KEVINサイトウの一日一楽 

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博士の愛した数式(BOOK編)その2

2006年02月05日 | Book
 この素晴らしい本について、何かを書くと、心の中に残った透明で大切なものが崩れてしまうようで躊躇われる・・・。

 本当の感想は、前回のBLOGで十分です。

 それでも僕が何かを書こうとするのは、博士のように完全なものの前で謙虚になりきれないから。自己嫌悪をこめつつ・・・。

 数字というと、今の世の中、金だ。カネ、金、MONEY、カネ。

 カネは、人間を汚してしまう(残念だったなホリエモン)。
 しかし、真実の数字というものは、かくも荘厳で、永遠で、美しく、完全なものだということをこの本は教えてくれる。数学の時間はお睡みと決まっていた僕には想像だにしないことだった。

 優れた数学教授であった博士は、交通事故によって80分しか記憶が保たない状態となってしまう。その彼のもとに10歳の息子を持つシングル・マザーの家政婦が雇われ博士の家に通うことになる。

 80分しか記憶が保たないので、毎日が初対面のようなものだ。博士は彼女に頻繁に聞く。「君の誕生日はいつか?」
 彼女の誕生日は2月20日である。博士の記念の腕時計には284というナンバーが刻印されている。
 彼女の誕生日を知った博士は、二人は<友愛数>で結ばれているという。

 すなわち、220:1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=284
      284:1+2+4+71+142=220

 各々の約数の和でふたつの数字が結びついているという不思議。その不思議を鮮明に証明する数学の美しさ!
そして、その数字のとおり二人は友愛で結ばれていく。
 
 博士の研究領域は、素数だった。博士は素数を愛している。
 素数は1と自分以外では割り切れない数字だ。
 数学という永遠のものの前で素直で謙虚であるとともに、孤高の雰囲気のある博士の人柄を象徴している。

 博士は彼女の息子を、ルート√と呼んだ。息子に会うと博士は必ず息子の頭を髪がくしゃくしゃになるぐらい撫でた。息子の頭の天辺がルート記号のように平らだからそう名づけた。
 博士は言う「これ(√)を使えば、無限の数字にも、目に見えない数字にも、ちゃんとした身分を与えることができる」
 博士は、√がどんな数字でも受け入れることが出来るのと同じように、息子が賢く、たくましく、素直な子供であることを頭を撫でながら直感的に悟ったに違いない。

 彼女と、息子と、博士の三人による静かで、優しさに満ちた友愛の日が続く。

 博士とルートの共通の趣味は野球、しかも共に阪神タイガースの大ファンであるということ。
 1975年を最後に記憶の止まっている博士には、阪神のエースは依然として江夏であり、博士は江夏の強烈なファンである。

 江夏の背番号は「28」だ。
 28はその約数を足すと28になる。
 即ち、1+2+4+7+14=28 更に1+2+3+4+5+6+7=28
こういう数字を完全数という。世界でまだ30くらいしか発見されていない。
 彼女は、江夏が完全数を背負った投手であることを発見する。自ら。

 こうした数字にまつわるエピソードが情景を描写する。登場人物の心を反映する
 漠然としか見えていなかった数字の中に、まるで神が創ったとしか思われない何とも美しい調和があることが分かる。

 崇高なる数字の存在を知るからこそ博士は常に謙虚で、慈愛に溢れている。
 そして真実は目の前にある現象ではなく、心の中にあることを知っている。

 ことに、ルートに向けられる愛の深さは格別だ。

 彼女とルートが一生懸命捜した江夏のプレミアム仕様の野球カード(博士の趣味は阪神の野球カードをコレクションすることだった)と、博士が調達した「どんな球でも逃さず捕球できそうな美しいグローブ」をお互いにプレゼントしあう辺りから、涙が止まらなくなった。

 数字という神秘で、崇高で、調和的で、永遠である素材を数学音痴でも分かるように上手に使いながら、その数字とシンクロするように静かで、透明で、優しく、慈愛に満ち、少し寂しく、それでも元気付けられ、謙虚で、美しい物語を書き上げた作者の小川洋子さんのイマジネーションと静謐なペンタッチには驚嘆する。

 これからも何度も読み返すだろう。

 読み返すたびに、主人公である彼女の、その息子のルートの、そして博士の善意に触れて僕は涙を流すだろう。

 それにしても、オイラーの公式の不思議なことよ!


 
 





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1 コメント

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やはり・・・ (KEVIN)
2006-02-06 02:19:35
 駄文公開してしまいました。

 公開に少し後悔。

 この名作を貶めることにならなければ良いのですが。
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