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ベイジン〈上〉
真山 仁
東洋経済新報社

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 何をもって最高と呼ぶか。自分の場合、本作のような政治サスペンスは、人物にリアリティ(=説得力)があるか、描写が過不足なく、こなれているか、そして語りはうまいか、この3点で評価したい。
 どんなに面白い着想、奇想であっても、語り方が下手では興ざめしてページを閉じてしまう。描写が下手では「いちいち付き合ってられるか」と斜め読みになり、人物が描けてなければ、読後の印象は薄いものとなる。
 この作品は(読了してないが)すべてに5つ☆を与えたくなる出来。真山仁は、海堂尊、荻原浩につぐ本年3人目の収穫となった。

 2008年8月8日。北京オリンピックの開幕に合わせて運用開始が計画されていた世界最大の原子力発電所「紅陽核電」。オリンピック開幕に間に合わせるため、3年前日本から屈指の原子力技術者、田嶋が紅陽核電に招かれざる客として参加させられていた。田嶋はそれまで自分が関わっていた巨大プロジェクトの完成を見ずしての「栄転」である。
 一方、中国に全てをささげる共産党員、(ドン)。父や兄の反政府的な生き方の所為で割を喰ってしまった彼は、一途に権力の道を這い上がろうとする。そのために地元権力者のやっかいものの娘(家族からももてあまされ、キレッぷりが半端ではない)を嫁に迎える。
 この二人の、技術者の矜持と国家の威信にかける思いのせめぎ合いは圧巻の一言。しかも、感情を御する理性も十分に持っており、反目しながらもお互い認め合う存在になっていく。

 この二人が、自分の信じたものにかける思いはすさまじく、目的のためにはたいていの我慢はしてみせるという姿勢は見事。下手な人生指南の書より100倍胸に染みる。

 北京オリンピック開幕まであと4日となったが、春先のチベット暴動のことなども触れられており、著者のこの作品への思いが伝わってくる(緊急に加筆したと思われる)。
 オリンピックといえばテロなどの報道も聞かれるが、本書を読むと細かい政治の話抜きに中国の権力について分かった気になるから不思議。というか、著者の筆力だろうな。
 今まで人伝えに聞いていた「日本人は大人しい」という中国人の評価を実感させられた。だから、「中国人とは付き合えない」のではなく、「それでも共に協力し合う」という道に一筋の希望の糸をかけたい。

 下巻の、田嶋との行く末を見守りたい。

P.S.
 どうでもいいことだが、日本語の「原発」より中国語の「核電」という表記がカッコイイと思うのはなぜ(^^;



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