【写真:地下鉄警察本部の看板。(29/06)】
跳ね橋観光からの帰りが早朝になったため、午前中遅めに行動開始。
11時半過ぎに出かけてまず最初に向かった先はエルミタージュ美術館。ペテルブルクを訪れる観光客ならほぼ全ての人が訪れるに違いない超有名美術館なのだが、私も全てを知っているわけではない。ごく一部の見所だけHに教えて、ここはH一人で見学。ちなみにこの美術館にも外国人料金はあるが、学生はロシア学生、外国人学生問わず無料だからありがたい。
Hがエルミタージュを見学している間、私は今日見学するイサク聖堂、ペトロパブロフスク要塞の入場券を予め購入しに行く。
Hのエルミタージュ観光には約2時間ほど時間をとった。エルミタージュは全部の部屋をくまなく見て歩くと20kmほど歩くことになるという巨大な美術館のため、いくら時間をかけて回ってもきりがない。一般のツアーも2時間程度で主要な展示品を見てまわるというのが通常らしい。本当はもう少し時間をとっても良かったが、出かけるのが昼近くだったことと、この後訪れる場所の時間配分も考え、14時過ぎにエルミタージュを出る。
次に向かった場所は警察署。Hのデジタルカメラの盗難証明書を発行してもらうため。実は西方見聞録で既に記述したとおり、私は4月の旅行中にベルリンでデジタルビデオカメラを盗まれ、その時警察ではHに通訳してもらった。今回はこれと逆にHの届け出を私が通訳することに。このことに何だか不思議な因縁を感じたのは私だけではなかった。
昨年9月に訪れたこの警察は、地下鉄警察の本部でもある。受付で11番の部屋に行くよう言われ、廊下を歩く。昨年来たときとちっとも変わらぬ風景、11番の部屋だけは部屋番号が表示されていないところも同じ。その部屋の前にある長椅子の側には、壁から手錠が5つほどぶら下がっている。あまりに露骨なその光景にはHも驚いていた模様。
Hとここに座って待つ間、なんだか懐かしさがこみ上げてきた。昨年デジタルカメラを盗まれたのはロシアに来て3週間弱、まだほとんど意志疎通が出来ない頃だった。この椅子に座り、辞書を引きながら警官とコミュニケーションをとった。その様子を見て、廊下でたばこを吸いながら笑っていた警官もいた。ロシア語がほとんど分からないこの日本人にしびれを切らした担当者も辞書を引くのを手伝ってくれて、ここで覚えたのがцель「目的」という単語だった。
今日は「あんた、ロシア語が分かるか?」から質問が始まり、万事スムーズにいった。証明書の内容をコンピューターに入力している間、別の警官らが「日本はワールドカップで負けてもう帰ってしまったな。」とか、「日本人はどうしてベッカムが好きなのか?」などと話しかけてきた。ロシアは出場していないワールドカップだが、彼らは興味を持って見ていたらしい。
ある警官には、「どうしてカメラを盗まれてここに来たのだ?」と聞かれた。「証明書をもらって保険会社に...。」と答えると彼は「そしたら保険会社は金をくれるのか?」と聞いてきた。そんな当然のことをどうして尋ねるのか不思議だったが、次の彼の一言でその理由が分かった。「ロシアではカメラに保険金なんておりないぞ。貧しいから。」
まもなくプリンタから出てきた証明書にスタンプが押され、届け出はあっさりと終わった。昨年同じ事を届け出るのに一体なぜあれだけ苦労したのか、今となっては全く分からない。あの時笑った警官に、今日のやりとりを見せてやりたかった。語学の上達というのは、後で振り返って初めて分かるものなのかもしれない。Hもドイツ語で、似たようなことを感じているのではないか。
ペテルブルクの観光地めぐりで、まさか警察署案内までするとは思っていなかった。Hにとっては不運な出来事だったが、滅多に足を踏み入れない所に来られたというのをせめてもの慰めにしてもらえればと思う。
観光客を狙った財産犯はペテルブルクでも頻発しているが、少なくともこのブログの読者から地下鉄警察、11番の部屋のお世話になる方が出ないことを祈るばかりである。