KEVINサイトウの一日一楽 

人生はタフだけれど、一日に一回ぐらい楽しみはある。

一瞬の風になれ

2007年05月22日 | Book
 子供時代のかけっこを想い出すと色々な風景が浮かぶが、そこにはいつも誰かの後ろ姿があった。

 最初の後ろ姿は、幼な馴染みのケン坊だ。
 ケン坊は僕よりも背が低いくせにかけっこは早かった。
 田んぼの畦道で蛙取りに行く時、黄色の菜の花畑で紋白蝶を追いかける時、そして鎮守のお寺さんでジンジン鳴くアブラ蝉を捕まえようとした時、僕の前には先に駆けていくケン坊の背中がいつもあった。


 小学校高学年は野球に明け暮れたが、冬のシーズンオフには毎日学校の周りを走らされた。こういう地道なトレーニングの苦手な僕の遥か先をど根性男のエロシが走っていた。
 毎日、エロシの背中に追いつこうと頑張ったが、その背中はどんどん小さくなるばかりだった。


 運動会最高のイベントは学級選抜対抗リレーだった。
 クラスの中から選りすぐられたメンバー同士の四継リレーだ。
 メンバーに選ばれるだけでも名誉で鼻高々だが、何と言っても全校生徒と父兄が見ている本番で良いとこを見せたい。
 バトンを受け取って走りだした僕の後続から一瞬のうちに僕を抜き去っていったのは、陸上部の誰かさんだった。名前も顔も記憶にないのに、その背中だけを今でも悔しい気持ちで想い出す。


 最悪は、中学一年の時の1500m 走だ。
 当時の僕は突然背が伸びだした頃で(毎年10cm以上)、身体と内蔵のバランスが上手く取れない状態で、しゅっちゅう腹痛と下痢で泣いていた。
 そんな時に体力測定の1500m 走が行われ、2~300m 走った時から既にお腹が痛くなりだし、何とクラスの男子のドン尻でゴールインしたのだ。
 しかもクラス中の女の子が見ている前で!
 あの時、僕を置き去りにしていったクラスメート達の沢山の背中、背中・・・。


 今にして冷静に思うと、僕は心肺機能が弱いので長距離は駄目だし、100mでも12秒台は出したことないし、要は足が早くないんだ。
 だから、いつも僕の前には誰かが居た。
 もし、100m を10秒台で走れたら想像を絶する気持ち良さだろうな!自分が風のようになった気分。


 前振りが猛烈に長くなったけれど、今年の本屋大賞は最高です
 佐藤多佳子の「一瞬の風になれ」。

  高校の陸上部でショートスプリントに励む少年達の美しい青春物語。

 この本を読んだ後僕の心の中は光で充たされ、同時に一瞬の風が吹いたような爽やかさに思わず微笑んだ。

 そして、甘酸っぱい気持ちとともに子供時代の「かけっこ」の風景が甦ってきた。
 

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2 コメント

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Unknown (misao)
2007-05-23 03:08:41
本屋大賞今年も出ましたね。
是非、読んでみたいと思います。

それにしても本屋大賞って青春物が多いですね^^
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是非読んでください (KEVIN)
2007-05-23 07:05:49
 三巻(三冊)なので、一瞬引くかもしれませんが、1日1冊いけます。
 僕は風邪引きのベッドの中で二日で読みました。

 本屋大賞は、たしかに青春モノが多いですね。
 きっと本屋さんに勤めている人達はロマンチックなのでは。

 「夜は短し歩けよ乙女」が本屋大賞の2位で、これは可愛いファンタジーで好き嫌い分かれるかも。

 ちなみに「一瞬の風・・・」は吉川永治文学新人賞も受賞。直木賞候補になるも、ラストがハッピーエンド過ぎるということから落選したそうです。ハッピーエンドだから爽やかなのに、直木賞らしいといえば直木賞らしい話です。
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