ユジンはすました顔のミヒをキッと睨みつけた。しかし、ミヒはそ知らぬ顔で、椅子に座ったユジンの前にゆっくりと紅茶のカップを置いた。
「あなたもチュンサンを探しているの?私もなの。ここ2、3日息子と連絡が取れなくて。」
ユジンは紅茶のカップを持とうとしたが、指が震えてしまい、カップはカタカタと音を立てた。
ユジンはひたとミヒを見据えて言った。
「本当なんですか。チュンサンが、チュンサンが父の子供だというのは、本当なんですか?本当に父の息子なんですか?」
すると、ミヒはとても困った顔をしてうつむいてしまった。ユジンは絶望感でいっぱいになってしまい、ぽろぽろと涙がこぼれてしまった。
「本当に彼は父の息子じゃないですよね?お願いです。否定してください。」
しかしミヒは静かに立ち上がると背を向けて窓際に行ってしまった。
「お願いです。違うと言ってください。」
ミヒは静かな声で言った。
「もういい加減チュンサンをあきらめなさい。何もなかったことにしてちょうだい。」
そのころチュンサンもまた、マルシアンで仕事が手につかずにぼんやりとしていた。髪の毛はぼさぼさで、髭はそらずに、東海から帰ったまま着替えもせずに座っていた。そんな彼にキム次長が困った顔をして話しかけた。
「お前、何日も音信不通でどこに行ってたんだよ。目の下にクマができてるぞ。しばらく寝てないようだけど大丈夫か?」
その時、受付嬢と誰かが押し問答しているのが聞こえた。それはユジンだった。彼女がチュンサンのオフィスに入ろうとするのを受付嬢が止めているのだった。しかし、ユジンは怒った顔でオフィスの中に入ってきた。そして、呆然と立ち尽くして自分を見つめるユジンを前に、チュンサンは言った。
「大丈夫です。彼女を通してください。次長、申し訳ないけれど、彼女と二人にしてもらえますか。」
涙を目にいっぱい溜めて自分を見つめるユジンを前に、チュンサンは冷たく言い放った。
「何の用だよ。サンヒョクに聞いてないか。君とは別れると伝えた。だから来ないでくれ。僕はもうじきアメリカに帰る。もう駄目なんだよ。無駄な真似はよしてくれ。」
しかし、ユジンはひるまなかった。
「どうして?なぜダメなの?教えて。」
するとチュンサンはたまらずに目を伏せて言った。
「君を、、、愛してないんだ。記憶が戻ってやっとわかったんだよ。君を愛してなかった。」
「うそよ」
「嘘じゃない」
「やめて、うそよ。愛してるくせに。愛してるなら、このまま愛し合ってはいけないの?」
ユジンの真剣なまなざしと激しい口調に、チュンサンは気が付いた。彼女はすべてを知っているのだと。彼ははユジンを悲しそうに見つめた。
「本当なの?本当に?」
ユジンのまなざしもまた悲しそうだった。怒りを通り越して、今は悲しい思いでいっぱいだった。
チュンサンはたまらずに泣きながらゆっくりとうなずいた。それを見て、ユジンは崩れ落ちるように座り込んだ。これで、ユジンの一縷の望みはは打ち砕かれてしまったのだった。そして、チュンサンが慌てて駆け寄ろうとすると叫んだ。
「来ないで!来ないで、、、。」
チュンサンは、座り込んだまま泣き続けるユジンを、力なく見つめるしかなかった。ユジンにかける言葉は、もはや何もない。やがてユジンは魂が抜けたように立ち上がると、泣きながら静かに部屋を出て行くのだった。そんなユジンを、チュンサンもまた見送るしかなかった。
チュンサンはユジンを見送った後も、頭を抱えて泣き続けていた。ついにユジンに一番知られたくないことを知られてしまった、傷つけてしまった、悲しませてしまった、もう自分たちは終わりなのだ、そんな気持ちでいっぱいだった。