2008-03-03
5.マイクとケンの悩み
長い長いヴァレンタイン・デー。
スクール内では、この日のプレゼント交換は禁止されていた中級生も、チルドレンズ・ハウス内では解禁されている。
中級生の子供達は、今晩ハウスで繰り広げられる、プレゼント交換を気にしながら、午後の授業に取り組んだ。
マイクはパールのことを、気になる子の1位にランク付けていたが、パールは誰にもプレゼントしないと聞いて、よけいにパールのことが気になり始めていた。
ジョンの方が、いつも真正面からパールにアタックしているので、まともに話も出来ないマイクに勝ち目はない。
それでも、たまにパールへメールすると、パールの優しい言葉が返って来る。そのメールを見るだけでも、マイクは幸せな気分になっていた。
マイクの母親ジュリアからは、毎日のようにメールが届く。
[テストが終わったら、長期休暇ね。ためしに、こっちへいらっしゃい。ゲームだってこっちの方が迫力あって、楽しいわよ。ママも楽しみに待ってるわ」
マイクもゲームは大好きだけど、フリーダム・エリアのゲームは、超過激だ。マイクの太くて大きな身体では、仲間とゲームしても、ついてゆけるか、不安になる。
それに、やさしいママは、きっと毎日おいしいモノをマイクに食べさせてくれる。一緒に暮らしたら、今よりもっと太るだろうな。
でも、これ以上太ったら…
マイクは未来の自分を想像してみた。バルーンのように、ふくらんだボディ。
それがどんどんふくらんで行く…。
せっかくのママからの誘いだけど、ずっと一緒だったパパにも悪いし、パールがここにいる間は、パールのこと守ってあげないと…。
ジョディとマギィの会話を聞いて、あの2人からパールを守ってやることが、マイク自身の使命のような気がした。
明日から、来週に迫った進級テストのために、午後の授業やクラブ活動もお休みだ。
午前中の授業もテスト勉強に充てられるので、マイクもケンも、今日だけは思い切りスポーツに打ち込んだ。
仲の良い2人は声をかけ合って、一緒にチャイルド・ハウスへと帰って来た。
「マイク。オレ、ヴァレンタイン・デーって、あんまりスキじゃない。だって、別にスキな子にスキって言うの、いつでもいいジャン?
なンでこだわるンだろうね」
「ボクモ カンケイ ナイネ。
パール ダレモ プレゼント シナイ。
デモ… プレゼント モラウト ウレシイカモ…」
マイクは背も高くて太っているが、目もパッチリしていて、プーさんみたいな感じだろうか。顔がかわいいし、しゃべり方がおもしろいので、割と人気があった。
そんなマイクだから、ハウスのあちこちで待っていた下級生から上級生まで、何人もの女の子から、次々にプレゼントを受け取った。
その中には、サリーとエミリからの、大きなクマのチョコも入っている。でも、本命のパールからプレゼントがないので、うれしそうではあっても、喜びも半分というところだ。
少し立場は違うけど、好きな子からもらえないさびしさは、ケンにもナンとなくわかった。
ケンも、何人かの女の子からチョコを受け取ったが、すまなそうに「ありがとう」と答えた。
ケンは、タケルよりも背が低くて、やせて浅黒い。ネズミのようにすばしっこくて、スポーツは得意なのに、保護者のおじさんに似たのか、いつも自分のやることに自信がない。
たくさんのプレゼントを抱えたマイクをうらやましいなと感じながらも、自分はコレくらいでいいや、とホッと胸をなでおろしていた。
『キラシャは、今年は誰にもプレゼントしないって言ってたけどさ。オレの分まで寄付にまわすことはないのに。いっつも、心配してやってるのにさ…』
ユウキ先生から、タケルがここへ戻って来ると聞いて、よけいにキラシャのことが気になるケン。
『タケルにはぜんぜん勝てる気しないンだけどさ。
キラシャのこと守れるのは、ひょっとしたら、オレの方ナンじゃナイのかな…』
ちょっと自信なさ気に、キラシャのことを心配するケンだった。