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冬のソナタに恋をして

新居


ミニョンはアパートに帰るユジンと別れた後、マルシアンからほど近いマンションにやってきた。ここがミニョンの新居になる。そこは今時の小さな低層マンションで、単身世帯か新婚夫婦が住むにはぴったりの2LDKの間取りを選んだ。ミニョンは今までホテルに定泊していたので、韓国で住居を構えるのは初めてだった。部屋の中にはまだ家具は何一つ入っておらず、段ボール箱がいくつか積まれていた。新居のリビングには大きな窓があり、外には木立が見えていて、とても住み心地がよさそうな部屋だった。一人で暮らすには、少し広すぎるくらいだった。もともとミニョンが韓国に来たのは、チュンサンの記憶がなく、母国を知らなかったからで、そんなに長い間滞在するつもりもなかったため、荷物は本当に少なかった。

ミニョンはまずは母親のミヒに電話を入れて、がらんとした部屋をうれしそうに眺めていた。するとそこにユジンがやってきた。ユジンは今までにないほど明るい表情をしていた。高校生のときのユジンを彷彿とさせるような、ハツラツさを見せていた。

「玄関開けっ放しよ。」

「迷わなかった?」

「うん。大丈夫。これ、引っ越し祝いのプレゼント。」

ユジンはセンスの良い置物を渡した。

「ありがとう。君が初めてのお客さんだよ。」


「あら、それは光栄ね。すごく広くていい部屋!」

ユジンが部屋に入ってくると、ミニョンは満足そうに言った。

「ミニョンだった時、家は必要ないと持ってたけど、今は家があって本当にうれしいんだ」

「でも、何にもないのね。いくら一人暮らしでも、家具は必要でしょ?プロに任せてね。わたしがセンスの良い部屋にしてあげるから」

自信満々に話すユジンにミニョンが嬉しそうに答えた。

「僕はこのままでもいいよ。だって愛する人の心が一番いい家なんだろ?家具なんてなくてもいいさ。心があるんだから。」



室内をうろうろ見て歩いていたユジンは驚いたように振り返ってにっこりと笑った。ミニョンとしてチュンサンに会って何回目かの時、仕事の現場で、ミニョンにサンヒョクとの新居はどんな感じがいいのか?と質問されたときに、ユジンが返した答えだったのだ。


そうは言っても、ユジンはミニョンと一緒にてきぱきと家具を決めて、いろいろなものが納品される日がやってきた。業者が次々と荷物を運んでくる中で、二人も張り切って荷物を整理していた。その中の一つに大型の油絵が運ばれてきた。その絵は白樺のような小道が描かれており、白いコートと赤い帽子を被った二人が、背を向けて森を眺めているというものだった。

「わあ、大きな絵ね。」

「うん、僕が描いたんだ。」

ユジンはびっくりして絵を眺めた。ミニョンはとても多才なのだな、と思ったが、同時にその絵がまるで南怡島のメタセコイヤ並木のようでもあり、二人はミニョンと自分のようにも見えるなぁとも感じていた。赤い帽子をかぶったのがユジンで、白いコートがミニョンだろうか。


二人は一緒に絵を飾ったり、ダイニングテーブルを移動させたり、ソファにクッションを並べたりした。ユジンがクッションをソファに並べていると、ミニョンが一つ一つクッションを渡してくれた。そしてクッションを渡すふりをして、ふざけてユジンの手をつかんだ。ユジンはもうっというようにミニョンをにらんだが、ミニョンがあまりに幸せそうなので、思わず微笑むのだった。

引っ越し業者が作業を終えると、ユジンはミニョンのために紅茶を入れて、二人はあの絵の前に座って一休みをした。リビングには4人掛けの白いソファが置かれ、紺色のクッションがきれいに並べられていた。壁には小舟が湖に浮かぶ油絵が飾られて、ダイニングには大きなテーブルと、椅子が六脚用意された。これでマンションが家らしくなった。ユジンはゆっくりと高校時代の話をしはじめた。担任の先生がカガメル(ゴリラ)というあだ名だったこと、カガメルが二人で授業をさぼった罰に焼却炉当番をさせたこと、、、。クイズ形式でいちいち質問されるけれど、ミニョンは何一つ答えられなかった。そのうちユジンは、

「私は優等生だったけど、あなたは不良だったわ」と言い出した。



ミニョンは僕が覚えてないのをいいことに、適当なこと言ってる、と言って二人はくすくすと笑った。その時ユジンが言った。

「大晦日の日に私があなたに貸したものを覚えている?」

「ミトン!」

ミニョンは即答した。すると、ユジンの顔がパッと明るくなった。ついにミニョンはチュンサンの記憶を取り戻したのだ。しかし、ミニョンはユジンが以前そのエピソードを話していたことを覚えていただけだった。ユジンの顔は一気に暗くなり、悲しそうにでも懐かしそうに話し始めた。

「チュンサンがね、ミトンを返すほかにも、大みそかの日に話したいことがあるって言ってたの。何だったのかな」


思い出に浸りながら独り言のようにつぶやくユジンを見ていると、ミニョンはたまらなく切なくなってきた。早く、チュンサンとしての記憶を取り戻したいのだが、なかなかそうもいかない。本当にいつか記憶を取り戻せるのだろうか。ミニョンは涙ぐむユジンを見るたびに、悲しくて悲しくて胸が張り裂けそうだった。二人の間に沈黙が広がっていった。

コメント一覧

kirakira0611
@samsamhappy さま、本当にそう思います。
激しく同意‼️
こんな嫌な展開だったのね、って思って書いてます。
ありがとうございました😊
kirakira0611
@81sasayuri1018 さま、そうなんです❤️良いセリフをこんなふうに使っていて、おおっと思いますね。
クッションのところはアドリブなんて、通りで本当に楽しそうです。
これから辛い展開です。次回書いたのは本当にカガメルが嫌で、書くのに2週間かかりました。
ハッピーエンドだといいのに。
kirakira0611
@maki3636 さま、ありがとうございます😊
そちらはずいぶん寒くなってきたようですね!
いつも読んでいただいてありがとうございます。
毎朝パチンコ屋の前を通勤すると、冬のソナタの雪だるまが2個、お地蔵様のように飾られています。多分パチンコ冬のソナタが大ヒットしたので、飾ってあるんでしょうね(笑)元気をもらって仕事してます。
makiさまもお元気でお過ごしくださいね♪
kirakira0611
@breezemaster さま、ありがとうございます😊台風はいかがでしたか?
ミニョンとユジンの束の間の幸せってやつですね。このあとを今書いてますが、胸が痛くなる連続です。ミニョンがチュンサンと融合していい感じにマイルドになって、ユジンは気の強さとくったくのなさが戻ってきて楽しいですね。今まであいまいに笑っていたユジンが嫌なときは嫌〜な顔をするのが面白いです。
監督が選ぶ絵がどれも、南怡島を彷彿とさせるのでツッコミました。でも、ミニョンが描いたってのは無理があるような(笑)
隠しアイテムが沢山あり面白いですね。
ありがとうございました😊
samsamhappy
束の間の穏やかな時間でしたね。
なぜ、このまま幸せに向かわせてくれなかったのか非常に不満が(笑)
81sasayuri1018
こんにちは。

>愛する人の心が一番いい家

アノ会話の出る部分良かったですよね♡
そして、クッションを渡すふりして手をつかむところ・・・
このままハッピーエンドだったら、どんなにいいか・・・ですが・・・
maki3636
おはようございます。
いつも楽しみに拝見しています。
breezemaster
おはようございます^^

楽しそうなユジンとチュンサン、1番幸せな時期ですよね。
そして、会話も何か、昔に戻ったかのような、明るいユジン、
おとなしいチュンサンでは無く、明るいミニョンなのが、
良い雰囲気ですよね。
さすが、kirakiraさんなのが、大きな絵、
南怡島のメタセコイヤ並木と二人を表しているかの絵の判断です。
なるほどぉと色々なところで、ストーリーを繋げているのを感じさせていただきました。
kirakira0611
@hananoana1005 さま、おはようございます😃
台風はいかがですか?被害はないでしょうか。こちらはまだ吹き荒れております。
幸せな時間は長くは続かず、、、ですね。今日は久しぶりにほっこりです。今16話の誕生日を書いてます。書きにくいところは、ミヒとかギョンヒが出てくるところと、チェリンが出てくるところです(笑)頑張ります😊
hananoana1005
こんばんは😃🌃
幸せを絵に描いた様なシーンですよね~
これ以上2人は苦しまなくても済む方法があれば…書き替えてあげたいですね‼️
真実に近付けば苦が待っている。
サンヒョクもジヌもチヨンもミヒも含めてとても辛い作業が。

キラキラさん~頑張ってくださいね🦾
kirakira0611
@usagimini さま、そうなんですね❤️
とても仲良さそうで、良いシーンですね。メイキングのとき、かなりチェジウさんが気が強そうでびっくりしましたが、、、。確かヨン様をクッションで殴ってたような💦
久しぶりに穏やかなシーンが続きます。
また教えてくださいね。
ありがとうございます😊
usagimini
こんばんは。いいシーンですよね。
クッションのシーンはアドリブだったと聞きました。
kirakira0611
@charlotte622 さま、ありがとうございます😊
長い話で分かりにくいですよね。13話の母の涙に書いたのですが、
母子家庭で父親がだれか、たびたび息子に聞かれた→言いたくない母親→恨む息子が記憶喪失に→これ幸いとアメリカに連れて行き、アメリカ育ちの記憶をうえつけて、自分は再婚して新しい父親を作る→陰気なチュンサンからミニョンに生まれ変わる→母親はハッピー、という流れです。
ドラマを観てないと分かりにくいですよね。
ありがとうございました😊
charlotte622
今晩は。サンヒョクとも別れたし、これでミニョンとユジンは幸せになれると思うのですが、もうひと波乱あるんでしょうねえ。
それにしてもチュンサンは事故の後どうして助かったのに死んだことにされて、ミニョンという違う人間として生きてきたのでしょうか?カン・ミヒにはそうしなければならない理由があったのでしょうか。
もしかして私がその辺りを読み飛ばしているのでしょうか?
杏子
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