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未来の少女 キラシャの恋の物語

地球の皆さんは どんな未来で生活したいと思いますか?

第13章 試練ときずな ⑥

2021-06-12 15:59:50 | 未来世界ファンタジー

2008-03-04

6.親と子

 

タケルの目が覚めたとき、目の前には金属の鎖で縛られたトオルとミリが、気を失った状態で横たわっていた。トオルの顔には、殴られたアザと傷も見えた。

 

『パパ、ママ…』

 

タケルは、思いっきり頭をガーンと殴られたような気がして、2人をただ見つめた。

 

『タケル。目が覚めた? 奴らは、これからの仕事の前祝いに出かけてるよ。見張りがいるから声は出せないけど、心の中で話せるだろ? 』

 

『キララ、お前なンか、ウソつきじゃないか! ホントの名前なんてどうでもいいけど、オレを応援してくれるって、あれもウソなのかよ!』

 

自然と声も出さずに、キララと会話しているタケル。

 

『タケルが、何にもわかっちゃいないからさ。

 

こんな悪党達もいるってこと、教えてやろうと思ってね。

 

でも、こいつらだって、表じゃまじめに仕事をしてンだよ。

 

カネさえありゃね…。

 

客には楽しいゲームでも、それを商売でやるには、カネがかかり過ぎるって言うンだ。

 

これから、それを何とかしなきゃいけないンだけどさ。

 

アンタにそれを手伝ってもらおうかと思ってさ…』

 

『冗談じゃない。それって、オレに強盗か何かしろってことだろ?

 

オレにはそんなことはできない。パパやママだって、そんなこと絶対許さない!』

 

『そう言うと思って、この2人を人質にしてるのさ。

 

アンタは、このパパとママがいなけりゃ、やってけないンだろ? 

 

そのダイジなパパとママが、この世からいなくなったら? 』

 

『やめろ! それならオレを殺せ! オレなんて、生きてても全然楽しくないンだ…』

 

『そうかい? アンタには、自分よりダイジに思ってる女の子がいるよ。キラシャってね。

 

アンタがナンて言ったって、心で感じるンだ。

 

アタシにもキラシャって、呼ばせたかったけど、アンタの心がイヤがってた。

 

だから、キララに変えたンだ』

 

「うぅっ...」

 

うめき声が聞こえて、トオルが目を覚ました。

 

「…パパ、ゴメン!

 

殴られたの? 痛かった? オレ、こんなことになるなンて…」

 

タケルは、生まれて初めて自分の父親にすまないと思った。

 

自然といたわりの言葉が出た。

 

「タケル、大丈夫か?

 

おまえが縛られているのを見て、黙って見ていられるパパだと思うか?

 

…パパのことはいいんだ。でも、ママまで巻き込まれるとは…」

 

ミリは、まだ目を閉じている。

 

「パパも、うかつだった。MFiでは、相手の言葉を信じなければ、治療などできなかったが、ここではそのルールは通用しない。パパもこんなことになるとは…」

 

「パパ…。オレ、パパとママに生きていて欲しいンだ。

 

でも、オレがもし悪いことしなくちゃならなくなったら、オレのことキライになるだろ?」

 

「パパは、タケルが宝物だ。お前のためにだったら、命など惜しくない」

 

「オレは、絶対悪いことしたくないンだ。でも…」

 

タケルは、それ以上言葉にならず、大粒の涙を流した。

 

『わかったから! アンタはアタシの言うことだけ聞いてればいい、アタシが何とかするよ。パパには、あいつらに反抗しないように言いな。アンタを守るためにもね』

 

「パパ、オレに何があっても、ママを守ってね。

 

ひょっとしたら、ヒロが警察に連絡してるかもしれない…」

 

『アンタ、バカか?! そうはさせないよ! アンタ、アタシを困らせたいのか?

 

助けて欲しくないのか? まったく、地球人って奴は、わけがわかンないよ!』

 

「パパは、タケルの無事を祈ってる。パパ達のことはいい。タケルは自分を信じなさい。どんな悪いことがあっても、タケルが生きていれば、必ず良い結果につながる。

 

 

…パパはそう信じてるから…」

 

2人の声が漏れたのか、見張りがやって来た。

 

「目が覚めたのか、じゃぁ仲間を呼び寄せるから待ってろ…」

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第14章 善と悪 ①

2021-06-10 17:07:41 | 未来世界ファンタジー

2008-03-05

1.くもの巣

 

宇宙ステーションに昼と夜の区別はないが、休みなく働いているボス・コンピュータが、時間帯によって昼と夜の照明をコントロールしている。

 

レストランで酒を飲んでいた悪党達は、照明が暗くなるまで日ごろのウップンを吐き出していた。

 

「今度こそ、あのゲームでもうかると思ったんだがなぁ」

 

「ゲームは、宝くじみたいなモンさ。当てようと思って大金はたいても、外れたらそれまでよ」

 

「ジャノよ~。今度の虫はチッチャイが、オレら大損したんだ。

 

大きな仕事をしてもらわなきゃ、困るよ」

 

トオルにトュラッシーと名乗ったボス格の男は、あざけるように言った。

 

「自分じゃナンにもできねーくせに、ナニ言ってるんだ。次のゲームのことくらい、考えとけ。オレらにゃ、くもの巣張るしかできねぇンだ。うまい虫か食ってみないとな。

 

アトは、アニョーシャにいい腕見せてもらうだけだ! 」

 

「でも、アンタの言うアニョーシャは、当てになるのかね。前の仕事だって、途中で虫の気ィがおかしくなって、あやうくオレらのことが、バレるトコだったジャないか」

 

「あれは、虫が弱すぎたンだ。今度の虫は威勢がいい。アニョーシャも前の失敗で気合いが入ってるから、うまくすれば極上の虫になる」

 

そのとき、誰かのMフォンから軽快な音楽の着信音がした。

 

「虫が目覚めたらしいですぜ。」

 

Mフォンをチラリと見た男が、ボス格の男に向かって言った。

 

「よし、それじゃ仕事を始めるか…」

 

悪党達は、足元をふらつかせながら、宇宙船の発着場へと向かった。

 

レストランには、男達がいた近くのテーブルに、カジュアルな服装をしたカップルが、だまってMフォンを眺めていた。

 

女は、ため息をついて男に話しかけた。

 

「虫って、子供のことかしら。言ってる本人が虫みたいな顔してるのにね。

 

最近、イケメンの少年が、立ち入り禁止区域のボス・コンピュータ施設へ入って、気が狂ったようにわめいていたのを、保護されたわよね。

 

あれも、今の連中が関わってたってことか…」

 

「その少年は、今も精神科病棟で治療中だ」

 

男はそう言いながら、Mフォンで連絡を取り始めた。

 

「チーフ。連中は宇宙船へ向かった。我々は署に戻ります。以上」

 

「フーっ。やっと帰れるわ。酒癖の悪い連中の話聞いてて、気分悪かったもの。でも最初は、ただの迷子の捜索と思ってたから、まさか犯罪に結びつくとはね」

 

「連中には虫けら扱いされてたけど、その子にはずいぶん気の利いた友達や、頼もしい知り合いがいるようだ」

 

「それにしても、アニョーシャって、何者なの?

 

例のイケメン少年は、シーナとか叫んでいたらしいけど、宇宙ステーションのデータには、シーナらしい住人も、停泊した宇宙船の乗客も、いなかった。

 

あの連中を捕まえても、アニョーシャが捕まらないと、事件は終わらないんでしょ? 」

 

「今回は、人命もかかってる。あの連中を早く逮捕して、次の行動に移らなければ。署に帰って、チーフの指示を待とう…」

 

周りを警戒することもなく、酒の臭いをプンプンさせながら、ほろ酔い気分で発着場の宇宙船に戻って来た悪党達は、入り口の前で合図の口笛を吹いた。

 

宇宙船の中にいる見張りの男が、Mフォンで入り口を開けようとすると、目の前にキララがスーッと姿を見せた。

 

「ちょっと、待ちナ。アタシにいい考えがあるんだ。この子だけ、鎖を解いてくれよ」

 

「アニョーシャ、いきなり出て来て、ナニ言い出すンだ。ジェノが何て言うか…」

 

「アイツの言うことなんかいいだろ。もう、アニョーシャはやめてくれ!

 

アタシがやらなきゃ、アンタに何ができるんだ? 早くこの子の鎖を解くんだよ!」

 

見張り役の男にすごんだキララは、タケルをゆっくり立ち上がらせ、不気味な呪文を唱えながら、頭に手をかざした。

 

「この子は、アタシの思い通りに動くよ。」

 

不思議と、誰も何も言えない。見張りの男も、黙ってタケルの鎖を解いた。

 

「いいか? 入り口を開けても、奴らに、アタシとこの子の姿は見えない。アンタ達もだよ!

 

入って来て文句言ったら、アタシが仕事に連れ出したと言いな!」

 

 

「わかったよ。今度は、ちゃんと仕事しろよ! 失敗したら…」

 

「失敗? アンタらが、ゲームで失敗したから、こんなことやってるンだろ! 

 

そんな口たたけるのも、今のうちかもナ…。アタシは消えるね」

 

キララが姿を消すと同時に、タケルの姿もうっすらと消えた。

 

見張りの男はあきれた顔をして、入り口を開けた。

 

前方には、最新鋭のショック銃を構えた宇宙ステーションの警官達が、手を上げて立ちすくんでいる悪党達を取り囲み、入り口にも銃を向けている。

 

警察のショック銃の威力を知っている悪党達の手は、小刻みに震えている。

 

入り口の見張りの男も、観念したようにゆっくりと手を上げた。

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第14章 善と悪 ②

2021-06-06 17:09:10 | 未来世界ファンタジー

2008-03-06

2.秘密基地

 

キララとタケルは、闇の世界をくぐって移動した。

 

「ここで、休もう」

 

キララは、そう言って、タケルを座らせた。

 

「ここなら、誰にもジャマされない。アタシの秘密基地なんだ」

 

宇宙ステーションの中に、外の景色が眺められる展望台がある。

 

宇宙船の旅行者達が、宇宙からの危険な光を遮断する、特殊な分厚いガラスを通して、次の行き先までの船の安全を考えながら、広大な宇宙を眺めていた。

 

その片隅には、小さな子供が4、5人は入れるくらいの箱が設置してある。

 

以前は、宇宙ステーションのゲームに、コインやカードが使用されていたが、旅行者が出発前に使わないコインやカードをこの箱に投げ捨てていた。

 

神社の賽銭箱のように、この箱に投げ入れると旅の安全にもつながるといううわさもあって、コインやカードでいっぱいになることもあった。

 

Mフォンを使用したポイント制に移行してからは、コインやカードは処分されたが、箱はふたをして、テーブル代わりに使われていた。

 

いつの間にか、その箱の中に入っていたキララとタケルは、ゆっくりとしゃがみこんだ。

 

タケルの身体は、まだキララに支配されているようだ。自分の思うようには動かないが、不思議とイライラした気持ちはなかった。

 

『タケル、パパやママがどうなったか、心配だろ?』

 

キララはタケルの心に話しかけて来た。手のひらを広げると、タケルに見えるように、浮かび上がった宇宙船の動画を見せた。

 

『アタシは、知りたいことを念じたら、こんな風に動画が教えてくれるンだ』

 

その動画は、宇宙船の外で待っていた悪党達が警察に逮捕され、見張りの男も捕まって出て来た様子を映した。

 

救急隊員もタンカーを運んで来た。鎖を解くのに時間がかかったが、男女2人を乗せて救護センターへ向かったようだ。

 

『少しは、安心したかい?』

 

キララの問いかけに、タケルはムッとしながら心で答えた。

 

『偽の動画かもしれないじゃないか。パパとママの元気な姿を見るまで、安心できない。オレをこれからどうする気なのか、それも知りたい…』

 

『その前に、タケルのMフォン返しとくよ。

 

さっきは、悪かったね。アタシは、あの連中におサラバしたかったンだ。

 

アタシは、Mフォンを持ってないから、持ってる奴と一緒でないと、レストランに行っても、ドリンクが飲めないンだ。

 

幽霊ってわかンないけどさ、ドリンクなんて飲まないだろう?

 

アタシは、ドリンクなしで生きちゃいけないンだ。

 

ボックス使って、人間も消えて移動できるンだろ?

 

アタシは消えたいときにいつでも消えるンだ。違うのはそれくらいだよ。

 

あの連中はドリンクをねだったら、いつでも飲ましてやるって言ってくれたンだ。

 

最初は、悪い連中とわからなかったね。

 

アタシはゲームが好きだから、タケルみたいに気に入った子を見つけて、ゲームで勝たせるのが楽しみだった。

 

そしたら、奴らはその子のMフォンから、ゲームのポイントを巻き上げてたらしい。

 

アンタのパパ、Mフォンイジれないようにしてたからね。

 

あせった連中が、アンタのパパを殴り始めた。

 

だから、アタシが止めてやったンだよ。

 

そんなことしたら、大きな仕事ができなくなるンだよってね。

 

アンタは信じないだろうケド…。

 

奴ら、タケルのMフォンからポイントだけ巻き上げて、ダスト・シュートに捨てたんだ。

 

たいして入ってないって、怒ってたケドね。

 

これを見つけるのに、苦労したんだよ! 』

 

タケルは渋い顔をして、キララからMフォンを受け取った。

 

傷もあって汚れてはいるが、壊れてはいない。

 

ニュースの動画を見た。

 

ニュースのレポーターが、タケルの身に起こった事件のことを伝え始めた。悪党達の逮捕と、トオルとミリの無事と、まだタケルが見つかっていないことも報じた。

 

『パパもママも無事だったんだ。良かった…』

 

 

『本当はね。この宇宙ステーションのボス・コンピュータをいじって、奴らに金が入るようにするのが、今度の仕事だったンだ。

 

もう奴らが捕まったから、必要なくなった。

 

前にもマシンに強い子がいてね。ボス・コンピュータに入ったはいいけど、アタシはマシンのことわかんないし、その子の言いなりに動いたンだ。

 

アタシのこと、シーナって言ってたよ。お気に入りの歌手の名前なンだってさ。

 

ニックって名前でね。

 

かっこいいけど、ボス・コンピュータまで連れて行ったら、アタシをホッといて、夢中でいじり始めたンだ。

 

何してるンだ? って聞いたら、オレも、これで大金持ちだって言うじゃないか。

 

ナンてバカなこと考えてるンだって思ったから、ニックの将来をこんな風に動画で見せてやったンだ。そりゃ、カネがありゃナンの不自由もないさ。

 

でも、その先がどうなってゆくのか、考えてもみな。アタシは人間みたいに、スクールに行ってないけど、ロビーで流れてる動画見てたら、わかるよ。

 

 

宇宙船買って、旅行に出かけて、毎日おいしいモノ食べて…。でも、満足はしないんだ。次から次に欲しいモノが出てきて、気がついたら金がなくなってる。

 

それでも、買い物が止まらなくて、人をだますようになって、警察に捕まって…。

 

『そんな人間になってもいいのか? 』

 

ってニックに聞いたら、『オレは、そんなヘマしない』ときた。

 

『そんなに賢いンだったら、アンタひとりでやンな! 』って言って、

 

ニックだけ残して消えてやったンだ。

 

そしたら、ニックが、シーナ! って大声出したから、

 

もう少し困らせてやろうと思ってたら、

 

その前に警備員が来て、捕まっちゃったってわけさ…』

 

『バカな奴…』タケルは、苦笑した。

 

『残念だけど、オレはマシン得意じゃないから、きっと役に立たなかったな。ヒロだったら…、アイツならきっと簡単なンだろうけど…』

 

そのとき、キララの目が光った。

 

ヒロの名前が出て、タケルはしまったと思った。オレもバカだから、何もできないと思えば、それで終わったかもしれないのに…。

 

 

『タケル、頼みがあるンだ。アタシを地球へ連れてってくれない? 』

 

『えっ?』タケルには、思いもかけないことだった。

 

『それは…困るよ。

 

今、オレ迷ってるンだ。このまま地球に帰って、パパもママも大丈夫なのかって。オレさえいなかったら、2人で火星に行って、やりたい研究できるのに。

 

 

できれば、パパとママだけでも、火星に行って欲しいンだ。オレは、もう火星に行く気ないけど、今さら地球に帰っても…』

 

『タケルの言うこと、ナンとなくわかるよ。好きな子がいるけど、いろいろあって帰りづらいンだろ? 』

 

『うっ? …う~ん、そうかもしれない』

 

『アタシにいい考えがあるンだ。そのヒロって子は賢いのか? 』

 

『言ったろ? アイツは先生や学者より物知りだし、自分で作ったMフォンでいろんなこと試してるし、頭メチャいいンだ…』

 

『それなら、決まった。タケルが地球へ帰るなら、アタシもついて行くよ!

 

ヒロって子、アタシに紹介してくれ!』

 

タケルはすごくイヤな予感がしたが、ヒロに知恵を借りて、この得体の知れないキララから、ナンとか逃れる方法が見つかるかもしれないと、タケルは気持ちを切り替えた。

 

何しろヒロは、地球より千年も文明が進んだ星があるって、自慢してたからな…。

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第14章 善と悪 ③

2021-06-04 17:10:35 | 未来世界ファンタジー

2008-03-07

3.タケルの決心

 

ドンドン!

 

「誰か、いるのか?」

 

ドンドン!

 

「少年のMフォンが、ここに入ってると連絡があった。間違いないと思うが、ふたがしまって取れない…」

 

うとうとと眠り込んでいたタケルは、箱を激しくたたく音と人声で目が覚めた。

 

あわててキョロキョロ周りを見たが、真っ暗な箱の中に、“キララ”の気配はなかった。

 

「ボク、ここにいます。タケルと言います。」

 

タケルは、思いっきり叫んだ。

 

 

「声が聞こえる。早くこのふたを開けろ!」

 

ビ~ンという電気音がして、カポ~ンとふたが取れた。

 

タケルは、まぶしい光に目を押さえながら、体格の良い男に抱えられて外に出た。

 

そのまま、タケルはタンカーで運ばれ、救護センターへと担ぎ込まれた。

 

ケガでベッドに寝ていたトオルも、知らせを聞くとタケルの姿を探し、タケルを見つけるとすぐに抱き上げて、痛いほど抱きしめた。

 

ミリもそばで泣いていた。

 

後で話を聞くと、ミリはタケルのことが心配で、警察と宇宙船の知り合いの医療技師に、タケルを見かけたら連絡するよう頼んでいたらしい。

 

そのあとで、その医療技師がタケルを見かけなかったと報告ついでに、また飲みに行きましょうとミリに連絡したが、つながらない。

 

おかしいと思った知り合いが、トオルへ連絡してもつながらないので、警察に居場所を尋ねたのが、捜査の始まるきっかけだったようだ。

 

ヒロがユウキ先生へ頼んで、トオルから送られて来たメールを、警察へ転送してもらったのも良い結果につながった。

 

 

また、コズミック防衛軍からも警察に、捜査についての問い合わせがあり、協力もあったので、スピード解決になったらしい。

 

タケルには、なぜコズミック防衛軍が事件と関係あるのか、わからなかったが、ヒロが助けてくれたことは確かだ。

 

タケルは、感謝の気持ちでヒロにメールを送った。

 

[ヒロ、ありがとう。おかげで助かった。ナイス フォローだよ。ユウキ先生にメールして、バッジのこと頼ンでおくよ。]

 

ヒロからの返事は、思ったより早く来た。

 

[ユウキ先生、スクールで起きた事件で、いっぱいだったからな。

 

まぁ、借りは返してもらいたいけど、そっちの事件はまだ解決したわけじゃなさそうだし…。

 

別にたいしたことしたわけじゃないから、バッジは期待してないけど、

 

まっ、これからも、よろしく!]

 

タケルはヒロのメールにカチッと来たが、“キララ”のこともあったので、すぐに返事した。

 

[ユウキ先生には、早めに連絡しとくよ。それより、女の子をヒロに紹介するよ。

 

その件についても、よろしく! また、メールする…]

 

救護センターで、殴られたトオルの身体検査の結果が出て、顔に殴られた痣がある程度で、特に問題はなかったことから、3人は警察で詳しい事情を聞かれた。

 

トオルとミリは、Mフォンのセキュリティを高度に設定していたので、被害は拉致され、脅されたときにトオルが殴られたこと、タケルのゲームのポイントを盗られたことだった。

 

“キララ”のことも正直に話したが、今も捜索中らしい。

 

「もし、あの段階で、我々が逮捕できなかったら、そちらの家族の誰が犠牲になっていても、おかしくはなかった。連中は酒の勢いで犯罪を重ねていたんですよ」

 

「宇宙ステーションの中は、安全な人間ばかりではない。子供が安易に誘いに乗って、行方不明になったケースが、最近増えてるんだ。

 

Mフォンがそばにあったからいいようなものの、失くしていたら、君は今頃あの狭いボックスの中で呼吸困難を起こしていただろう…」

 

担当の警官から、みっちり説教を受け、耳が聞こえづらくなっているタケルも、言われたことを理解しようとして、神妙な顔をして聞いた。

 

それから弁護士と会い、裁判に関する説明を受けた。スピード逮捕だったので、短期間での裁判で済みそうだ。

 

その打ち合わせが終わり、ようやくタケルの家族は部屋に戻った。身体の芯から疲れ切っていたが、今後のことをどうするか、両親と真剣に話し合わなくてはならない。

 

タケルの心は、決まっていた。

 

まず、両親に火星へ行くよう説得して、“キララ”を警察が捕まえるまで、ヒロと相談しながら捜査に協力して、それが終わったら、地球へ帰るかどうか決めよう。

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第14章 善と悪 ④

2021-06-02 17:12:05 | 未来世界ファンタジー

2008-10-26

4.進級テスト

 

入院中のキラシャとパールは、ホスピタルで特別授業を続けながら進級テストに備えた。

 

ヒロからタケルのメールアドレスを教えてもらい、どんなメッセージにしようかと、前に撮った動画を見返しては、迷っていたキラシャ。

 

タケルから返事が来たら、また今までみたいに、楽しいメールのやり取りをしたい。

 

でも、タケルはどんなメールだったら楽しいと思うだろう?

 

そんなことをボーっと考えていたら、何を送ったらいいのか、わからなくなってしまった。

 

それより、目の前のテストを乗り越えることが、今のキラシャにとって、一番ダイジなことだ。

 

『タケルのことは気になるけど、テストが終わってから、メールしてみよう。

 

タケルだって、ヒロにはメールしてるのに、あたしには、まだ一度もメール寄こさないンだもン。

 

あたしのメールだって、ホントに待ってるのか、わかンないしね…』

 

パールは、ホスピタルで移民用の共通語でのテストを受けるようになっているが、内容は簡単な質問に答えられたら合格だ。

 

でも、キラシャは自分のクラスに戻って、みんなと同じテストを受けなくてはならない。

 

『あたし、テスト乗り切れるかな?』

 

キラシャはそんなプレッシャーを感じながら、テストの日を迎えた。

 

久しぶりの、学習ルーム。

 

ホスピタルは暖房が控えめだったが、大勢の子供がギリギリに座っている学習ルームは、暖かいのを通り越して『暑いなぁ』と感じた。

 

キラシャを見かけた仲の良い子は、「久しぶり!」「元気になったんだね!」と声をかけてくるが、みんな自分のテストのことで頭がいっぱいだ。

 

ヒロは、キラシャを見かけると、ニヤッと笑った。タケルに何かあったんだろうか?

 

ヒロにも、いっぱい聞きたいことはあるが、またカチッとくるようなことを言われそうだし、タケルに何があったのか、聞く勇気もない。

 

キラシャは、いろんな考えが頭に浮かんで、ボーっとしながら自分の席につき、テスト前のチェックをした。

 

中級の進級テストは、何しろ範囲が広い。

 

エリア語、共通語、歴史、地理、宇宙学、数学、生物、科学…。それに加えて、小難しいたくさんのルール!

 

特に、ルールは知らないうちに、突然変わることもあるので、進級テストの直前にひととおりチェックしておかないと、正解をのがしてしまう。

 

未来の11歳は、今の時代の何倍もの知識と、絶え間ない努力が必要なのだ。

 

ただ、問題の解答は選択性で、問題にヒントも隠されているので、ちょっとした知識や判断力があれば、正しい答えにたどり着く。

 

キラシャは、ホスピタルの特別授業で、いろんな先生からモノを覚えるコツと、判断の仕方を教えてもらいながら、楽しく学ぶことができた。

 

あのまま、学習ルームで知識をむりやり頭に詰め込む作業ばかりしていたら、テストを受ける気にもならなかっただろう。

 

キラシャは、ホスピタルでの治療を勧めてくれたユウキ先生と、勉強を教えてもらった先生達に感謝しながら、マイ・ペースで進級テストを乗り切った。

 

キラシャの結果は…

 

共通語・宇宙学・科学・数学・歴史と、たくさん落とした科目があった。でも、もう少し点が足りない科目が多かったので、再テストでがんばれば、なんとか進級できそうだ。

 

再テストは、進級テストの問題と似たような問題が、60%以上含まれているし、再テストが不合格でも、3科目までなら進級が許される。

 

進級してから、午後に行われる補講を受け、定期的に行われるテストの合格点を取れば終了。理解度に応じて、補講の期間が延びたり、早く終わったりする。

 

進級テストが終わったら、子供達は自分の成績を確認して、不合格だと再テスト。

 

再テストも不合格が4科目以上だと、また、同じ学年の再受講通知が送られてくる。

 

結果が出るまでの期間は、子供達はそれぞれに、自分の所属するクラブ活動の大会の準備、展覧会への出品などに追われた。

 

スクールの年間の最終行事として、表彰式と卒業式があり、終業式の日を迎えると、ようやく待ちに待った2週間の休暇がやってくる。

 

しかし、その前に最悪だった暴力事件の裁判が行われることを忘れてはならない。

 

裁判の結果によって、スクールのルール変更があり、普段の生活にも影響することもある。

 

楽しみにしている休暇の予定にも関わる場合もあるし、自分の将来にも関わることもあるので、この裁判は子供達にとって、重要な意味があった。

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