棋楽庵の九州将棋ふまわり日記

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■「由太郎ノートNO.017-第63期大分合同アマ将棋名人戦3番勝負第1局解説:高段者編」

2009年11月13日 | ◆由太郎ノート
★「由太郎ノートNO.017-第63期大分合同アマ将棋名人戦3番勝負第1局解説:高段者編」
 ▲神品和男 対 △早咲誠和(平成21年7月12日対局)

                 棋譜解説:平成21年全日本アマチュア将棋名人 山崎由太郎
                 編集責任:棋楽庵



▲挑戦者 神品和男
△県名人 早咲誠和


=序文=
 高段者編では僕の考えを正直に書こうと思います。「疑問符」と
いうのは、本当は「疑問手」と書きたいのですが、このお二人のよ
うに将棋である一定の地位を持たれると、他人から自分の将棋に茶
々を入れられるのをすごく嫌うはずです。とは言っても、僕も解説
役を頼まれたわけですから、疑問手も敗着もなしで将棋が終わった
ら読んでるほうとしては面白くないでしょう。ただ、言いたいのは
僕が「疑問符」「敗着」と書いたところで僕が「そう思っているだ
け」というだけの話しということです。将棋の真実なんてなんて誰
もわからないということです。

 例えば、こんな場合を考えて見てください。四段の人がある局面
でAという意見を出したとします。そこで、五段の人が同じ局面を
見てBという意見を出しました。こうした場合、四段の方が余程、
自意識過剰でなければ、解答はBであるという結論になります。し
かし、そこで六段の人が現れこの局面はAであると言いました。す
ると、局面の解答はAということになります。しかし、そこでプロ
が現れBと答える…。

 何が言いたいかと言うと、将棋の真実なんて誰もわからないとい
うことです。僕も一生懸命に書きますが、僕の考えを鵜呑みにはし
ないで下さい。実際、この文章自体結構書き直しているのですが、
その短期間の間にも僕の考えは変わっています。




【山崎の結論】
▲神品 和男
疑問符:15手目▲7七角
    19手目▲2八玉
    31手目▲8八飛
    35手目▲5六銀
    37手目▲4六歩
    45手目▲2七銀
△早咲 誠和
疑問符: 32手目△8二飛
     74手目△5六同馬
     76手目△4九角
    100手目△3二銀
    102手目△3一同銀
敗着:  78手目△6八竜

=第1譜=


(指し手 1~32)
▲7六歩  △3四歩  
▲6六歩  △6二銀  
▲6八銀  △6四歩  
▲6七銀  △6三銀  
▲6八飛  △4二玉  
▲4八玉  △3二玉  
▲3八玉  △5四銀  
▲7五歩(第1図)
      △6二飛  
▲7七角  △5二金右 
▲2八玉  △3三角  
▲3八銀  △2二玉  
▲8六歩  △3二金  
▲8五歩  △4二金右 
▲1六歩  △1四歩  
▲5八金左 △1二香  
▲8八飛  △8二飛(第2図)

 ▲7五歩はやけに早いような気がし
ます。神品さんの研究手順なのかもし
れませんが、もし初手合いで相手の情
報が何もなくて指されたら、「中・終
盤タイプなのかな」と思い、序盤に時
間を投入して序盤で突き放すことを考
えます。

 全てを調べたわけではないので確証
はないですが、▲7五歩は居飛車が△
2二玉と角のラインに入った時に突い
ているはずです。意味としては6六で
折衝が起こった際に王手飛車の筋が残
るためと考えています。

 ▲7七角にもびっくり、てっきり飛
車は7八~7六のコースと思いきや、
8八~8六~7六だったのです。しか
し、そのコースを取るのであれば▲2
八玉には疑問符が付きます。というの
も、8八に行くのであれば、8八に8
二とあいさつしてくれる形で回らなけ
れば、8六歩、8五歩が無駄になると
思うからです。

 具体例を示すと、▲2八玉のところ
で、▲8六歩△3三角▲8五歩△2二
玉▲8八飛という順。これなら、後手
も離れ駒があるので△6五歩とはこな
いでしょう。そして、△8二飛を見て
王様を囲うという感じ。本譜は▲8六
歩~▲8五歩と△3二金~△4二金右
の交換になってしまったので明らかに
損という感じがします。

 しかし、そこで△8二飛も意味がわ
からない。ここら辺が変な感じで二人
がかみ合っているのです。なぜ△6五
歩と行かなかったのだろう。検証しま
す。

 △8二飛のところで△6五歩▲同歩
△同銀▲6六歩△同銀▲同銀△同飛▲
同角△同角ここまでは進みそう。そこ
で、▲7七銀、▲9八飛、▲6八飛ぐ
らいか。しかし、▲7七銀は明らかに
筋が悪く以下△3三角▲8四歩△6六
歩▲8三歩成△8七歩▲同飛△6七歩
成の変化が目に映るだけに、やはりな
さそう。▲9八飛は△5四角▲6一飛
△3三角▲6三歩…これは難しいか。
それでは△8八角打? 難しいですけ
ど、いい勝負じゃないでしょうか。ま
~ 普通は▲6八飛ですか。△9九角
成でも△6五歩でも難しそう。明らか
に後手が悪くなる順は見えないですね。

 後手番だから、千日手でもOKとい
うことで△8二飛ということも考えら
れますが、チャンスと見たら動く早咲
将棋らしくない。△6五歩と行かなかっ
た理由は将棋的な理由ではなく精神的
な理由と考えます。



=第2譜=


▲8六飛  △1一玉  
▲5六銀  △2二銀  
▲4六歩  △9四歩  
▲9六歩  △4四歩  
▲3六歩  △3一金  
▲2六歩  △3二金寄 
▲2七銀  △4五歩  
▲同 歩  △6五歩  
▲同 歩  △7七角成 
▲同 桂  △4五銀  
▲同 銀  △5五角  
▲4六銀  △7七角成 
▲5六飛  △6二飛  
▲5三飛成 △6五飛  
▲3八金  △6九飛成 
▲4七金左 △9九馬(第3図)

 ▲5六銀では▲7六飛車も考えたい
です。△2二銀のシカト作戦は、▲7
四~6四飛があるので無理でしょう。
途中▲7四歩に△7二飛という手筋も
ありますが、▲9五角の筋もあるので
ちょっとという感じ。強いシカト作戦
は△8四歩ですが、以下▲7四歩△同
歩▲同飛△7三歩▲8四飛△同飛▲同
歩△8七飛▲8二飛△8九飛成▲8一
飛成△2二銀▲1五歩…。

 この展開は振り飛車優勢と見ます。
というのも、1四歩型の穴熊のポイン
トは振り飛車からの端攻めをシカトし
て▲1五歩~▲1四歩~▲1三ぶち込
みの3手の間に振り飛車側を寄せてし
まおうというもの、つまり端攻めをシ
カト出来ないようでは失敗なのです。

 この変化の▲1五歩はシカトできな
いでしょう。つまり、▲7六飛に対し
ては受けると思うんですよね。しかし、
△6三銀にはそこで▲5六銀と出れば
得です。今回振り飛車は▲6五歩で捌
ける形になっているため8筋逆襲を考
えなくていいのが大きい。△7二飛は
▲8四歩~▲8三角の筋も残るため得
でしょう。

 ここで、知りたいのが考慮時間です。
神品さんが▲5六銀の局面で数分時間
を使っていれば、▲7六飛車と比較し
たのだなとわかりますが、ノータイム
だと疑問符ということです。ここら辺、
棋譜しか見れないのはつらいですね。

 ただ、棋譜の流れから推察するに、
神品さんは序盤にほとんど時間を使っ
てないと推察します。申し訳ないので
すが、棋譜の流れが手成りなのです。
相手を見て手を選んでる感じがしない
のですよ。ただ、その手成りの順で早
咲さんを押さえ込んだのは、大局観が
素晴らしく百戦錬磨を感じさせます。

 しかし、逆に手成りの順を咎めに行
かなかった早咲さんにも疑問も感じま
す。すいません。今の文章は暴言かも
しれません。もし、神品さんが序盤に
時間を使っていたら土下座級です。し
かし、最近自分の言葉を発現出来る機
会が増えてきたので、どこまでがセー
フティかというのを図っている面もあ
ります。言葉は悪いですが実験的に上
の表現を消さずに載せてください。

 ▲4六歩では仕掛けも考えてみたかっ
たですね。つまり、▲7四歩△同歩▲
6五歩△同歩▲3三角成△同銀▲4六
角△7三角▲同角成△同桂▲4六角△
6二角▲7六飛△6三銀▲6五銀が一
例。

 勘違いしないで欲しいのは、仕掛け
た方がよかったと言っているわけでは
ありません。▲4六歩のところで時間
を使っていれば、この変化を考慮した
のはわかりますからこんなこと書いた
りしません。ただ、棋譜しかないので
書いているだけです。

 ▲2七銀はやはり何度見てもびっく
りです。△9九馬の局面ですが形勢判
断をしてみます。どちらも自信を持っ
ている局面でしょう。なんかずるい解
答ですが、理由を言います。この局面
の駒割ですが、極端に言うと居飛車の
銀損と見ます。居飛車の桂・香は取ら
れるという発想です。しかし、今回は
9三桂馬が残っているので、そう簡単
でもないですが、ひとまず、この局面
は振り飛車駒得というのが僕の大局観
です。

 その前提をもとに形勢判断をします。
居飛車は先手を取りまくって、竜も馬
も作り、攻め駒も豊富。駒損はしてい
るが、穴熊は完全体=自信あり。振り
飛車は、こちらは金銀5枚の要塞で硬
さも手厚さも穴熊より上。何より駒が
全て捌けている。=自信あり。こうい
う時に平等の評価が出来るためにわざ
わざオールラウンダーになったので、
結構二人の考えを反映出来ているので
はないかと思います。

 で、僕はどちらを持ちたいかと言う
と、居飛車です。やはり、Zというの
は僕の中で評価が高いんです。えっ?
そんな感情論より将棋的な形成判断を
してくれって? それは無理です。こ
こまで、登ってきてわかりましたが、
将棋的な形勢判断が出来るのはプロだ
と思っています。アマチュアには無理
です。僕がアマチュアのトップではな
いのでこれは暴言であり、推測しかな
いですが、アマチュアの形成判断は感
情が大部分を占めていると思っていま
す。だから、両者自信ありという謎の
解答が出てくるわけです。

 とは言え、僕より強いアマチュアは
100人いないはずですから、この考
えは大部分の人が当てはまると思って
います。「アマチュアは適当である」
これが、僕の前提であり、この前提の
証明が僕の将棋としての最終目標です。



=第3譜=


(指し手 65~103)
▲4四歩  △4二歩  
▲3四銀  △5二歩  
▲5四竜  △9八馬  
▲5二竜  △6五馬  
▲5六角  △同 馬  
▲同 歩  △4九角  
▲8七角  △6八竜  
▲6九歩  △8八竜  
▲3二角成 △同 金  
▲4三歩成 △同 歩  
▲3二竜  △3一香  
▲4一竜  △6三角  
▲6一竜  △8五角上 
▲4八金打 △7六角引成
▲4二歩  △3四香  
▲4一歩成 △5二銀  
▲8一竜  △4一銀  
▲4二歩  △3二銀  
▲3一金  △同 銀  
▲同 竜(第4図)

 △5六同馬。不可解です。なぜ、こ
の馬と生角を交換したのでしょうか。
考えたくないのですが、早咲さんは▲
8七角をうっかりされたのではないか
と思います。

 それなら、僕の中では手順に意味が
通ります。でもま~早咲さんに「うっ
かりですか?」なんて、聞けるのは相
当な気違い野郎ですから、これは永遠
に謎のままでしょう。

 △5六同馬では、△6四馬でどうで
しょう。次の△5四桂~△4六香はか
なりの迫力です。ただ、6三角が竜に
当たるのはネックですが。

 △6四馬に▲5五銀なら△6三馬▲
6一竜△5二香。△6四馬に▲6五歩
なら△7五馬▲2五歩△3三歩▲4三
歩成△同歩▲同銀成△同金▲2四歩△
4二金引▲5一竜△3二金寄、これは
戦えるでしょう。△6四馬に▲8三角
成なら△5四桂▲3七銀△4六香▲4
五銀△4七香成▲同馬△4九竜。ここ
で▲4八金なら△4六金▲同金△同馬
▲同馬△4八竜で▲5四銀なら△3九
金▲同金△4七竜で戦えるでしょう。
△6四馬に対し▲3七金寄るなら△5
四桂▲7五銀△7七香▲同銀成△同桂
でこれも戦えると思います。△4九角
では△7六角ならまだ長かったでしょ
う。△6八竜では△8九竜の方が△3
八角成の詰み筋、また王手竜の筋がな
くまだアヤがあったと思います。

 △3二銀、△3一同銀う~ん、ここ
ら辺も早咲らしくないです。例えば、
△3二銀では△4二同銀▲3二金△3
一歩▲4二金△7五馬▲4三金△5四
桂▲5五銀△4六歩▲3七金寄△4八
馬 逆転!。すいません。この手順は
高段者編では載せるべきではなかった
ですね。低段者編のまやかしの手順で
す。ただ、言いたいのはこの将棋は逆
転するなら、4筋を伸ばして、金銀を
分断するしかなかったということ。以
下の順は指しただけでしょう。

 ここで、「うん、指しただけだと」
と感じた、見栄を張り高段者編を読ま
れている3段以下の方々へ。甘い。四
段以上の人たちは以下の40手に何を
感じるでしょうか。それは、神品さん
への感嘆です。

 この局面を殺し合いに例えるなら、
鎧をつけ5体満足で刀を構えている神
品さんに対し、ボロボロになり足、腕
を切り落とされ、片足、片腕で早咲さ
んがなりふりかまわず刀を振り回して
いる図です。早咲さんの刀が自分に届
かないのはわかっている。しかし、そ
んな中、神品さんは何を感じると思い
ますか? それは「恐怖」です。この
気持ちは文章ではお伝えすることが出
来ません。申し訳ないですが、経験し
てくださいとしかいいようがないです
ね。

 その恐怖を抱えながら、40手を戦
い抜いた神品さんは本当に素晴らしい
と思います。





 


 


◆関連リンク
「由太郎ノートNO.015-第63期大分合同アマ将棋名人戦3番勝負第1局解説:級位者編」 ▲神品和男 対 △早咲誠和(平成21年7月12日対局)
「由太郎ノートNO.016-第63期大分合同アマ将棋名人戦3番勝負第1局解説:低段者編」 ▲神品和男 対 △早咲誠和(平成21年7月12日対局)
「第63期大分合同アマ将棋名人戦三番勝負」結果-NO.1(平成21年7月12日:大分市「割烹 百合」)
「第63期大分合同アマ将棋名人戦三番勝負」結果-NO.2(平成21年7月12日:大分市「割烹 百合」)

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