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半島を出よ (上)

幻冬舎

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 ここ数年、主に経済的事情から読書量が以前の10分の1位に落ちていた。だから、硬いもの、長いものを読みこなす「読書力」は相当落ちていると自覚している。
 年末にBookOffで購入して以来、チラ見もしていなかった『半島を出よ』も、出版時から書評などでチェックしていた「読みたい本」ではあったが、登場人物一覧にまず圧倒された。
 気を取り直して読み出す。ホームレスの描写と預金封鎖、インフレ。危機的状況の日本。遅々として進まないページに読み終えることができるのか、という不安が胸を掠める。が、いつしか「村上ワールド」に引きずり込まれ、今は早く下巻を読みたい思いでいっぱいだ。
 「限りなく透明に近いブルー」でデビューした作家の筆致は今もさえわたる。近未来の、説明描写が多い本作でも文学的表現満載。
 例えば、ホームレスの大勢いる公園に露店が並んでいる描写なのだが、
「パンストを売っているのは恐竜の子どものような体型の、顔色の悪い若い女だった。」
 何という描写!それでいて若い女の表情まで見えるようだ。村上龍という書き手の凄さを思い知らされる。
 話も「北朝鮮の精鋭部隊が福岡を占拠する」という、これだけ見れば荒唐無稽な話なのだが、妙なリアリティがある。それはさりげない描写の積み上げと、多くの取材で調べ上げた情報の積み重ねによるものだろう。詳細は省くが、昆虫、蛙などの生態からプロ野球球団(旧ダイエー)ホークスまで、いや、幅広い事柄を様々な人を通じて語らせるのがうまい。
 情報の積み重ねということで言えば、普通これだけ説明的描写が多くなると文学的な表現などどこかへ行ってしまうものだが、要所、要所に置かれた表現が本書を文芸書としても価値ある一冊にしている。装丁にもちりばめられているヤドクガエルへの言及で、
 「そのすべてが信じられないような配色で、しかもフェラーリやランボルギーニのボディのようなメタリックな輝きを持っていた。」
 蛙の皮膚を表現する形容が「フェラーリやランボルギーニ」!
 あんまり褒めるのも癪なので(^^;)、ツッコミをひとつ。危機管理センターでこの異常な状況への打開策を検討する場面。以下、木戸は総理大臣、重光は内閣官房長官。
 「周囲の空気の重力が二倍になったかのような息苦しさがあり、木戸と重光は頭を抱え込んでいる。」
 たぶん、重力って言葉が頭に浮かび、それを活かそうとしてこういう表現になったと思うんだけど、この表現は破綻している。それを言うなら「~空気の密度が二倍~」じゃないか?
 でも、上巻430ページの大著で、自分がツッコミ入れられるのはこの一箇所だけなんだから、すごい、としか言いようがない。

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