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唯物論の再構築

ヘーゲル大論理学存在論 解題(第二篇 第三章 量的比例)

2019-12-19 00:09:11 | ヘーゲル大論理学存在論

 この章でヘーゲルは、前章までに論じた微積分論の進展を、比例式の進展の側から捉え直す。ここでは正比例の否定に逆比例が現れ、逆比例の否定に冪比例が現れる。ただしここでの進展は、微積分論が量質転化する微分に始まり、質量転化する積分による量質一体化を目指した前章までの論述に比べると、かなり趣が異なる。なぜなら正比例の彼岸に逆比例が現れるわけではないし、逆比例の彼岸に冪比例が現れるわけでもないからである。この章での比例式の進展は、比例式の進展を中心にしているのでなく、比例式を規定する指数の変化を中心にして進行する。それは定立と反定立の各擁立と止揚の進展と言うより、むしろ個別から普遍、普遍から特殊に進む点で、上向と下向の論理進展を成している。以下では限定量の質が比例として現れ、度量において量と質の排他的統一を果たすヘーゲル量理論のまとめ部分を概観する。


[第一巻存在論 第二篇「大きさ(量)」第三章「量的比例」の本行部分の概要]

 質に転化した限定量の量的比例、および度量を生成するまでの量的比例の進展を論述した部位
・比例一般  …限定量の否定的彼岸としての質の最初の現れ。
・指数    …比例式における質的規定者
・正比例   …比例指数に従う二者の質的未限定な量的関係
・逆比例   …全体指数に含まれる二者の部分的な質的限定された量的関係
・冪比例   …質的指数に含まれる二者の質的限定された量的関係
・度量    …質単位と集合数を自らの内に排他的に統一し、質に回帰した限定量。
        すなわち質を得た量であり、かつ量を得た質。


1)量と質の相互規定としての比例

 限定量の否定的彼岸は質一般である。まずそれは、量と質の規定を統一した比例として現れる。比例とは量と質の相互規定である。この相互規定において排他的な量と質の相互規定を可能にしたのは、限定量の質的転化である、質が不可分な限定量として現れ、その彼岸の限定量が此岸の限定量を規定する。量と質のそれぞれの限定量は、はじめは単に相手によって規定されている。しかしそれらも、量的比例の進展において相手を媒介にした自己限定へと到達する。この量的比例の進展は、直接的比例(正比例)・間接的比例(逆比例)・冪比例の順序で進む。


2)正比例

 正比例は、量的無限定の悪無限を比率として止揚する。それは変数aとcの二者関係を表す次の式で表現される。

 a=Bc

ここでの二者は、相手を基準にして自らを表す。しかしそれだからと言って相手が自立しているわけでもない。二者ともに相手との関係に自立的に関与していないからである。ここに現れる二者の質は、相手を不可分な単位にしたときの集合数であり、他者との関係を表現するだけに留まる。この二者関係を規定するのは、二者の割合を示す指数であり、それは自立した比例定数Bとして現れる。しかしこの指数Bは、cを単位と見るなら集合数であり、cを集合数と見るなら単位である。したがってそれは限定量でありながら、その規定は限定されていない。一方でBとcが単位と集合数のどちらでも、aは単位と集合数の積として限定される。指数が規定された限定量であるべきなら、この二者関係を規定する指数はBではなくaである。そしてaがその自立において比例定数として現れるなら、上記式もaとBの定数と変数の表現を入れ替えた次の逆比例式に捉え直される。

 A=bc


3)逆比例

 逆比例では自立した一者aが逆比例定数Aとして現れ、元の自立していた比例定数Bの方が変数bに格落ちする。しかし自立した一者Aの定数化は、むしろ変動するbとcの二者を自立させてもいる。なぜならそれらの一方の或る方向の変化が、他方に逆方向の変化をもたらすからである。したがってここに現れるbとcの二者の質は、他者との関係を表現すると同時に二者の自己を表現している。ここでの二者関係を表現する指数Aは、定数化した二者の積である。その積が表現するのは、単位と集合数の排他的統一である。そして指数としての一者にとっても、変動する二者は自らの内に現れた自立する質である。


4)逆比例における限界と無限

 逆比例において一方の変数の増大は、他方の変数を減少させる。ここでの比例定数は二つの変数の積であり、積において二者の全体を表現する。したがって二つの変数の増大も比例定数を上限としなければならない。同様にそれらの減少もゼロを下限とする。逆比例では一方の変数の無限増大または無限縮小は、他方の変数を無限小または無限大に導く。二つの変数はその限界へと無限に接近するが到達できない。しかし正比例の場合と違い逆比例では、その彼岸のはずの無限大や無限小が限定量として現れる。すなわち逆比例における無限は、限定されている。この違いは、正比例において定数として現れていた二変数の比率を変数として捉え直したことに始まっている。その捉え直しは、二者にとって自己外在する定数を否定し、二者の全体の内に取り込み、代わりに二者の全体を定数にした。しかし二者が全体の内で自らの自立を主張するのであれば、何も二者の全体が定数である理由も無い。それゆえに自己外在する定数の否定は、再び否定される。これにより最初の正比例式は、逆比例式を経て、次の三変数の比例式に変わる。

 a=bc

この式には変数全体を規定する定数が無い。この式にあるのは、二者と二者を含む全体の三者の自立であり、その三者の三つ巴の自己主張である。


5)冪を含む比例および逆比例

 三変数の比例式a=bcには、定数化したAやBなどの規定者が現れない。したがってここでの三者関係を規定する指数も、定数ではない。一方で変数aにおける単位と集合数の分離の止揚は、変数aにおいてその内訳から、bとcを分離する必要を奪う。それは積bcをbの冪、またはcの冪に変えることになる。そこで例えばb=dc+eとして変数bを変数cの関数に捉え直すと、先の比例式は次のような冪比例式になる。

 a=bc
  =(Dc+E)c

ここでの三者関係を規定する定数には、新たにDやEが現れる。ただしこれらは変数bの質にすぎない。そしてそれらの質は、冪比例式の直接的な限定量ではない。このような把握は、変数bを変数cの関数に捉え直すときにも該当する。したがってここでの三者関係を規定するのは、変数bとcの質である。一方で変数bとcを限界づけるのは、変数aである。しかし変数aが定数化して現れないのであれば、変数bとcの限界も定数として現れない。それらの限界は、変数bとcの限界としてのみ現れる。そして変数bとcの限界とは、やはり変数bとcの質である。したがって冪比例式における三者関係を規定する指数は、いずれにおいても変数bとcの質である。変数aの質は、これら変数bとcの質の全体として現れる。


6)冪比例式における指数の式表現の取得

 三変数の比例式における定数化した規定者の喪失は、各変数に自己限定を促す。自己限定では、変数は自らに規定される。冪比例は変数の自己限定の数理的表現である。なぜならa=Bcにおいて自立する定数Bが変数aやcを規定していたのと違い、a=(Dc+E)cにおいて変数aやcを規定するのは、変数Bの質を表わすDc+Eであり、端的に言えばDやEとして現れる変数Bの質だからである。もともと正比例式を規定する指数は定数Bであった。しかし冪比例式では定数Bが変数bとして現れる。それゆえに冪比例式を規定する指数も、変数bを表わすDc+Eでなければいけない。ところがこのDc+Eは、変数bの質に対する説明用の暫定表現にすぎない。もしかするとその実態は、Dc+Eではなく、Dc+Ec+Fのようなさらなる高次式かもしれない。そこで指数の規定的役割に従い、Dc+Eの正しい表現が必要となってくる。もちろんその必要とは、DやEの具体的な値を冪比例式から得る必要である。そしてこの必要に応じる形で、冪比例式における指数の式表現を取得する手法として微分法が現れる。


7)度量

 正比例式における指数は、定数でありながら単位と集合数のどちらを表現するのか限定されず、正比例式を単なる二変数の量的な比例表現に押し留めた。これに対して逆比例式における指数は単位と集合数の積の定数であり、式における二変数の全体として二変数に質的な逆比例表現を加える。しかし逆比例式において単位と集合数の限定を廃棄したのは指数だけである。そこにおける二変数の量的な逆比例表現は、相変わらず二変数が単位と集合数のどちらを表現するのか限定していない。これに対して冪比例式における指数は式表現された変数である。それは限界値において単位と集合数の両方を自らの内に排他的に統一した質として自立している。ただしその指数における単位と集合数の排他的統一、すなわち不可分性が明瞭になるのは、むしろ指数が積分されたときである。このように単位と集合数の両方を自らの内に排他的に統一し、質に回帰した限定量が度量である。

(2019/11/04) 続く⇒(ヘーゲル大論理学 第一巻存在論 第三篇 第一章) 前の記事⇒(ヘーゲル大論理学 第一巻存在論 第二篇 第二章Cc)


ヘーゲル大論理学 存在論 解題
  1.抜け殻となった存在
  2.弁証法と商品価値論
    (1)直観主義の商品価値論
    (2)使用価値の大きさとしての効用
    (3)効用理論の一般的講評
    (4)需給曲線と限界効用曲線
    (5)価格主導の市場価格決定
    (6)需給量主導の市場価格決定
    (7)限界効用逓減法則
    (8)限界効用の眩惑

ヘーゲル大論理学 存在論 要約  ・・・ 存在論の論理展開全体

  緒論            ・・・ 始元存在
  1編 質  1章      ・・・ 存在
        2章      ・・・ 限定存在
        3章      ・・・ 無限定存在
  2編 量  1章・2章A/B・・・ 限定量・数・単位・外延量・内包量・目盛り
        2章C     ・・・ 量的無限定性
         2章Ca    ・・・ 注釈:微分法の成立1
        2章Cb(1) ・・・ 注釈:微分法の成立2a
        2章Cb(2) ・・・ 注釈:微分法の成立2b
         2章Cc    ・・・ 注釈:微分法の成立3
        3章      ・・・ 量的比例
  3編 度量 1章      ・・・ 比率的量
        2章      ・・・ 現実的度量
        3章      ・・・ 本質の生成


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