鶏口舎(けいこうしゃ)な日々

木彫りとレジンで招き猫やお地蔵さんなどを制作している「鶏口舎」です

鶏口舎で用いている一位材の解説

2016年08月06日 | 木彫の話し(道具や材料、木材について)
この記事は、木工玩具制作ユニット「ピノッキオ」の
リーダーである韮澤やすおみが寄稿させて頂きます。


鶏口舎さんが用いている一位(イチイ)の無垢材ですが、とても素敵なストーリーがあります。
この一位で制作依頼したお客様が、さらに作品を気に入るのではないか?
と考え、この記事を企画しました。


★そもそも一位は高級無垢材
一位の無垢材は高級であり、銘木と呼ばれます。
その由来は諸説ありますが、平安時代頃からしばらくの間、正一位という高い身分の方が使う笏(しゃく)を
一位の材で作っていたことが由来している、というのは定説です。

さらには、成長が遅いのでなかなか太くなりません。
直径70センチを超えるような一位は大径の部類と言えるでしょう。
直径1メートルまで育てば大変な金額で取引されるものになります。

そして、一位の材は、経年変化により飴色に変色するのですが、その色が素晴らしいと言われております。

そのように、経年変化により素晴らしい色に変化していく銘木は、一位か唐松か?と言われております。
そのどちらも高級銘木。建物だけで坪単価150万円以上かけ、名大工さんが作ってくれるちょっとした高級注文住宅で使われる材です。

日本の文化でよく語られる、「詫び寂び─わびさび」の、「寂び」の世界の材なのです。
春夏秋冬、そのループを何十回も、何十年も越えて、より味が出てくる。通好みの銘木です。

鶏口舎さんは、一位を用いて、「寂び」を味わえる作品を彫っているという訳です。


★鶏口舎さんが使っている一位は、一位の中でも、圧倒的な価値。
先ほど、一位は直径70センチを超えていれば太い部類に入ると伝えましたが、
この一位はなんと!最大部分では直径2メートルもあったのです。
異次元級に太いのです。

幹回り、すなわち外周ですが、このクラスの古い木では、円とは言えない形状に育っているものですが、
直径を2メートルと仮定し、その数字から外周を計算すれば約7メートル程度です。
実際には凸凹していますから、もっと長い数字でしょう。

そんな大きな一位は、かなり珍しいとの事。
過去においてもそこまで長生きだった一位はそうはないと推測されます。
(北海道 八紘の水松は一位であり推定樹齢2000年。岐阜県の治朗兵衛の一位も推定樹齢2000年。
ただし数本の木が融合してしまった合体木であればそこまでの樹齢ではない可能性もある。
外見上は合体木に見える。合体木であれば各木としては細い。
今回のテーマの一位はほぼ単体木でありそれらの名木よりも明らかに太径)


長寿祈念や平和の永続を願うような、そんな想いを作品に籠めるには、この一位が向いているのではと思います。



★ここに至るストーリー。
20年程前に、営林署が木曽の深山(国営林)で発見したこの「大変古い木曽の一位様」。
(以降、大変古い木曽の一位様と呼びましょう)

営林署が発見した時、幹は終わっており、枝が一部生きていたとの事で、長寿を全うした大変めでたい木です。
生きているところを人間にバッサリとやられたのではなく、生ききった木。
第二の人生、木材として下界にやってきた木なのです。

なにしろ巨大だったので、ヘリコプターで移動したとの事。
そして営林署が全国銘木展示会、通称、全銘展に持ち込み競りに掛けたそうです。
その年は岐阜県での開催だったとのこと。

全銘展とは、年に一度の大きな銘木の競りであり、各地の銘木組合が持ち回りで開催されます。

そして営林署も全銘展に出品し、国営林で発見した誰もが驚くような物件を持ち込んでくるとの事。

川越銘木センターの竹田社長が、大変古い木曽の一位様の出品を知り決意しました。
ぜったいに落札すると。銘木屋を営んでいて、そんな素晴らしい一位の木目を見ない訳にはいかないと。
競りが始まり、最終的には三つの業者で競り合ったそうです。
竹田社長はどこまでも競ったそうです。そして、落札に成功したそうです。

さて、ストーリーはまだまだ続きます。

大変大径だったこと、大変長く生きており、一部ダメージがあり、機械での製材が不可能だった為、
手ノコギリだけで、大きな木を製材できる、木挽き(こびき)職人さんに依頼する事になりました。
木挽き職人として世界でも有名な「林 以一(はやし いいち)」先生にお願いしました。

新木場に場所を借り、大変古い木曽の一位様を運搬し、林先生が3週間くらい掛けて挽いてくれたとの事。

なお、この業界の多くの人が、林先生でなければ挽く事は難しいだろうという見解です。

そのような意味で、林先生が挽く事は運命だったのでしょう。


大変腕の良い方ですから、最大限、美しい木目になるように細心の注意を払いつつ挽いてくれたとのこと。

ですから、鶏口舎さんがコレクションとして持っている一枚板は、林先生のノコギリの痕が残っています。
林先生も、こんなレベルの一位の巨木を挽いたのは初めての事であり、
木目は想像以上のもので、その美しさに感動していたそうです。
木挽界の巨匠が感動的というレベル。
この記事の冒頭の総杢盤(そうもくばん)の美しさは、そうは見れないものです。

製材から20年ほどの天然乾燥を済ませ、売りに出されていたものを、僕が鶏口舎さんに紹介しました。
ちなみに、鶏口舎さんが使用している、この、大変古い木曽の一位様は、林先生が木挽きしてくれた状態から、
さらに僕が、一つ一つ、時間を掛けて製材しているんですよ。



★皮があります。ここで公開しましょう。
樹齢2000年程度と推測される巨木。その外周の一部となる皮を撮影しました。
一部ではありますが、巨木の迫力を楽しむ事が出来ます。









★日本の有史を見守ってきた一位様
この大変古い木曽の一位様は、2000年程度、木曽の深山で生きていたのですから、日本の有史を見守っていたと言えます。
弥生時代、古墳時代、奈良時代・・・鎌倉時代・・・江戸時代・・・明治大正昭和。
そして平成初期に、木曽の深山で長寿を全うした樹です。





この木目を見ていると、祈りたくなるようなそんな気持ちになるものです。
鶏口舎さんは、この一位で、お地蔵さんやクロス(十字架)を彫っていましたね。
分かります。そのような作品を彫るべき材。


★作品として転生
寿命尽きるまで、どんな台風にも、天変地異にも負けなかった大変古い木曽の一位様。
鶏口舎さんの手を通して、新たな姿に転生し、皆さんに愛されていく・・・。
とても素敵な事だと思います。

ぜひ、かわいがってあげてくださいね!こんなにドラマティックな材はそうはありませんよ!
そして冒頭でも伝えた通り、一位の材は寂びるほどに飴色になり、さらに味が出てきます。
素晴らしい高級材です。

この一位には、強風や台風などの天変地異と戦い、生き抜いてきた痕跡が各所にあります。
樹齢300年や500年の若い木ではないので、材の全体がドラマティックです。

2000年程度も生きていた大木だった為、台風などで大きく振られた痕跡があるわけですが、年輪が少々剥がれたり、
繊維に少し剥がれがあったりします。

寿命尽きるまで、どんな台風にも、天変地異にも負けなかった一位。

何というのでしょうか、質の悪い外国産の材にヒビが入っているような、
ガッカリな傷やヒビではなく、その生命力へ畏敬の念を覚えるほどの“痕跡”なのです。


そんな痕跡を活かした作品も作りたいと鶏口舎さんは語っておりました。
僕も楽しみにしております。そのような木彫り作品を僕は見た事がありません。
そこに目がいく鶏口舎さんは、僕の想像を超える作家です。

そういう域の無垢材だからこその趣。

鶏口舎ファンの皆様も、ぜひ、そんなあたりも楽しんでみてくださいね。




★資料1
大変古い木曽の一位様の直径は2メートル弱。
最も外側では7センチで210本程度の年輪を数える事が出来ます。
内側では1ミリに1.5〜3本程度というのが平均的な数字です。



こちらは、さいたま市立博物館に展示されている松です。
直径2メートル程度です。解説によると年輪の数は310本。樹齢は310年を少し越えたくらいです。




樹種や環境の違いで、同じような太さでも樹齢が全く異なります。


★資料2
盆栽の一位です。樹齢80年を越える品です。山採り素材をベースに数十年持ち込んだ品。
おそらくは岩盤の上で生きていて、冬には雪が積もり、埋れたところより上が枯れてしまい、
そんな事を数十年繰り返していた時に盆栽人に発見され下山してきたのでしょう。

洞(うろ)の一部に年輪を数える事が出来ます。数えた限りで80本くらいの年輪があります。
高さ1メートルくらい。僕で四人目の所有者となります。




大変古い木曽の一位様は、こんな樹形だったのでは?と想像しております。
一位は、通常1000年も生きれば凄いレベルです。
それが2000年程度も生きていたので、とても一位には見えないほど立派な樹形だったそうです。

一位の盆栽は大変成長が遅いです。しかし、生命力がとても強いです。挿し木の活着率が大変高いです。
静かに、永く生きていくタイプの樹です。立派な盆栽になるには数十年掛かりますので、数的にあまり多くありませんが、日本最高峰の盆栽展“国風展”では毎年必ず一位の銘樹が出品されております。

どちらかといえば、直射日光が終日当たる場所ではなく、朝から午前中の陽と水を好みます。

土の表面が乾いたら鉢にも葉にもたっぷりと水やりします。
丁寧に可愛がっていると葉が良い色になってきます。
森などで一位の実生を見つけたら、鉢植えで育ててみると良いでしょう。
上手に剪定していけば、いつかはこんな盆栽に育つ事でしょう。

こちらの盆栽の銘(名前)ですが・・・・
一位盆栽:銘「少々古い一位様」です。
以上です。

寄稿:ピノッキオ韮澤やすおみ

★その他の材も解説しております。
鶏口舎で用いている天然木曽檜材の解説(クリック)
鶏口舎で用いている台湾檜、台湾紅檜材の解説(クリック)

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