ユジンの母ギョンヒは、冬のカラッとした青空に目を細めながら洗濯物を干していた。しかし、チュンサンの母親のカンミヒと話して以来、その顔はどうしても曇りがちで、浮かない表情になってしまうのだ。すると、門を開けて、ユジンがふらりと入ってくるのが見えた。
「オンマ、なんだか会いたくなっちゃって」
そういって微笑む娘は、今にも泣きだしそうに見えて、ギョンヒの心はざわついた。
家に入って座ると、ユジンは本格的に泣き始めた。
「大丈夫、大丈夫」
と繰り返すけれど、ちっとも大丈夫そうに見えない。
「ユジン、あの人と別れたのね?本当にごめんなさい。結局親同士のせいで別れるなんて。」
すると、ユジンが真剣な面持ちでたずねてきた。
「お母さん、今でもお父さんのこと愛してる?」
「もちろんよ。お母さんにはあなたたち子どもとお父さんがすべて。」
それを聞いてユジンは苦しそうな顔をした。
「もしも、、、もしも、、、ううん、なんでもない、、、私お父さんが憎い、、、憎くてたまらない」
ユジンはバスで実家にくるまで、父を憎み、母を恨んで、すべてをぶちまけてしまいたい衝動に駆られていた。両親のせいで、特に父親が無責任なことをしたせいで、自分たちの愛が成就しなくなってしまったのだ。しかし優しい眼差しで自分を見る母親を見ると、本当のことを言えなくなってしまった。母と父親の思い出を汚すことはできなかった。ギョンヒはそんな娘の胸の内を知らずに、震えながら涙を流す娘を、ただ抱きしめることしかできなかった。
「ユジン、お父さんを憎まないで頂戴。今、お父さんも苦しんでいるはずよ。あなたの恋愛を台無しにして。でもね、お父さんはあなたを世界で一番愛していたの。だから憎まないで。」
ユジンは母の胸の中で、さめざめと泣き続けるのだった。やっぱり母は大切な母であり、父もかけがえのない父であり、憎むことも出来ないし、愛しているのだと痛感した。
そのころ、ズタボロになったチュンサンも、自分のマンションに帰ってきた。チュンサンは最近、頻繁にめまいに襲われるようになっていた。そして今日は特にひどくて、部屋に着くなりくらっとしてしまった。すると、そこに母親のミヒが座っているのが見えた。チュンサンがミヒを無視して自室に入ろうとすると、ミヒが急いで話し始めた。その言葉を聞いて、チュンサンもハッと立ち止まった。
「いつ戻ったの?どこに行ってたの?今日ユジンがここに来たのよ。何もかも全て知ってたわよ。」
すると、チュンサンはショックと疲れのあまり倒れてしまった。ミヒは慌ててチュンサンをベッドに寝かせて、話し始めた。チュンサンは茫然とした表情でそれを聞いていた。
「チュンサン、ごめんね。本当に私が悪かった。あなたが、まさかそんなにユジンを好きだなんて思わなかったの。もし、もしそれを知っていたら、、、、」
チュンサンは疲れた表情で答えた。
「帰って。母さんお願いだから帰って。今は何にも話したり考えたくないんだ」
そういうとチュンサンはそっぽを向いてしまった。ミヒはしかたなく部屋を出るしかなかった。チュンサンはしばらくの間、横になって眠り続けた。いまはただずっと寝ていたいほど疲れている。すると、玄関のチャイムがまた鳴り始めた。無視しようと思っても、何度も何度も鳴らされる。チュンサンが仕方なく玄関に出ると、そこにはサンヒョクの父のジヌが立っているのだった。
ジヌは何か言いたげにいるのだが、チュンサンはそれどころではなかった。急に立ち上がったら、また激しいめまいがして倒れてしまった。薄れゆく意識の中でジヌが父親がどうの、ミヒがどうのと話している気がしたが、もうどうでもよくなっていた。そんなチュンサンを見て、ジヌは慌てて救急車を呼ぶのだった。