一方でキムジヌ、サンヒョク親子はミヒの楽屋で所在無さげに座っていた。ジヌはソワソワして落ちつかない。
サンヒョクは無邪気な顔で尋ねてくる。ミヒにインタビューしたいので、父親に取りなしてもらおうと考えていたのだ。
「父さん、カンさんと知り合いなの?」
「あっ、ああ、、、高校の、、、高校の同級生なんだ。演奏会のポスターを見て、久しぶりに会いたくて来たんだ。ところで、お前は何でここにいるんだ?」
「番組でインタビューをしたくて。」
「、、、そっ、そうか。」
そのとき、打ち合わせを終えたミヒが近づいてきた。サンヒョクに待たせてしまって、と挨拶をしたあと、よそよそしい笑みを浮かべてジヌにも挨拶した。
「本当にお久しぶりです。元気でしたか?」
「ミヒさん、お久しぶりです。」
すると、サンヒョクが横から口を出した。
「私は音楽番組のプロデューサーのキムサンヒョクです。そして、彼の息子です。」
「そう、本当にお父さんにそっくりね。よろしくお願いします。」
「番組のインタビューが出来るか心配だったけど、父の友達と知っていれば、最初から父を通して頼めば良かったです。」
すると、ミヒは冷たい目でジヌを見つめた。
ジヌも気まずそうに曖昧に笑うだけだった。
そんな三人に割って入って、DJユヨルがインタビュー日程の調整を始めた。ミヒはあまり乗り気ではなかったが、そのときスタッフが声をかけてきた。
「ミヒさん、息子さんからお電話で伝言を受けました。今から来るそうです。」
すると、ミヒは会話を打ち切るそぶりを見せて、あとはマネージャーと日程を調整してほしいと言い始めた。サンヒョクとユヨルは安心して、これを機に辞去した。
サンヒョクたちがドアの外に出たのを確認して、ジヌがミヒに声をかけた。
「君に息子がいるのかい?」
その声には恐れと戸惑い、そして驚きが含まれていた。しかし、ミヒは曖昧に微笑むだけで、はっきりとは答えなかった。
「、、、もしかして、君はカンジュンサンを知っているのではないかい?カンジュンサンという男子高校生が10年前に私を訪ねて来たんだ。そして、君のことを知っているか尋ねた、、、。」
「それで?」
「その子は交通事故で亡くなったそうだが、実は君の息子ではないかと思っていた。」
「そんなバカな。うちの息子は生きてるもの。」
「、、、そうだよな。そんなわけない。いずれにせよ、息子はいるんだな。でも結婚したって聞いてないけど、、、」
そのとき開演10分前のコールがかかった。
ミヒはそそくさと立ち去ろうとした。そんなミヒをジヌは呼び止めた。
「君、、、ヒョンスが、、、ヒョンスが亡くなったのを知ってるか?」
ミヒは今日はじめて驚愕の表情を浮かべた。
「やっぱり、知らなかったか。もう16年も前のことだ。それだけは伝えたくて。じゃあ失礼するよ。」
そう言うとジヌはミヒに一礼して立ち去った。
あとに残ったミヒは打ちひしがれていた。
「ヒョンスが、ヒョンスが死んでたなんて、、、」
ミヒは今にも崩れてしまいそうな身体を両腕で抱きしめて、演奏会に向かうのだった。
これらの会話を、ドアを開けようとしたサンヒョクが全て聴いていた。サンヒョクには昔の友人が話しているようにしか思えなかったが、カンジュンサンの名前が出てきたこと、チュンサンが父親のところに行っていた事とミヒの関係性に疑問が湧いていた。また、ミヒがユジンの父親であるチョンヒョンスの死に動揺しているのも腑に落ちなかった。三人は親しい間柄だったのだろうか。ジヌとヒョンスは親友だったが、ミヒについては一言も聞いたことはなかった。しかし、この時のサンヒョクはそれ以上深くは考えずに、いつのまにか忘れてしまったのだった。
部屋から出てきたジヌは、そこに立っているサンヒョクを見て激しく動揺した。今の話を聞かれただろうか?しかし、無邪気そうなサンヒョクの表情を見て、聞かれてはいないだろうと安堵した。そして送るから待っていて、と言うサンヒョクを振り切るように、足早に去っていくのだった。