とね日記

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代数系入門: 松坂和夫

2014年05月31日 17時18分54秒 | 物理学、数学
代数系入門:松坂和夫

内容紹介
整数を素材にとり、そこに代数的手法の一つのモデルを見ることからはじめて、抽象的な代数系の一般論を解説する。高校数学程度の素養で十分理解できるように、例・問題を適切に配列するなど、教育的配慮がなされている。1976年刊行、378ページ。

著者略歴
松坂和夫
1950年(昭和25年)、東京大学理学部数学科を卒業。1950年東京大学教養学部助手、1953年武蔵大学助教授、1951年津田塾大学助教授、1970年一橋大学法学部教授、1948年一橋大学経済学部教授併任。1990年東洋英和女学院大学教授就任、一橋大学名誉教授の称号を受ける。数学の入門書を数多く執筆している。


理数系書籍のレビュー記事は本書で253冊目。

本書は群、環、加群、体からガロア理論まで学べる昔からある現代代数学の標準的な入門書である。本書の新装版がその後刊行された。新装版は「松坂和夫 数学入門シリーズがKindle化されていた件」の記事からお買い求めいただける。

ゲージ理論とトポロジーの年表」や「アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?」という記事を書いてみて代数学の大切さをつくづく思い知らされた。トポロジーにしろ解析学にしろ代数学の理解は欠かせない。

代数学I 群と環:桂利行」を読み終え、「代数学II 環上の加群:桂利行」を半分くらい読み進めていたのだが、このシリーズはどうも独学には向かない気がしてきて途中で読むのをやめ、松坂先生の本に切り替えていたのだ。結果的にはそうして正解だった。


本書は数学科の大学3年生が学ぶ標準的な代数学の入門書である。ところが「はしがき」の中で松坂先生は「初学者向きのものであって、読むための予備知識は特に必要ではない。読者はせいぜい高校2年級程度の数学の素養をもっておられれば十分である。」とお書きになっている。

それは違うだろうと思った。僕は高校生の頃、こんなに難しい本は読めなかった。「高校生でも理解できる」という表現は要注意なのだ。理数系の本、特に数学書の中でこの言葉が使われるとき、よくあるのは次の3つのケースである。

ケース1) 著者ご自身が高校生だったころの自分を想像している場合

たいていこのケースが多い。将来数学者になるような高校生は、昔であれ今であれ普通の高校生とはレベルがまったく違う。そのような秀才や天才には数学ができない学生が、どれくらいの理解で物ごとをとらえているか想像できないものだ。読者に開成高校や灘高校のトップクラスの学生のレベルを期待されても困ってしまうわけである。

ケース2) 予備知識は必要としないという意味で言っている場合

本書のテーマである群論は、たしかに高校では学ばない。集合論や位相もそうなのだが、それらは数学理論全体を土台から構築する抽象数学、現代数学であり、高校生に教えられるように生易しい分野ではないからである。予備知識を必要としないからといって、それが一般の高校生にも理解できるというわけではない。

ケース3) 本当に高校生でも理解できる場合

竹内淳先生の「高校数学でわかる~」というブルーバックスのシリーズがこれに該当する。たしかにこのシリーズの場合は看板に偽りはない。しかしこのシリーズで使われる数学は数IIIレベルなので、正確なところを言えば「高校を卒業した後なら理解できる。」なのである。

松坂先生の本はケース1)とケース2)の混在型である。数学科を卒業している僕にとっても本書を読み通すためには忍耐が必要で、かなりしんどかった。章立ては次のとおりだ。

第1章:整数
第2章:群
第3章:環と多項式
第4章:ベクトル空間、加群
第5章:体論
第6章:実数、複素数
付録:自然数

群や環はこれまで読んできた本で学んでいたので、僕にとってためになったのは第4章から第5章にかけての加群と体論だった。加群というのはベクトル空間を一般化した代数概念で、学ぶのは初めてだった。また体論のほうも「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」の本で学ぶ範囲の先の話、つまりガロア理論を学ぶというのが本書の目的である。これを厳密な証明を与えた形で学んだのも初めてのことだった。

第6章は実数や複素数の存在性を数学的に構成するというもの。代数学の手法をとりながら解析学の領域に踏み込んだ証明を興味深く理解することができた。付録ではペアノの公理による自然数の構成、さらに自然数の加法と乗法、自然数の大小、整数の構成まで証明するなどサービス精神に満ちている。

全部消化できたわけではないが、おおかた理解して満足できたというところ。代数学で学ぶべきことはこの先にもたくさんあり、本書はほんの入門書にすぎないことを思い知らされた。時間はいくらあっても足りないのだ。

代数系の本はこの他にも何冊か買ってあるので、これからも順に読んでいくことにしよう。

アマゾンで販売されている松坂先生の著書:検索する


著者の松坂先生は2012年1月に急逝されたことを僕は今回この本を紹介するにあたって知った。入浴された直後に気分が悪くなり、わずか20分で息を引き取られたことがこのページに書かれている。心よりご冥福をお祈りさせていただきます。


関連記事:

松坂和夫 数学入門シリーズがKindle化されていた件
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7ce742bfbbd0ab088b586ef9b4b35ef1

群論への30講:志賀浩二著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d07e42584724f4b72433be8f2738653

群論入門(新数学シリーズ 7):稲葉栄次
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f971ae2de623dd448868ad6ecca20051

数学ガール/ガロア理論:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5450818389e0220779e363617332a76

群・環・体入門:新妻弘、木村哲三
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f58114fe89f69d8e9a306fe819a6398

演習 群・環・体入門:新妻弘
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/32bc51d4f5a1de1a095ec9c69bc371f7

代数学I 群と環:桂利行
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8e0b374391546190139afb464407b14c


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代数系入門:松坂和夫



はしがき

第1章:整数
- 集合
- 数学的帰納法と除法の定理
- 最大公約数
- 最小公倍数
- 素数、素因数分解
- 同値関係、合同式
- 1次の合同式
- 2つの整数論的関数
- Eulerの定理とFermatの定理

第2章:群
- 写像
- 群とその例
- 部分群と生成系
- 剰余類分解
- 正規部分群と商群
- 準同型写像
- 自己同型写像、共役類
- 巡回群
- 置換群
- 置換表現、群の集合への作用
- 直積
- Sylowの定理

第3章:環と多項式
- 環とその例
- 整域、体
- イデアルと商環
- Zの商環
- 準同型写像
- 商の体
- 多項式環
- 体上の多項式、単項イデアル整域
- 素元分解とその一意性
- Z[i]の素元
- 多項式の根、代数的閉体
- ZまたはQの上の多項式
- 多変数の多項式

第4章:ベクトル空間、加群
- ベクトル空間
- 基底と次元
- 線型写像
- 線型写像の空間、双対空間
- 線型写像と行列
- 加群
- 自由加群とその階数
- 単項イデアル整域上の加群
- 加群の構造定理
- 一意性の証明
- Jordanの標準形

第5章:体論
- 体の拡大
- 多項式の根
- 単純拡大
- 有限拡大と代数拡大
- 分解体
- 重根と導多項式
- 自己同型群と固定体
- 正規拡大
- Galois理論の基本定理
- 有限分離拡大の単純性
- 有限体
- 1のべき根(累乗根)
- 可解群
- 交代群の単純性
- 3次方程式の解法
- べき根による方程式の可解性
- 定規とコンパスによる作図

第6章:実数、複素数
- 順序環
- Archimedes的順序体、完備性
- 完備性の他の条件
- 実数体の構成
- 実数体の性質
- 複素数
- 基本定理の証明

付録:自然数
- Peanoの公理と帰納的定義
- 自然数の加法、乗法
- 自然数の大小
- 整数の構成

補遺
問題解答
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5 コメント

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名著 (はやぶさ)
2014-05-31 18:24:06
松坂先生の名著ですね!

先生は、中学・高校数学の教書として、同じ岩波刊で「数学読本」シリーズを執筆されていて、とねさんもご存じでしょう。私もこのシリーズで復習をしています。とても良い本です。このシリーズは僕が大学に入った頃から刊行され始めたようですが、中学・高校時代にこのような教書があれば良かったのにと、今の学生を羨ましく思います。中高生の方で、まだこのシリーズをご存じでなく、数学にしっくりいっていない方がいらっしゃれば、是非とも手にとって勉強されると良いと思います。

ところで、とねさんが記事中に書かれた「3つのケース」は、南先生のアプローチを早速応用されたのでしょうか? たいへん面白い分析だと思います。
返信する
Re: 名著 (とね)
2014-05-31 18:39:55
はやぶささん

コメントありがとうございます。はい、これは「集合・位相入門」とともに、松坂先生の名著ですね。

「数学読本」シリーズもよい本だと思います。シリーズ物は読むのに時間がかかるので、僕はまだ手を出していませんが。この数十年、日本の高校生の数学のレベルはどんどん低下しているそうですので、僕は少々心配しているところです。

「3つのケース」の箇所は、はやぶささんがおっしゃるように、南先生のことが頭のどこかにありました。(笑)
返信する
隠し条件 (hirota)
2014-06-01 12:48:55
・忍耐力が無限にある
・至る所にある勘違いの罠に墜ちない強運
この2つは外せませんね。
前者は学習方法で工夫する余地がありますが、後者は外の助けがないと無理。
いくら易しくても墜ちるときは墜ちる。
返信する
Re: 隠し条件 (とね)
2014-06-01 12:54:12
hirotaさん

コメントありがとうございます。まったくおっしゃるとおりです。「勘違いの罠」は本当に厄介なものです。

人によって、本のレベルによっても違ってくると思いますが、僕の場合、数学書のほうが物理学書より忍耐が必要です。
返信する
読書中 (アルキメデス)
2015-09-28 15:48:28
とねさん

代数系入門読んでいます

とねさん読むの早いですね

私は一年くらいかけて隅々まで理解しようと思ってますが…
物理と数学の違いかな

竹内外史先生がいったん必要だと目覚めた物理学者の数学の使い方は凄まじい

と書いてられました
とねさんは確かな実体感を持って読んでるから細部にこだわらなくて早いのかなと思いました

私も最近早くなって来たんですが

返信する

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