唯物論者

唯物論の再構築

数理労働価値(第一章:基本モデル(5)商業)

2023-04-09 09:32:23 | 資本論の見直し

(3d3)商業

 自部門の生産消費財を他部門の生産消費財と交換する労働力は、余剰消費財を含めた自部門の生産消費財全般を他部門の生産消費財と交換する自由を持つ。しかし余剰消費財の交換は、飽和状態の消費財供給にさらに消費財を追加する。それがもたらすのは、自部門の消費財価値のさらなる減少である。それにもかかわらず一方で彼は、さしあたり自部門から生活提供を受ける。結果的に彼は既存の生活を維持する一方で、余剰消費財の交換消費財を手にし、消費財価値下落を通じて部門収益を悪化させる。それは部門にとって、買い物に行った自分の子供に給料を払うようなものである。この不合理のゆえに彼の所属部門は、彼への生活提供を廃止する。それは該当部門における余剰労働力の排出として現れる。部門はこの余剰労働力の排出を通じて、消費財価値下落を通じた部門収益の悪化を阻止する。他方で部門にとって彼の労働は、消費財生産のための有益な支援労働である。そこで彼は自部門から余剰消費財を含めた生産消費財を運搬し、他部門から自部門に交換消費財を届ける労働を担う。このときに彼は、自部門からの生活提供を廃止される代わりに、交換消費財の一部を収益として受け取る。これにより他部門との消費財交換を担う余剰労働力は、自立した一つの経済部門に転じる。それは消費財生産と異なる商業部門である。この一連の消費財数量と単位価値の動きを表にすると以下のようになる。

≪表7:一部門の一部の排出により変化する消費財生産数≫

生産部門からの商業部門の分離は、余剰人員を排出することで縮小し、それに対応する余剰消費財量を減少させる。ただしこの無駄の減少は外面的出来事であり、価値の内実において差異は無い。したがって消費財単位価値は変わらない。したがって生産部門の収益は良くも悪くもならない。とは言え分業が厳格化した効果から言えば、生産部門の収益は好転する。一方で商業部門では消費財の部門間の交換労働が、そのまま他部門に提供される労働として登場する。その消費財は物品の形を取らないので、直に労働力の形で他部門の消費財と交換される。それゆえに商業部門が排出する労働力は、生産部門に追加される外部労働力として現れる。外見上で言うとそこに余分な収益が生ずれば、その収益が消費財交換における差額略取となる。しかし商業部門が取得するのは、以前の自己充当分の生活消費財の収得である。それは以前に彼が所属部門から得ていた生活提供と変わらない。そして商業部門は以前と変わらない生活を営んでおり、さしあたり余分な収益を必要としない。この分離部門としての商業の登場は、余剰労働力に対して使用不能な余剰消費財が対応する困難を解決する。しかもこの解決は、市場における該当消費財量を増大させない。商業部門のために加算される該当消費財量は、元の交換労働力部分のための消費財量と同じ量のままである。そして余剰労働力は自らを部門排出することにより、必要労働力に転じる。

(3d4)商業における価値表現の一般化

 商業部門における交換労働が果たす役割は、個別の消費財が持つ質の排除であり、質の排除による異なる消費財の交換である。したがってこのときに交換労働は、各消費財を労働力一般に還元する。その交換の実現は、異なる消費財同士が表現する労働力量の一致である。また交換以外に、異なる消費財同士が表現する労働力の一致は現れ出ない。それは異なる消費財同士の価値の一致でもある。一方で交換を通じなければ消費財の価値が表現されないのは、やはり交換労働の当事者にとって不都合である。さしあたりまず商業部門は、異なる消費財同士の交換比を決める。ひとまずこれにより商業部門は、交換を通じることなく消費財の価値を捉えられるようになる。またその価値把握の可視化は、商業部門以外の全部門に対しても有効である。しかしその交換比が様々な消費財で表現されるのは、相変わらず不都合である。そこでその交換比は、特定の消費財との交換比に一元化される。すなわち全ての消費財はその特定消費財との交換比で、価値を評価される。ここでの特定消費財は、価値基準となる消費財、すなわち貨幣である。貨幣の登場は、それとの交換比において全消費財の価値が表現可能になる。一方で消費財の交換比は日々変化し、価値基準となる特定消費財の価値も変動する。そこで生産性変動に伴う価値変動、および消費財腐食に伴う価値変化が少ない消費財が、価値基準としての貨幣に選ばれる。それは金である。

(3d5)商業以外の部門内支援労働の分離

 生産部門は消費財の交換労働を別部門に排出すると、その交換労働を自ら行う事ができない。このために商業部門は、交換労働の独占を通じて特別剰余価値を取得できる。しかし貨幣が登場すると、消費財交換において生産部門は商業部門に対抗できるようになる。もし生産者にとって消費財の不都合な交換比があれば、生産者は商業部門の媒介を経ずに、直接に他部門と消費財交換を行うことを目指す。つまり他人に任して割高であるなら、自分でやった方が良い。そしてそれが成功すれば商業部門の収益は、部門の交換労働力を維持する水準に落ち着かざるを得ない。このことは商業部門から特別剰余価値の取得可能性を奪う。ここで商業部門に起きるのは、生産部門の収益が部門の生産労働力を維持する水準に落ち着く動きと全く変わらない。しかし交換労働の対価が、交換労働力を維持する水準に留まるなら、生産者にとって商業は一つの道具として有益である。そしてその対価は、交換労働力を維持する水準に固定する。一方で商業と貨幣の登場は、消費不能な余剰消費財に伴う部門内支援労働が自立するための困難を取り除く。もともと支援労働を排出する前の部門は、支援労働力との間で支援労働と生活消費材を交換していた。しかし支援労働力との間で支援労働と貨幣を交換すれば、部門は調達すべき生活消費材の量を減少できる。支援労働力にとっても、生活消費材より用途の自由な貨幣を受け取る方が有利である。そしてこの貨幣の利点が、支援労働力を所属部門から自由にする。これらの事情は生産部門において、商業以外の部門内支援労働を生産部門から次々に分離させる。さらにその部門分離は、商業を含めた分離部門においても進行し、直接的な生活生産から離れた多くの経済部門が乱立する。それらは一方で分裂をしながら、他方で同業同士で結合してゆく。なおここでの支援労働の部門外排出は、商業の部門外排出と違い、直接に余剰消費財を減少させない。ここでの支援労働の部門排出は、部門が支援労働力に分与する生活消費材を貨幣に転じるだけである。支援労働の部門外排出により余剰消費財が減少するとしても、それは余剰人員排出の副次的効果に留まる。またその効果も、次に示すように限定的である。

(3d6)部門分離における余剰消費財の形態変化

 上記の消費財価値の運動をまとめると、次のようになる。まず生産性向上は消費財生産量を増大させる。しかし生産量が増えても、消費財必要量は変わらない。そこで余分に増えた生産消費財は、そのまま余剰消費財に転じる。そしてその余剰消費財量は、そのまま余剰労働力量を表現する。ところが生産性向上による消費財の単位価値減少に対し、該当部門は余剰労働力に生活提供する必要がある。結局その生活価値を補填するために該当部門は、消費財の単位価値にその補填価値を上乗せる。それゆえに消費財の単位価値は減少できず、変わらない。他方で過剰生産に対応する余剰消費財は、廃棄消費財となる。そして余剰消費財量に対応する余剰労働力量は、過剰生産部分に対応する。それゆえにその余剰労働力は、別の新部門となって旧部門から排出される。余剰労働力は、新部門において元の余剰消費財の代わりに、旧部門から排出された支援労働を行う。これにより排出された余剰労働力に対応する余剰消費財の生産も、一見すると減少する。ところが余剰労働力は、それ自身が旧部門において直接消費財に包含されて隠れていた間接消費財である。それゆえに旧部門は、排出した同じ労働力を部門の外から仕入れるだけとなる。そしてその同じ労働力に対して旧部門は、以前に提供していた生活消費材を貨幣に転じて与える。結局ここでの新部門の生産消費財は、別形状に転じただけの旧部門の生産消費財に留まる。つまりここでの生産部門の生産消費財の価値構成は、次のように変化しただけである。

部門分離前直接生産労働力間接生産労働力
部門分離後直接生産労働力外部生産労働力

一方で分業がもたらす生産性向上は、部門分離後の外部生産労働力を部門分離前の間接生産労働力より小さくする。このことは生産消費財の価値全体を縮小し、生産消費財の単位価値を下落させる。ただしどのみち生産消費財の価値下落は、この段階でまだ表面化しない。その表面化は相変わらず該当部門の自助努力で抑制される。そしてそれが表面化するまでの間、生産者はより少ない投下労働力で、従来の交換労働力を得られる。それは生産者の一部に特別剰余価値を与え、他方の生産者に特別損失を与える。したがって上記の生産消費財の価値構成の変化は、次のように進む。

部門分離前直接生産労働力間接生産労働力
部門分離中直接生産労働力外部生産労働力+特別剰余価値and特別損失
部門分離後直接生産労働力外部生産労働力

部門分離中の生産消費財の価値は、まだ以前のままである。このときの直接生産部門は、外部生産労働力を必ず使用する必要は無い。なお部門分離後の生産消費財の価値は、いずれ次第に下落する。このときの直接生産部門にとって外部生産労働力は必須である。その必要性は、直接生産部門を間接生産部門の前に屈服させる。その必要性は、余剰消費財に対する部門間の取得順位を限定する。

(3d7)分業の外延と内包の二形態

第一部門と第二部門が単に並存する経済部門であるなら、双方の生産消費財はともに生活の直接消費の目的である。分業はそれ自身がその目的実現のための手段である。しかし一方の生産消費財が、生活の直接消費の目的でなければ、その生産消費財はそのための手段であるほかに無い。このときにその生産部門は、それ自身が目的を得た道具となる。ここでの分業は、部門自体を手段として外化したものに変える。その外化は道具生産部門を、例えば商業や鉱業として、直接消費財の生産部門から分離したものである。このような二部門の相関では、第一部門が生活の直接消費材の生産部門であり、第二部門はそのための間接消費財の生産部門として現れる。すなわち第二部門は第一部門のための道具生産部門である。ここでの第二部門は、もともと第一部門に内包された分業である。しかし分業が内包されていることは、前出の並存形態の分業における生産消費財の相関を特段に変更しない。このことは上記の示したとおりである。しかも消費財が生活の直接消費財であるか間接消費財であるかは、それらを必要とする消費者にとって差異が無い。それゆえに第一部門と第二部門の差異は、外面的差異に留まる。それよりも直接消費財と間接消費財の区別は、もっぱら二部門間における余剰消費財に対する取得権利の優劣について問題になる。当然ながらその優劣は、部門間の支配隷属関係に等しい。ただし最終的に直接消費財と間接消費財の両方の生産者は、等しく余剰消費財を収奪される被支配層である。その余剰消費財に対する取得優位は、最初は直接生産者の側にあるとしても、最終的に間接消費財生産者の側に移る。

(2023/03/31)
続く⇒第一章(6)統括労働   前の記事⇒第一章(4)価値単位としての労働力

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移


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