2008-03-04
6.親と子
タケルの目が覚めたとき、目の前には金属の鎖で縛られたトオルとミリが、気を失った状態で横たわっていた。トオルの顔には、殴られたアザと傷も見えた。
『パパ、ママ…』
タケルは、思いっきり頭をガーンと殴られたような気がして、2人をただ見つめた。
『タケル。目が覚めた? 奴らは、これからの仕事の前祝いに出かけてるよ。見張りがいるから声は出せないけど、心の中で話せるだろ? 』
『キララ、お前なンか、ウソつきじゃないか! ホントの名前なんてどうでもいいけど、オレを応援してくれるって、あれもウソなのかよ!』
自然と声も出さずに、キララと会話しているタケル。
『タケルが、何にもわかっちゃいないからさ。
こんな悪党達もいるってこと、教えてやろうと思ってね。
でも、こいつらだって、表じゃまじめに仕事をしてンだよ。
カネさえありゃね…。
客には楽しいゲームでも、それを商売でやるには、カネがかかり過ぎるって言うンだ。
これから、それを何とかしなきゃいけないンだけどさ。
アンタにそれを手伝ってもらおうかと思ってさ…』
『冗談じゃない。それって、オレに強盗か何かしろってことだろ?
オレにはそんなことはできない。パパやママだって、そんなこと絶対許さない!』
『そう言うと思って、この2人を人質にしてるのさ。
アンタは、このパパとママがいなけりゃ、やってけないンだろ?
そのダイジなパパとママが、この世からいなくなったら? 』
『やめろ! それならオレを殺せ! オレなんて、生きてても全然楽しくないンだ…』
『そうかい? アンタには、自分よりダイジに思ってる女の子がいるよ。キラシャってね。
アンタがナンて言ったって、心で感じるンだ。
アタシにもキラシャって、呼ばせたかったけど、アンタの心がイヤがってた。
だから、キララに変えたンだ』
「うぅっ...」
うめき声が聞こえて、トオルが目を覚ました。
「…パパ、ゴメン!
殴られたの? 痛かった? オレ、こんなことになるなンて…」
タケルは、生まれて初めて自分の父親にすまないと思った。
自然といたわりの言葉が出た。
「タケル、大丈夫か?
おまえが縛られているのを見て、黙って見ていられるパパだと思うか?
…パパのことはいいんだ。でも、ママまで巻き込まれるとは…」
ミリは、まだ目を閉じている。
「パパも、うかつだった。MFiでは、相手の言葉を信じなければ、治療などできなかったが、ここではそのルールは通用しない。パパもこんなことになるとは…」
「パパ…。オレ、パパとママに生きていて欲しいンだ。
でも、オレがもし悪いことしなくちゃならなくなったら、オレのことキライになるだろ?」
「パパは、タケルが宝物だ。お前のためにだったら、命など惜しくない」
「オレは、絶対悪いことしたくないンだ。でも…」
タケルは、それ以上言葉にならず、大粒の涙を流した。
『わかったから! アンタはアタシの言うことだけ聞いてればいい、アタシが何とかするよ。パパには、あいつらに反抗しないように言いな。アンタを守るためにもね』
「パパ、オレに何があっても、ママを守ってね。
ひょっとしたら、ヒロが警察に連絡してるかもしれない…」
『アンタ、バカか?! そうはさせないよ! アンタ、アタシを困らせたいのか?
助けて欲しくないのか? まったく、地球人って奴は、わけがわかンないよ!』
「パパは、タケルの無事を祈ってる。パパ達のことはいい。タケルは自分を信じなさい。どんな悪いことがあっても、タケルが生きていれば、必ず良い結果につながる。
…パパはそう信じてるから…」
2人の声が漏れたのか、見張りがやって来た。
「目が覚めたのか、じゃぁ仲間を呼び寄せるから待ってろ…」
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