積になる。
ルベーグ積分による方法: 山の等高線を地図にする。等高線にそって地図を裁断して、地図をいくつかのパーツに分解する。各パーツは面積を計算できる平面図形なので(測度が分かっているので)、パーツの面積とそのパーツの最も低い点の標高を掛け合わせる。各パーツのこの値を足したものを「ルベーグ和」と呼ぶことにする。この「ルベーグ和」はルベーグ積分の構成にあった単関数の積分に相当する。等高線の間隔を半分にしていったときの「ルベーグ和」の収束先が山の体積になる。
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「ニコニコ大百科」にも直観的な説明を見つけた。
ニコニコ大百科:積分
http://dic.nicovideo.jp/a/%E7%A9%8D%E5%88%86
ルベーグ積分は関数解析の基礎となるほか、確率論や数理ファイナンスの方面でも活躍するそうだ。後の二つのことは今回はじめて知ったのだが。
本書は「はじめての~」とあるように、前提知識を必要としない。ルベーグ積分の理解に欠かせない「測度」という概念や、それを理解するために必要な「集合論」についてもくわしく説明しているので、著者が言うように「高校生でも」理解できる本なのかもしれない。でも、それはちょっと言いすぎのような気もした。本の名前や表紙のデザインから受ける印象とは異なり、内容は数学書として充実している。定理の証明も(一部を除いて)きちんとなされている。
じっくり読み込んだので僕はとりあえず95パーセントくらい理解できたが、控えめに言っても本書は「優秀な高校生なら理解できる」ような入門書なのだと思う。「優秀」って言うのも定義があってないようなものだが「普通の高校生」が理解できる本ではないのは確かだ。
本書では1次元つまり1重積分の実関数に限定して測度やルベーグ積分を説明している。多重積分の場合についてはより専門的な教科書を参照すべきだが、基本的な考え方は1重積分の場合と同じはずだから、はじめて学ぶ人にはこれで十分というか、こちらのほうがいいのだろうと思った。
ルベーグ積分自体は数学のほかの概念(?)に比べて地味で人気がない。はじめて学ぶ人にとってはわかりにくく、面倒だし、マスターして計算ができるようになっても達成感はあまりないものだ。それでも次の段階には必要なものだから無視するわけにはいかない。なので販売数は見込めないにもかかわらず、本書のように少しでも敷居を低くしてくれる本は貴重なのだろう。
第9章の「ルベーグ積分のその後」では本書で「新リーマン積分」と名づけた新しい積分の定義を紹介している。ルベーグ積分を使っても積分できない関数の積分方法がその後いくつか研究され、それらが1980年代になって同値だということが証明された。たとえば、マクシェイン積分 (McShane integral), ヘンストック・カーツヴァイル積分 (Henstock-Kurzweil integral) などのゲージ積分がこの新リーマン型積分である。
この積分方法は「測度」の概念を使わないのでルベーグ積分とは全く別のものだ。けれども、その積分方法の正当性については、すべての数学者に受け入れられているわけではなく、まだ議論の余地が残されているのだそうだ。
本書と似たようなタイトルで、かつ表紙の色も同じ本がでている。この「ルベーグ積分超入門:森真」は測度やルベーグ積分だけでなく、関数解析の入門にも多くのページを割いており、また副題にあるように確率論や数理ファイナンスとの関連も紹介されているようだ。なので本書と内容が被る部分は少しだけなので、両方買っても無駄にはならない。次回の記事ではこちらの本を取り上げる予定だ。
「ルベーグ積分超入門:森真」

ネット上の無料教材でルベーグ積分を学んでみたい方には以下をお勧めする。
ときわ台学:ルベーグ積分入門
(とてもわかりやすいので、特にお勧め。)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/16lebeg/000lebrg.html
ルベーグ積分入門(PDF):吉川敦
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yoshikawa/lebesgue-lecture.pdf
あと志賀先生の「ルベーグ積分30講」だが、アマゾンのレビューでは酷評されている。実物を見たことがないのだが、そんなによくないのだろうか??(今回僕が志賀先生の本を選ばなかったのも、この酷評を目にしたからだ。)
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今日の記事で紹介したのはこちらの本だ。
「はじめてのルベーグ積分:寺澤順」

目次:
第0章:高校以来の積分
第1章:ルベーグの考え方
第2章:準備
- 集合について
- 像と逆像
- 上限・下限 vs. 最大値・最小値
- 上極限・下極限
- 単調列
- 無限個を数える
- 有理数・無理数の分布
- ε-δ法とリーマン積分
第3章:外測度
- 開集合と閉集合
- 外測度
- 外測度0の集合
- カントール集合
第4章:測度、可測集合、可測関数
- 定義と基本性質
- 測度の性質
- 可測関数
- 例:境界の測度
- 可測でない集合
- 補足:選択公理について
第5章:単純関数とルベーグ積分
- 単純関数
- 単純関数のルベーグ積分
- 「ほとんどいたるところで」という発想
- 悪魔の階段
- 可測集合・可測関数に関する反例
第6章:ルベーグ積分
- 定義
- ルベーグ積分の性質
- 項別積分定理
- 例:悪魔の階段の積分
第7章:リーマン積分の性質
- 復習
- 階段関数
- リーマン積分可能とは何か
- 広義積分の場合
- 補足:区間の分割を等分とすることについて
第8章:微分積分学の基本定理
- 有界変動・絶対連続
- ヴィターリの被覆定理
- ディニの導関数
- 単調関数は微分可能である
- 微分積分学の基本定理(ルベーグ・バージョン)
第9章:ルベーグ積分のその後
- 定義(新リーマン積分)
- 微分積分学の基本定理(新リーマン積分)
- 今後は?
「コンヌ博士の非可換幾何学」を目指して勉強をはじめたわけである。群論や代数系の数学書ばかり読んでいてもバランスに欠けるので、今度は関数解析系の駒を進めてみることにした。
とはいっても僕が読んだのはルベーグ積分の入門書。関数解析へ進むためにはおさえておくべき内容だ。大学時代に高木先生の「解析概論」で学んだはずなのだが、さっぱり覚えていない。(笑)20年もブランクあるのだから忘れているのも無理はない。あと、このところ気分が低調なので今回の本は時間がかかってしまった。何ごとにも「ノリ」は大切だ。
高校で僕らが習うの積分は「リーマン積分」と呼ばれているもの。この方法では積分できない関数が存在するものだから、積分の定義をもっと一般化して行うのが「ルベーグ積分」。だからリーマン積分を使って積分できる関数はわざわざルベーグ積分を使う必要はないのだ。どちらを使っても計算結果は一致するわけなのだから。
リーマン積分とルベーグ積分を直観的に説明するとしたら、ウィキペディアに書かれている説明がわかりやすい。
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山の(海抜より上の部分の)体積を計算する例を考えよう。この山の境界ははっきりと定まっているとする(これが積分範囲である)。
リーマン積分による方法: ケーキを切るときのように、山を縦方向に切り分けて細分する。このとき、各パーツの底面は長方形になるようにする。次に、各パーツで最も標高が高いところを調べ、底面の面積とその標高を掛け合わせる。各パーツごとに計算したその値を足したものを上リーマン和と呼ぶことにする。同様のことを最も標高が低いところに対して行い下リーマン和と呼ぶことにする。分割を細かくしていったときに上下のリーマン和が同じ値に収束するときにリーマン積分可能であるといい、収束先が山の体積になる。
ルベーグ積分による方法: 山の等高線を地図にする。等高線にそって地図を裁断して、地図をいくつかのパーツに分解する。各パーツは面積を計算できる平面図形なので(測度が分かっているので)、パーツの面積とそのパーツの最も低い点の標高を掛け合わせる。各パーツのこの値を足したものを「ルベーグ和」と呼ぶことにする。この「ルベーグ和」はルベーグ積分の構成にあった単関数の積分に相当する。等高線の間隔を半分にしていったときの「ルベーグ和」の収束先が山の体積になる。
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「ニコニコ大百科」にも直観的な説明を見つけた。
ニコニコ大百科:積分
http://dic.nicovideo.jp/a/%E7%A9%8D%E5%88%86
ルベーグ積分は関数解析の基礎となるほか、確率論や数理ファイナンスの方面でも活躍するそうだ。後の二つのことは今回はじめて知ったのだが。
本書は「はじめての~」とあるように、前提知識を必要としない。ルベーグ積分の理解に欠かせない「測度」という概念や、それを理解するために必要な「集合論」についてもくわしく説明しているので、著者が言うように「高校生でも」理解できる本なのかもしれない。でも、それはちょっと言いすぎのような気もした。本の名前や表紙のデザインから受ける印象とは異なり、内容は数学書として充実している。定理の証明も(一部を除いて)きちんとなされている。
じっくり読み込んだので僕はとりあえず95パーセントくらい理解できたが、控えめに言っても本書は「優秀な高校生なら理解できる」ような入門書なのだと思う。「優秀」って言うのも定義があってないようなものだが「普通の高校生」が理解できる本ではないのは確かだ。
本書では1次元つまり1重積分の実関数に限定して測度やルベーグ積分を説明している。多重積分の場合についてはより専門的な教科書を参照すべきだが、基本的な考え方は1重積分の場合と同じはずだから、はじめて学ぶ人にはこれで十分というか、こちらのほうがいいのだろうと思った。
ルベーグ積分自体は数学のほかの概念(?)に比べて地味で人気がない。はじめて学ぶ人にとってはわかりにくく、面倒だし、マスターして計算ができるようになっても達成感はあまりないものだ。それでも次の段階には必要なものだから無視するわけにはいかない。なので販売数は見込めないにもかかわらず、本書のように少しでも敷居を低くしてくれる本は貴重なのだろう。
第9章の「ルベーグ積分のその後」では本書で「新リーマン積分」と名づけた新しい積分の定義を紹介している。ルベーグ積分を使っても積分できない関数の積分方法がその後いくつか研究され、それらが1980年代になって同値だということが証明された。たとえば、マクシェイン積分 (McShane integral), ヘンストック・カーツヴァイル積分 (Henstock-Kurzweil integral) などのゲージ積分がこの新リーマン型積分である。
この積分方法は「測度」の概念を使わないのでルベーグ積分とは全く別のものだ。けれども、その積分方法の正当性については、すべての数学者に受け入れられているわけではなく、まだ議論の余地が残されているのだそうだ。
本書と似たようなタイトルで、かつ表紙の色も同じ本がでている。この「ルベーグ積分超入門:森真」は測度やルベーグ積分だけでなく、関数解析の入門にも多くのページを割いており、また副題にあるように確率論や数理ファイナンスとの関連も紹介されているようだ。なので本書と内容が被る部分は少しだけなので、両方買っても無駄にはならない。次回の記事ではこちらの本を取り上げる予定だ。
「ルベーグ積分超入門:森真」

ネット上の無料教材でルベーグ積分を学んでみたい方には以下をお勧めする。
ときわ台学:ルベーグ積分入門
(とてもわかりやすいので、特にお勧め。)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/16lebeg/000lebrg.html
ルベーグ積分入門(PDF):吉川敦
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yoshikawa/lebesgue-lecture.pdf
あと志賀先生の「ルベーグ積分30講」だが、アマゾンのレビューでは酷評されている。実物を見たことがないのだが、そんなによくないのだろうか??(今回僕が志賀先生の本を選ばなかったのも、この酷評を目にしたからだ。)
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今日の記事で紹介したのはこちらの本だ。
「はじめてのルベーグ積分:寺澤順」

目次:
第0章:高校以来の積分
第1章:ルベーグの考え方
第2章:準備
- 集合について
- 像と逆像
- 上限・下限 vs. 最大値・最小値
- 上極限・下極限
- 単調列
- 無限個を数える
- 有理数・無理数の分布
- ε-δ法とリーマン積分
第3章:外測度
- 開集合と閉集合
- 外測度
- 外測度0の集合
- カントール集合
第4章:測度、可測集合、可測関数
- 定義と基本性質
- 測度の性質
- 可測関数
- 例:境界の測度
- 可測でない集合
- 補足:選択公理について
第5章:単純関数とルベーグ積分
- 単純関数
- 単純関数のルベーグ積分
- 「ほとんどいたるところで」という発想
- 悪魔の階段
- 可測集合・可測関数に関する反例
第6章:ルベーグ積分
- 定義
- ルベーグ積分の性質
- 項別積分定理
- 例:悪魔の階段の積分
第7章:リーマン積分の性質
- 復習
- 階段関数
- リーマン積分可能とは何か
- 広義積分の場合
- 補足:区間の分割を等分とすることについて
第8章:微分積分学の基本定理
- 有界変動・絶対連続
- ヴィターリの被覆定理
- ディニの導関数
- 単調関数は微分可能である
- 微分積分学の基本定理(ルベーグ・バージョン)
第9章:ルベーグ積分のその後
- 定義(新リーマン積分)
- 微分積分学の基本定理(新リーマン積分)
- 今後は?
ヒルベルト空間の勉強で、
2乗可積分という意味での「積分」は、このルベーグ積分で可能といういう意味なので、
(アイシャム「量子論」p43)
つまり、リーマン積分では、一般には不可能(らしい)
ので、勉強中です。
>新リーマン型積分
主値積分可能⊂新リーマン型積分可能
なのでしょうか?
それから、直接の関係はないけど、
超関数の積分について、
EMANさんの掲示板に議論があります。
http://hpcgi2.nifty.com/eman/bbs090406/yybbs.cgi?mode=res&no=8698
こんにちは。1冊目に読むルベーグ積分の本としてはこの本はよいですね。ヒルベルト空間との関連だともう1冊くらい専門的な教科書が必要な気もしました。有名な伊藤先生の「ルベーグ積分入門」も注文して配送されるのを待っているところです。こちらは途中でくじけることになりそうな気もします。(笑)
「ルベーグ積分超入門:森真」は読み始めてわかったのですが、これは1冊目に読む本ではないですね。ある程度ルベーグ積分や関数解析を学んでくじけてしまった人が読むのに適しているのだという印象を持ちながら読み進めています。
kafukaさんがこの本をお持ちになったきっかけはブログの「ヒルベルト空間への道」というカテゴリーの記事を拝見して納得しました。
EMANさんの掲示板の超関数の積分についてのやりとりを教えていただきありがとうございます。日付みたらごく最近の書き込みなのですね!僕は超関数にはなじみがないのですが、後ほど読んでみます。
ところで
>>新リーマン型積分
>主値積分可能⊂新リーマン型積分可能
なのでしょうか?
僕もこの「はじめてのルベーグ積分」に書かれている内容とウィキペディアに記述されていることしか知りませんが、新リーマン積分は「リーマン和の取り方や分割の幅の縮めかたを変える」のだから「主値積分可能⊂新リーマン型積分可能」なのだと思います。(今日は「はじめてのルベーグ積分」を持ち歩いていないので、帰宅後に再確認してみます。)