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 敢えてそう表現したことを「手抜き」と捉えられるのは愉快なことではない。ま、そう受け取られてしまう自分のレベルはさて置いて(^^;
 今なら仮に手抜きしても「そう表現したんです!」くらいのことは言うけどね。

 あれは小6の時。
 図画の時間、学校の近くの風景を水彩画にした。
 自分は当時建設中だった道路工事の現場を描いた。
 伸びゆく百万都市。道路の上に新しい陸橋がアーチを描き、その上でダンプカーといった工事車両が行き来していた。

 いつもは要領よく時間内で終わらせる自分が、その時はダンプカーを丁寧に彩色していた為、時間内に終わらず、数人の級友らと居残りすることになった。
 それまで無駄口を交わしながら絵を描いていたみんなも無口になり、早く帰りたいという気分があたりに満ちていった。
 一人の子が椅子をガタッといわせ、急ぎ足で絵を提出しに教壇へ向かう。羨望とあせりの浮かんだ目が後を追う。
 自分も塗りあがったばかりの、まぶしい橋の塗装を思い浮かべて着色し、ありがちな雲がふたつ、みっつ浮かぶ空を塗って絵を完成させた。
 ふううと一息つくと、完成した喜びと帰れるうれしさで胸を満たしながら嬉々として担任教師に提出に行った。

 ところが教師の反応は予想外。描き直しをくらった。
 座席へ戻る自分はバツの悪い顔をしていたに違いない。級友の何人かがニヤリとこちらを見た。
 戻された原因は、なんとなくだが見当がついた。ところどころ塗り残しの、白い画用紙が見えていたのだ。
 こすったバンパーをレタッチするデート前の若者のように、白い隙間を手際よく絵の具で埋め再度提出に向かう。受け取った教師はこう言った。
 「これでいいのか? このダンプカーは手間がかかったかもしらんけどよ・・・」
 描き直しをさせらた本当の訳がわかった。蛍光色めいたどぎついオレンジで平板に塗りつぶした橋。教師はそれを自分の手抜きと受け取ったのだ。
 いいのか、と聞かれても応える術はなかった。自分にはそのように見えていたのだから。
 「・・・ハイ」
 「・・・そうか、帰ってよし。」
 教師の目には、蔑みの光が浮かんでいた。
 帰路、頭の中では「これでいいのか?」という言葉が、繰り返し浮かんだ。その度に、いわれのない罪悪感に似た思いが胸に広がった。
・・・・・・

 と小説チックに書いてみた。
 自己憐憫に浸るわけじゃないけど、あれはひどかったと思う。今の自分なら学んだ「光と影」の知識があるから、それらしい陰影の付けようや色の変え方も知っているが、小6で絵の知識なし。しかも写生じゃなくて、頭の中にある近所の風景でしょ? 「これでいいのか?」って、それ以上期待する方が無理。

 あの塗り立ての、毒々しいまでのオレンジ色の橋、先生を引っ張り出して見せたかったなあ。本当にこのとおりなんだよ、って。悔しかったな。

 楽しい思い出の色はあんまり鮮明じゃないのに、あの橋の色を今でも鮮やかに思い出せるのが、なんか可笑しい。

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