前東京入管局長の坂中英徳さん(60)が今月23日、日本から北朝鮮に渡った「帰国者」を支援する民間活動団体(NGO)「脱北帰国者支援機構」をスタートさせる。
坂中さんは「人権弾圧を受けている帰国者の問題に向き合うことは、社会の責務だ」と語り、幅広い協力を呼びかけている。
坂中さんが在日問題を「ライフワーク」とするきっかけとなったのは、1977年に自費出版した論文だった。在日2世、3世は日本で生まれ育ち、日本文化になじんでいるのに、法的には外国人とされる矛盾を解消すべきだと指摘した。
官公庁が在日問題に距離を置いていた中、入管行政の当事者がこうした主張を発表することは異例で、在日団体からは「同化の強制だ」などと批判された。
しかし、81年と91年の入管法改正などで在日韓国・朝鮮人に特別永住の在留資格が新設され、社会保障制度の適用も受けられるようになり、在日社会も次第に坂中さんの取り組みを理解するようになった。
在日韓国・朝鮮人との交流を通じ、坂中さんは59年から84年にかけて行われた帰還事業で北朝鮮に渡った帰国者が「祖国」で差別を受けていることを知った。
入国在留課長時代の95年には、脱北した日本人妻の日本への入国手続きにかかわり、帰国者が日本に戻り始めていることを知った。現在、約80人の脱北者が日本で暮らしているものとみられるが、日本政府は彼らの生活を積極的に支援する政策は打ち出していない。
「北朝鮮は帰国者を人質に取り、在日社会から金品を巻き上げている」。北朝鮮をこう批判する坂中さんは、北朝鮮にいる帰国者が日本に戻れるよう、政府の取り組みを促す活動も予定している。
(2005/5/7/14:34 読売新聞