筆者はコッツウオルズのような海外の第一級の村が日本全土に名を馳せることになってしまった、とまで書いているのですが、あなたはこの村を知っていますか?まあそんな筆者の思い込みはそっとしておくとして、イギリスでは、以前からある街並みの雰囲気と異なる場合、クレームをつけることができるのだそうです。したがって、イギリスの街中に自分の好みでログハウスを建てることなどできる雰囲気ではないわけです。その結果、古くからの街並みは半永久的に保存されていくことになります。上の写真に見られる街並みとは大違いですね。獨協大学にほど近いこの新興住宅地では、街並みの統一感といったものは一切考慮されていません。イギリス人が見たら卒倒し、筆者が見たら怒り心頭に発することでしょう。しかし民主主義国家というのはそういうものなのではないでしょうか。
またイギリス人はしっかりとした家を建てるので、(本当にイギリス人は全員アパートや借家には住まないで暮らせるのでしょうか・・・・)、年季が入った家ほど値段が高くなり、日本の家のようにどんどん値段が下がり、しまいには土地の値段しかつかないようなことはないそうです。かえって古い家の方が風情があって好まれ値がつくのだと言います。それに引き換え日本人の建てる家は長く住むということを念頭に置いた家がないと著者は嘆きます。
私の考えでは、日本人は家というものを耐久消費財というよりは消耗品と考えているのではないかと思います。日本人だって家が長持ちした方が良いに決まっていますが、日本の歴史が日本人の体内に刻み込んできたDNAが、家というものを消耗品と受け止める思考回路を作っているのではないでしょうか。
これは著者も認めていることですが、日本の夏は高温多湿、冬は底冷えがします。この気候に適応するために造られたのが日本家屋です。木で柱を作り、壁は土で硬め、部屋と部屋の間は細い木でできた枠に紙を貼ったもので仕切ります。床は植物の細い茎をまとめて板状にしたものを敷きます。この構造が、多湿な時は湿気を吸い、乾燥すれば湿気を吐き出すと言う仕組みを作っているのです。
ではこうした建造物にどれほどの耐久性が期待できるのかと言えば、専門の大工が腕をふるった大寺院や仏閣を除けば、さしたる耐久性はありません。地方へ行けば一千万円で売れそうな梁を載せた家もありますが、それはそれで冬になると途方もなく寒く、居住性はあまり良くありません。かつて3月末富山県のそんな家に宿泊した時は、石油ストーブをガンガンたいていたにもかかわらず、布団の中でも凍えそうでした。
そして、これが一番大事なことだと思うのですが、日本は世界に類を見ない災害大国だということです。この本の初版は平成16年です。もしあの東日本大災害を見ていたなら、筆者もこのことに気がついたかもしれません。日本では数百年に一度襲う大地震や大津波で、多くの家屋が潰されたり流されたりして、きれいさっぱり地上から姿を消してしまいます。そこまでいかなくとも、かつては台風が来るたびに洪水が起こり、戦後においても数千の死者を伴う大惨事が発生していました。江戸川区に住んでいた頃、私の家の裏の家の軒先には緊急避難用の小舟が常につるされており、そんな家が葛西にはたくさんありました。
足立区と埼玉県の間に、幅跳び選手なら飛び越えられそうな狭い川(毛長川)があります。この川は今でこそどぶじゃないよね川だよね、という程度ですが、古墳時代は幅が数百メートルもある川でした。鎌倉時代浅草寺は隅田川の中州にありました。徳川幕府が利根川を掘るまでは、現在の隅田川にあの水が流れており、常に洪水が起きていました。荒川放水路は大正時代に、中川放水路は昭和になって掘られました。江戸川も河口近くで二股に分けられました。日本というのはここまでしないと水害の危険から逃れれられない国だったのです。
水ならぬ「火」の方では、かつて九州ではこれによって縄文人が全滅したのではないかと言われる大きな噴火が幾度も起こりました。その名残が阿蘇山や鹿児島湾なのです。東日本では富士山を始めとする火山の噴火が幾度となくありました。浅間山の麓に行けば、火砕流に飲まれた村がそのまま埋まっています。
応仁の乱では京都市街全てが焼けつくされました。東京大空襲では下町一帯が2時間で焼け野が原になりました。原爆のことは言わずもがな・・・・。不動産屋が3年に一度敷金を取るのは、かつて江戸の町は3年に一度くらいの割合で大火があり、その都度再建しなければならなかったのが始まりだと言う話を読んだことがあります。したがって日本人にとって、家を建てるのは一生一度の大仕事であると同時に、子供の代には再建しなければならなくなるだろうという覚悟の下、ほどほどの耐久性で手を打っているのだと思います。
ではイギリスはどうか。イギリスは実に地盤が安定しています。火山も無く、台風も来ません。山と言えるほどの山も無いので、川の氾濫もあまり考える必要がありません。石か何かで壁を組んでも、大地震で崩れる心配もないのです。地震がないので津波も来ません。家が潰されたり流されたりする心配はなかったのです。こうした国で、家というものが百年を超えるスパンで耐久性を持たせる物になったことに何ら不思議はありません。
問題は筆者がこうした気候風土歴史の違いを一顧だにせず、一方的にイギリス人は偉くて日本人は駄目だと断じていることです。著者の著作と言えば、「いつかイギリスに暮らす私」「イギリス式時給900円から始める暮らし」「イギリス人の格」など、ひたすらイギリス人を崇拝するものばかり。日本と日本人の優れた点を見出すことが出来ない筆者は、本当に気の毒な人だと感じます。
最近買った本に、ドイツと日本を比較したものがあります。この本の筆者は冷静に判断し、日本に軍配を挙げていました。やはり盲目的に外国を崇拝するようではいけませんね。