「流しのしたの骨」 江國香織

この本を前に一度読んで、とても気に入ったフレーズがあります。
寒い季節になると　必ず思い出すその言葉は・・・

　　　　
私たちは子供の時分からいいきかされてきたのだ。
それらの防寒具を正しく身につけて、私たちはみんなあたたかく気持ちよく
心平らかにおもてに出る必要があると。
父にいわせてみればそれはほとんど個々に課せられた義務であり、
それを怠って寒そうな顔をして、まわりの人間を心配させるのは
実に恥ずべきことなのだった。
　　　　

私も全くその通りだと思うから。
いかにも寒そうな格好して、”風邪ひきそー”なんて言ってる子を見ると
バカみたい・・・と思ってしまうのであった・・・。

ということで、朝晩寒いほどになってきて　この本のことを
思い出したので、久しぶりに読んでみました。

両親と、嫁いだ姉、OLの次女、主人公である、学生でも社会人でもない三女、
中学三年の長男、という家族の日常を描いた物語。
自分の家庭では普通なことも　よそから見ればヘンなこともあるのかも、
と思わせる、ちょっと変わった家族です。

江國さんの小説はとても好きで（最近の恋愛小説の、
やけにオシャレで冷たい感じはあまり好きではないけれど）　
この物語の中でも、仲の良いきょうだいが、夜、誰かの部屋を訪れて、
温かいお茶を飲みながら、思い思いのことをしている様子なんか、
目に浮かぶようで　いいなぁ。

最近の「間宮兄弟」（実写映画化されます・・・）でもそうだけど、
日常の小さなことや、家族の行事を大事にする様が微笑ましい半面、
他の誰にも邪魔されない　家族の結束の強さを思わせて、
ここの家の子供達と結婚する人は　大変だろうなぁ・・・　
なんて思ってしまう。

この風変わりな家族は　お互いのことを大事に思いながら
優しく温かく穏やかに過ごしています。
（そういえば　誰かが激昂する場面はひとつもなかった・・・）
ちょっと現実の生活ではないような　不思議な幸せが
いつまでも続いていてくれたらいいな・・・なんて　思いながら
読み終えました。

タイトルは　なんだかサスペンスホラー的ですが、
全くそんなことはなくて、薄暗い流しの下に　梅干や梅酒や手作りジャムや
そんなものが入れられていて、他人には気軽に覗けない、
まるで　その家族だけの歴史の詰まった秘密の場所。
英語にもskeleton in the closetという言葉があるように
他人にはわからないことも　家族の間では　
分かり合えてしまうのかもしれませんね。

主人公は”かちかち山”のタヌキの言葉から、
その”流しのした”を連想するのだけど・・・。

余談ですが、前に　童話や昔話は怖い、という話で
盛り上がったことがあるのですが、（こちら）
この「かちかち山」もかなり怖い話です。