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冬のソナタに恋をして

あの日の夜2



やがて真っ暗な河川敷に着くと、漆黒の川の中に、独りの女性がただずんでいるのが見えた。それはミヒだった。ジヌは無我夢中で川に飛び込むと、うつろな目をして川に沈んでいこうとする彼女を引っ張って川べりに引き上げた。ジヌは顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらミヒを抱きしめて言った。

「どうしてこんなことするんだ、どうして!どうして!」

しかしミヒは紙のように真っ白な顔をしたままぐったりとしている。ジヌは彼女を車の助手席に座らせると、急いで自分のうちに連れて帰った。とっさにミヒの両親には知られてはならないと思って、ミヒの家には向かわなかったのだった。そして、何とか気を失っている彼女を担ぎ上げると、2階の客室に運び上げた。びしょ濡れの恰好では凍えてしまう。本当はそんなことをしたくはなかったが、彼女の着ているものをすべて脱がせて、クローゼットからバスローブを取り出してくるんで寝かせた。もはや恥ずかしがっている余裕はなかった。湯たんぽを入れて暖かい布団を何枚かかけて手足をマッサージすると、やがてミヒの顔色がよくなってきた。ミヒはすやすやと寝息を立てて眠り始めるのだった。それを見るとジヌはそんなミヒのそばで、ベッドに突っ伏して眠ってしまったようだった。そして気が付くと、ミヒの姿が消えていた。ジヌはびっくりして家中を探した。すると、1階のリビングで、冷蔵庫にあったシャンパンの瓶を抱えて、バスローブのままソファに座っているミヒを見つけた。ミヒはべろべろに酔っぱらっている。



「どうして、どうしてあんたはわたしを助けたの?死んでもよかったのに」

ミヒは座った目てジヌを見つめていた。

「どうしてって?どうしてかなんて、、、ミヒ、昔から君が好きだったんだよ。僕は君が好きなんだよ。」

必死の思いで言葉を絞り出したジヌに、ミヒは目をすっと細めて見つめ返した。

「うん、知ってる。あんたがわたしを好きなのは、ずーっと昔から知ってた。わたしを好きなあんた。あの人を好きなわたし。全部一方通行ね。ねぇ知ってる?あの人、わたしに指一本触れなかったのよ。子供でも作っちゃおうって言ったのに。このカンミヒがそう言ったのに、あの人そんな勇気もなくて困ったように見てるだけだった、、。」

そういうと、彼女は可笑しくてたまらないというようにヒステリックに大笑いして、そのうち泣き出した。そして、ひとしきり泣き終わると、ミヒはそっとにじり寄ってきて、挑発的なまなざしてバスローブを脱ぎ捨てた。後のことはまるですべてが夢の中の出来事の様だった。ジヌはミヒの自暴自棄な態度の中に、一筋の光を見出していた。ミヒはヒョンスと一線を越えていなかったのだ。これは自分の想いが届く最初で最後のチャンスかもしれない。何よりも先ほど服を脱がせたときに目に焼きついた、雪のように真っ白な肌が忘れられなかった。こうしてジヌは一縷の望みをかけてミヒを抱いた。


やがてジヌが2度目の眠りについて目が覚めると、全ては幻のようにミヒは消えていた。家の中はめちゃめちゃで、ベッドは乱れたままだったが、ミヒの着ていたものと持ち物はすべて消えているのだった。ジヌは何もかもが信じられない気持ちで、すべての証拠を処分して気持ちを落ち着けた。

その夜から2週間ほどして、ジヌは思い切ってミヒの家を訪ねた。しかし、家にはミヒの母親しかおらず、母親はジヌの顔を見ると顔をほころばせて家にあげてくれた。ジヌはいつだってミヒの両親のお気に入りなのだ。

「ジヌ、ミヒが最近おかしいんだけど何か知ってる?特に2週間前の日曜日の夜、遅くまで帰ってこなくて、帰ってきたと思ったらお酒のにおいがプンプンしていて、自分の部屋に入っちゃったのよ。」

ジヌはドキリとしたが、なるべくさりげなく見えるように装った。

「あの、その日はミヒの元婚約者のチョンヒョンスの結婚式だったんです。だから、きっと悲しくて飲んでたんじゃないでしょうか。」

それを聞くと、母親は露骨に顔をしかめた。彼女はヒョンスのことを大嫌いだったし、信用もしていなかった。

「あんな男と別れてくれて、本当に良かったわ。あの人はミヒのことを愛してなかったもの。そんなの母親の勘ですぐわかるものよ。わたし、あなたがミヒと結婚してくれたらいいと思ってるの。」

にっこりと微笑む母親を前に、ジヌは恥ずかしくて耳まで真っ赤になってしまった。しかし続けられた母親の言葉にびっくりした。

「ミヒったらね、前々から決まっていたNYの留学に、前倒しで行ってしまったのよ。もうしばらく帰りません、ですって。きっと、あの男のことを忘れて、自分の夢に向かって進もうとしてるのね。本当に良かったわ。また、あなたも時間があるときに遊びに行ってやってちょうだいよ。」

それを聞いて、ジヌの心は暗くなった。ミヒはこの前の夜のことを忘れて、全てを捨ててアメリカに行ってしまったのだった。やはり自分は捨てられたのだ。というか、初めからあの夜のことはその場限りのことだったに違いない。今日は、もしかしたらミヒにプロポーズできるかもしれない、ジヌはそう思っていただけに落胆して帰宅するのだった。


そのあと何か月かして、ジヌはチヨンとお見合い結婚をした。せっかく結ばれたと思ったミヒに対する失望は大きく、すべてを忘れたかった。それに加えて、当時は恋愛結婚よりも見合い結婚が優先な世の中だった。チヨンの父親は、ジヌの大学の理事であり、将来彼はその大学の研究者、しいては教授になりたいと思っていたから、チヨンの父親からの見合いは願ったりかなったりの誘いだった。ジヌはミヒを忘れようと努力して、チヨンと結婚することにした。チヨンは気位が高くて気が強いお嬢様だったが、そんなところがミヒに似ていた。違うところはミヒは自分で道を切り開くタイプだが、チヨンはジヌを思い通りに動かして夢をかなえていくタイプだと言うことだ。どことなく気質が似ているチヨンを、ジヌは気に入っていた。ミヒとの出来事から数ヶ月後、ジヌはチヨンと盛大な結婚式を挙げた。そして、チヨンはすぐにサンヒョクを妊娠した。ジヌはミヒのことは思い出にして、幸せをかみしめるのであった。

それから1年ほど過ぎたころだろうか。ジヌは息子の誕生祝いのお返しに、ミヒの家を訪ねた。その日も家にはミヒの母親しかおらずに、しかも彼女はジヌを見ると顔を曇らせた。ジヌは不思議に思いながらリビングを見回すと、ある異変に気が付いていた。それは、あんなに自慢げに飾られていたミヒの写真やコンクールのトロフィーが何一つなくなっていることだった。ジヌの不思議そうな顔に気が付いた母親は慌てて言った。

「実はね、ミヒはずっとNYに行ってるのよ。いろいろあってね、もうあんまり連絡を取っていないのよ。蝶よ花よと育てたのに、子供なんて無情よね。あの子のことだから、きっと向こうで成功すると思うの。私たちは成功するまでお金を送るだけ、、、。寂しいわ。」


ジヌが最近のミヒの活躍ぶりをほめたたえても、母親の顔は曇ったままだった。その時のジヌは知らなかったのだ。ミヒの両親は、ある時NYを訪れたら、娘が身重になってた挙句に、絶対に父親の名前を明かさなかったことを。もうとうに中絶する期間は過ぎていたし、父親はヒョンスではないのか?と言う問いには、娘は絶対違うと首を横に振るまま、父親の名前を頑として言わなかった。そしてそれ以上追求しようとすると泣きわめくありさまで、父親を調べようとしたら死ぬ、と叫び続けるのだった。結局、両親はショックでひどく落胆して、娘と大喧嘩になった。そして、これきり会わないと宣言してNYを後にしたのだった。カン家の自慢の娘はいなくなってしまった。

ジヌの中で、ミヒとの思い出は甘くもほろ苦い苦いものに変わっていった。そして、カン家も逃げるように家を売りに出してソウルに引っ越してしまったため、全ては遠い昔の出来事にかわっていった。もともとジヌは善良で単純な人柄だったため、あの夜のことは小さく煌めく宝石のように大切に思って、時折そっと思い出しては懐かしく思うようにもなっていた。本の間に挟んだ3人の写真を見るとほろ苦い感情も生まれたが、同時に初恋を懐かしむ気持ちも芽生えていた。しかし親友だったヒョンスとの間は別で、ジヌは常に小さな罪悪感を抱くようになっていた。もっとも、ヒョンスとミヒは別れていたので、あの夜のことはどうと言うことはないのだが、それでも何も知らないヒョンスに対して、後ろめたい気持ちを抑えることは出来なかったのだ。ジヌはソウルにもう一軒家を買ったことを理由にして、次第に疎遠になっていった。しかし、しばらくしてヒョンスが倒れて病いと闘うようになると、友情は復活した。ジヌは春川の病院にあしげく通っては、ヒョンスを励ますのだった。ある日ヒョンスは真剣な顔をしてジヌに話し始めた。



「ジヌ、いつも世話になってばかりで悪いな。僕にはもうギョンヒや娘たちにしてやれることは少ないんだ。どうか、家族をよろしく頼む。路頭に迷わないように、時々様子を見てもらえないだろうか。お前は僕の親友だ。今までありがとう」と。それを聞くと今こそヒョンスに罪滅ぼしする時だ、と思いたった。そして程なく亡くなったヒョンスに代わって、ジヌはギョンヒ一家を助けるようになった。ユジンの誕生日付近には何気なく訪問してケーキをプレゼントしたり、お土産だと言って文房具を手渡したり、妻のチヨンに分からないように注意しながらも、ギョンヒが負担に思わない程度の支援を続けた。やがてサンヒョクがユジンに恋したことで、両家はますます親密になっていくのだった。時は緩やかに流れて行ったが、ある時全てがガラリと変わるのだった。そう、カンミヒが凱旋帰国してリサイタルをすることになったのだ。そしてすべての悲劇はそこから始まった。

コメント一覧

kirakira0611
@81sasayuri1018 さま、褒めていただいてありがとうございます😊
まだ仕事中で認知症のオンライン研修をしながら冬ソナのコメントをしてますが(笑)
なるほど男性は性格より見かけ(笑)
それにしてもチヨンみたいなワガママで世間知らずな女性を好きになるなんて、お人好しすぎるジヌ、人を見る目がなさすぎる、、、、。あんまり理解出来なくて、大学教授の娘にしてしまいました。そうしたら失礼ながら付加価値があるかと、、、。
今ミヒのその後のエピソードに苦しんでます。ミヒ、なぜ韓国に帰ってきたんだ〜?逃げるように出国したのに?なぜ生んだんだろう?母性愛があるタイプではなく、超自己中なのに。なぜジヌに子どもがいることがバレないんだ〜?普通インタビューとかでシングルマザーで子供が何歳で、とか記事になるだろうし、ジヌが読んでないはずないだろうに。
考えれば考えるほど変な話なのです。
今日もありがとうございました😊
kirakira0611
ぽんぽこぽんさん、ありがとうございます😊
足跡機能が良く分からないんですが、アクセス解析とだれが見てくれたか分かる機能のことでしょうか。
お互いに子育ても仕事も頑張りましょうね。
来ていただいたことが、なかなかリアクション機能を外してるので分からなくてすみません。
これからもよろしくお願いします。
ありがとうございました😊
81sasayuri1018
こんにちは。

ドラマと違和感がなく膨らむ冬ソナ。
筋立てのうまさに引き込まれます。

>数ヶ月後にはもうチヨンと結婚しちゃうの?

このあたりのジヌの心境・・・私にもわからないのです。
でも、案外男性って、性格より見た目の綺麗さ可愛らしさを優先する人もおいでる??

次回も楽しみにしております。うばゆり
kirakira0611
@breezemaster さま、いつもありがとうございます。
女の私からすると、ジヌはミヒがずっと好きだったのに、数ヶ月後にはもうチヨンと結婚しちゃうの?と思いますが(笑)辻褄合わせで似たタイプだから、にしときました。それにしてもなんでこんなに性格が悪い人が好きなのか、理解に苦しみます(笑)もっと癒される人にしとけばいいのに。
それよりもっと理解できないのはミヒなんです。
本当によく分かりません。
これからもよろしくお願いします。
ぽんぽこぽん
いつもステキな記事をありがとうございます🍀

きらきらさんは、わたしと同じように子育てしながらお仕事もされているのにいつもブログも丁寧で本当に頭が下がります✨

わたしは不器用すぎるので憧れちゃいます🥺

それで今わたしは足あと機能をオフにしているんですけどきらきらさんの所におじゃましてもずっとスルーした失礼な状況になってないかなぁってふと思ってコメントさせていただきました😌

なかなか足を運べませんが時々ひょこっとおじゃまさせてもらっています☺️

これからもお身体に気をつけてお過ごしくださいね🙂
breezemaster
おはようございます^^
冬ソナ、本編では、ここまで、細かい妄想は出来ませんでしたが、
自殺しようとしたミヒを助けて、ジヌは一縷の望みをかけてミヒを抱いた。
今回もほんとドラマが見えてくるようなストーリー、書かれましたね。
アメリカに去ったミヒ、両親との別れ、
そして、ミヒをイメージしながら、チヨンと結婚したジヌ、

この背景があって、チュンサンが生まれ、未来にユジンと繋がるんですね
kirakiraさん、否定されるかもですが、すべてが上手くつながっています。
ドキドキしながら読み進めました。
ありがとうございます。
kirakira0611
Aちゃんありがとうございます😊
今ミヒのそれからを書いてるんですが、冬のソナタと辻褄合わせしようとすると、無茶苦茶嫌なオンナになるんですけど、、、(苦笑)困りますね。こんな人嫌いだわ〜と思ってます。
今日も良い一日をお過ごしください‼️
Aちゃん
こんにちは。

なんか新しい物語を読んでるみたいで、おもしろいです。
ベールに包まれていたのが少しずつ解き明かされる感じかしら。
決して新しくはないのに、まるで別の物語みたいに読めちゃいます。

次はどこを補足してくれるのかしら?
楽しみです。
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