ニューヨークでジャズピアニストを目指していた鷲津政彦は、ある事件の知らせを受け「ハゲタカ」となることを決意する。そしてバブル崩壊後の日本で、経営破綻状態の企業を次々と買収していく・・・
大きな筋立てとしてはサプライズはない。賢明な読者には、作者が本作の最後で大事そうに明かす秘密すら、プロローグの「割腹自殺」でおおよその見当はつくだろう。
毎度書くのもアレだが(^^; 、まず思考を妨げない文体がいい。過不足のない的確な描写はスムーズに作品世界へいざなってくれる。
また、金融の世界について詳しくない読者も楽しめるよう、前提知識が嫌味なくさらっと解説されているのも好感が持てる。このあたり、相当の資料を読み込む作業をしていると思うが、その知識の活用に嫌味がないのは作者の力量。
そして描かれる魅力的な人間たち。
ゲーム大好きオタクでどこか憎めないアラン・ウォードや、アランの姉さん役で凄腕のパートナーリン・ハットフォードといった鷲津チームの面々。大手銀行を辞めて友人の会社再建に奔走する芝野健夫、老舗ホテルオーナーの娘松平貴子・・・時に利害が一致し、時に対立しながら付かず離れずで物語は進行する。事に直面して迷う心の葛藤や、人情の機微が実に生き生きと描かれており登場人物たちは自分の心の中で命を与えられた。次作(バイアウト)での再会が楽しみだ。
「ハゲタカ」という名で貶められた外資に悪いイメージを持っている日本人は今も相当数いると思うが、鷲津たちのそれを見ると国やマスコミによるイメージ操作だったということがよく分かる。もちろん作品には描かれてない相当ひどいこともやるような「ハゲタカ」もいただろう。が、創業者一族が会社を「金のなる木」としか見ずに、従業員よりも自分たちの資産保全を優先させるケースも相当数あったことをうかがい知ることはできる。
今まで読んだ数少ない経済小説にきまって登場するのが、バブル時の銀行の過剰融資と本業以外のゴルフ場への投資。これ、この業界の定番なのか? 本作にも同じ話が登場し、ここだけは吹いたwww
ただ・・・後知恵ではどんなことでも言えるわけで、渦中にいる時に的確な判断ができる人は少ない。
そういう意味では、作品中で何度か描写されている、空高く旋回するイヌワシ(ゴールデン・イーグル)は、ハゲタカに徹しきることのできない鷲津のあこがれであり、すべてを見通す目を持ちたいという人間のあこがれの象徴なのだろう。
いずれドラマも借りて見ようと思う。
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