カン・サンジュンの名前を聞くと思い出さずにはいられない光景がある。15年くらい前の「朝まで生テレビ」の1シーン。その場の雰囲気にそぐわない、左掛かった青臭い主張をとつとつと述べる姿。周囲のゲストから飛ぶ罵声。今で言うならさしずめ「KY」の一言で片付けられてしまうような情景。
だから本書「悩む力」が上梓されたときは、なんだか得心がいったし、読まなくても内容が分かる(^^; ような気さえした。それでも手に取ったのは、自分の抱えているテーマと重なる部分があったからだろう。
本書の章立てを並べてみる。
・「いまを生きる」悩み
・「私」とは何者か
・世の中すべて「金」なのか
・「知ってるつもり」じゃないか
・「青春」は美しいか
・「信じる者」は救われるか
・何のために「働く」のか
・「変わらぬ愛」はあるか
・なぜ死んではいけないか
・老いて「最強」たれ
このように人が悩むポイントを豪華絢爛、几帳面に突いている(^^; しかも、「この悩みは新しいものではない、漱石がこんな風に提示していた」と人の悩みの変わらぬことを100年前の文豪をもって説明している。
自分が一番しっくりきたのは、「現代の悩み・不幸の多くは『自由』から発している」というもの。
『自由』というものは枠があることによってその枠内で初めて感じられるのであって、真の『自由』の状態に置かれたら多くの人は何をしたらよいか戸惑わずにいられない、という主張にはまったく同感。
今、似た内容の本で『鬱の力』(香山リカ、五木寛之)を読んでいるのだが、テーマ・主張の部分でかなり被っているのは偶然とは思えない。やはり、時代の雰囲気を掬い取っているんだろうな。
一読後、漱石を再読したくなること請け合いの好著。
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