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次の日キム次長とミニョンがホテル前を歩いていると、何台か放送局の車が走っていくのが見えた。
「あれ、なんだ?ああ、来週ある公開放送か」
キム次長がびっくりして見ている。
しかし、ミニョンは言った。
「ああ、ラジオの中継は明日みたいですよ。」
「ふーん」キム次長は何とも形容しがたい顔をしてミニョンを見つめるのだった。
最近のミニョンはとにかく暗くて沈んでいる。数ヶ月前に韓国に来たときは、あんなに明るくて快活だったのに、人が変わってしまったようだ。原因はチョンユジンとの恋愛だと思うが、二人とも好意を持ちあっているのに、不思議なほどに上手くいかない。もっともユジンは婚約している身で、ミニョンはいわば略奪する立場だ。する方もされる方も無傷ではすまないだろう。いつも側で見ているミニョンがこうも苦悩するのを目の当たりににして、不安を抑えられなかった。そして公開放送、今度はどんな波乱が巻き起こるのだろうか。
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その後、ミニョンがホテル内の事務所で設計図を見ていると、誰かがノックした。開けたドアの主を見て、ミニョンの顔が曇った。サンヒョクだった。サンヒョクは少しやつれた様な様子で、ギラギラした目でミニョンを睨みつけていた。いつも温和なサンヒョクが、妙にふてぶてしく見えた。ミニョンは座るようにすすめたが、サンヒョクは応じずに、立ったままゆっくりと口を開いた。
「あなたをよく知らないけれど、チェリンと付き合っていながらユジンに好きだと言える人だ。きっと何でも手に入れるまで、手段を選ばすあきらめないんでしょう。僕はそんな道徳に反することはしません。人のものに手を出したりしませんし、自分のものは守り抜くタイプです。僕は絶対に諦めません。」
真っ直ぐな瞳で挑戦的な言葉を言われると、ミニョンの心はザラリと撫でられたような不快な気分でいっぱいだった。
「何が言いたいんですか。」
ミニョンが尋ねると、サンヒョクはさらにナイフで切り込むようなことを言い放った。
「ミニョンさん、ユジンがあなたに誰を重ねているか分かるでしょう?カンジュンサンです。ユジンはあなたの中にチュンサンを見ているだけです。あなたを見てるんじゃありません。そんなユジンの心をこれ以上揺さぶらないでください。」
ミニョンは呆れたように苦笑した。ミニョンの心にも火がついた。
「あなたは、カンジュンサンにもそんな調子で話したんですか?僕は揺さぶるなんてことはしません。それは自信があるから。今のは忘れますね。」
ミニョンはサンヒョクの目をまっすぐ見て言った。サンヒョクははっとした。高校生のとき、自分を馬鹿にしたような口調で「殴るのか?殴れるもんなら殴ってみろ」と言ったチュンサンを思い出した。二人は信じられないほど似ている。あの時の屈辱感がサンヒョクを襲った。ここで怯んだら負けだ。サンヒョクは歯を食いしばり、拳を握って続けた。
「ユジンは何があっても僕と別れない。僕から離れないんだ。ちゃんと見ていてください。」
「それはユジンさんが決めることだろ」
サンヒョクは自分の独りよがりを図星されたようで少し怯んだが、もう一度ミニョンを睨みつけて出て行った。ミニョンはそんなサンヒョクの後ろ姿を見ながら言い知れない不安に襲われた。彼は何を企んでいるのだろう。またユジンにとんでもないことが起こらないとよいのだが。
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サンヒョクはドアを閉めて、ほっと息を吐いた。両手はじっとりと汗ばんでいた。自分はいつからこんなに嫌な人間になったのだろうか。ミニョンをメタメタに傷つける言葉を選んで、先制攻撃を仕掛けてしまった。でも全てはユジンを取り戻すため。今なら誰もユジンと別れていることを知らない。ユジンなしでは人生が終わってしまう。手段は選べない。早く全てを元に戻さなけれは。サンヒョクは自己嫌悪とミニョンへの嫉妬とユジンへの執着ともいえる愛情に身悶えしそうになりながら、足早にホテルを後にした。
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ユジンがチョンアとリノベーションの現場で設計図を見ていると、サンヒョクがやってきた。
チョンアはくったくない顔で
「サンヒョク、来たのね」と話しかけている。彼女は二人が別れたことを知らない。
しかし、ユジンは突然の再会に動揺してしまって、声が上ずるのを感じた。
サンヒョクは相変わらず何ごともなかったかのように話し続ける。
「チョンアさん、ユジンをこき使わないでくださいね。僕の大事なユジンのきれいな手に、マメでも出来たら大変だから」
ユジンは自分を諦めないサンヒョクに嫌になってしまい、「仕事中だから遠慮して」と遠ざけた。しかし、サンヒョクは、無理矢理夕食の約束を取り付けて去っていった。ユジンは理解出来ないというような顔をして、その後ろ姿を見つめた。そんなユジンをチョンアが不思議そうな顔で見ているのだった。