あさねぼう

記録のように・備忘録のように、時間をみつけ、思いつくまま、気ままにブログをしたい。

武士の家計簿

2021-03-05 18:13:41 | 日記
古文書から幕末の武士の暮らしを読み解いた磯田道史による教養書「武士の家計簿 『加賀藩御算用者』の幕末維新」を、森田芳光監督&堺雅人主演で映画化。御算用者(経理係)として加賀藩に代々仕えてきた猪山家の八代目・直之。しかし当時の武家社会には身分が高くなるにつれて出費が増えるという慣習があり、猪山家の家計もいつしか窮地に追い込まれてしまう。そこで彼らは、直之の提案で武家とは思えないほどの倹約生活を実行することになる。

2010年製作/129分/G/日本
配給:アスミック・エース、松竹

加賀藩の下級藩士で御算用者(会計処理の役人)を務めた猪山(いのやま)家に残された、約37年間の入払帳や書簡をもとに猪山直之(なおゆき、加賀藩御算用者として活躍し、家禄を100石から180石に増やす出世を遂げる)、成之(なりゆき、加賀藩御算用者から、明治維新後は海軍主計官となる)父子の家庭の日常生活や武士階層の風習を分析している。磯田は2001年(平成13年)に神田神保町の古書店でこれらの文書を入手したが、その経緯が「はしがき」に記されている。

1842年(天保13年)、借財が大きくなった猪山家(当主・直之、父・信之(のぶゆき))が借金整理を決意し、家財を売り払い収入、支払いを記載する入払帳がつけられることとなった。仔細に書き残された収入、支出の項目から武士の暮らし、習俗、とくに武士身分であることによって生じる祝儀交際費などの「身分費用」に関する項目や、江戸末期の藩の統治システムが実証的、具体的に描かれている。

本書の後半では、猪山成之の数奇な足跡もたどっている。代々の家職で事務処理と計算に優れた成之は、平時の会計事務にとどまらず、(その延長で)兵站事務にも才能を発揮し、加賀藩の京都禁蕨闕守衛諸隊の兵站を仕切った。加賀藩が新政府方に入ると、大村益次郎のもとで軍務官会計方にヘッドハンティングされ、新政府軍の財政を支えた。大村が1869年(明治2年)に暗殺された後は、兵部省会計少佑海軍掛を経て大日本帝国海軍の主計官となり、海軍主計大監(大佐相当官)まで昇進して、呉鎮守府会計監督部長を最後に、1893年(明治26年)に予備役となっている。