日々のメモ

事業や企業、経済の動きについて分析していくブログ

ESG投資の循環プロセス

2020-04-17 00:01:00 | 分析・観察
環境保全を求める株主の声が強くなっている状況にあって(ロイターの記事)、
みずほFGが石炭関連事業への融資を長期的に減らしていくことを約束した。石炭火力発電への新規融資は0の宣言である。
環境保護の力がもはやお題目だけではないことを感じた方も多いのではないか。

そこで、今回はこのニュースのプロセスを辿りたい。
まず、金融機関が環境保護を謳うのは国連が背景にある。直接に威力をもったのは責任ある投資原則(PRI)を国連事務総長のコフィ・アナン氏が2006年に呼びかけ、金融機関がこれに呼応する形で環境保全や人権保護に配慮した資金使途にお金を振り分けることを約束したことによる。
この約束の具体的な内容は、大まかに言えば「自発的に振り分けられるお金の過半をESG投資*にすること」である。
*Environment, Social and Governanceつまり環境、社会、企業統治(大まかに言えば法令等に照らして正しく経営すること)を考慮した投資
自発的な約束なのだが、世界の金融機関が相次いで署名するようになった。
日本の署名会社はウェブで記事にまとめられているが、もはや全金融機関と言ってよい。
この他にも企業の社会的責任を述べた国連グローバルコンパクト、一般論としては国連環境計画や国連人権宣言など様々に企業は活動を社会的善に振り向けつつある。

ファンドがこのような国際的な取組みに賛同する背景には、ファンドにお金を拠出するような世界の富裕層がESGに関心をもつことがある。
彼らが本気で「利益がちょっとくらい減っても環境や人権に配慮した事業に協力していたい」と願い、資金を出し入れするからこそ、儲かるだろう石炭火力発電プロジェクト資金の貸出停止を決めさせたのだ。
資金あまりで貸出先に困ってきた銀行業界のトレンドを考えれば、本当にESGの追求に動いているとしか思えない。

つまり、
・個々人の地球環境や社会的安定への意識の高まり
・個々人のお金の出し入れに対するESGの決定力の高まり
・ファンドのESG投資追求の機運の高まり
・株価を気にする企業経営層のESG配慮の意識の高まり
・企業の広報や事業活動における意思決定の場におけるESGの配点の高まり

という連鎖が動き出しているのだ。
もちろん、今は株価世界トップ10の企業に企業の社会的責任を真っ向から否定する巨人が存在するという例外もある。(ウォーレン・バフェットのことで、彼は株主利益の追求が企業の最高の目的だと宣言している。)
ただ、人々が物質的豊かさを手にするにつれ、精神的豊かさ(地球環境および社会的善のために良いことをしているという意識を持てること)を求める動きは止められない。
今後の世界でESGは益々力を強めていくことだろう。

ESGの高まり以前に、ここ10年ほどでどのような収益構造の変化をしてきたか整理して理解したい方へ。

様々なプロセスを考える際のヒントに。


印鑑文化のデジタル代替

2020-04-15 23:06:00 | 分析・観察
印鑑手続きについて、「デジタル化は民間の問題」とIT担当大臣が述べた発言が話題になっている。
リモートワークの壁になっている印鑑文化が課題だという声に対して、政府が関与する話ではないと大臣が述べたものだ。

話題になってはいるが、一体何が問題なのか整理すべきだと思われるので背景を理解したい。
まず、リモートワークできないくらい印鑑文化が企業にあるというのが事実として、企業の業務に関連する印鑑文化は誰が決めているのか?
政府が法令で決めている部分は政府が関与すべきだが、旧来の慣習が組織によって存在するだけならば、その組織で解決しなければならない。大臣が言う通りということになる。

西日本新聞の印鑑文化についての記事は印鑑文化の起源から現在のデジタル化まで説明する大作だが、これによれば総じて印鑑の必要な手続きのほとんどは既に電子署名で代替できる体制になっているものの、役所の印鑑手続きは無くなっていない。
但し、
①契約については電子署名で代替可能であり(法務省サイト
②役所と企業の関連については、印鑑業界の反発を受けつつも企業の登記情報から印鑑を取り除くための法改正作業は内閣で進められており(結論が出るのは2020年度中。関連記事)、
企業の印鑑文化を取り除くお膳立ては既に進められているとみて良い。企業の登記情報から印鑑をなくすというのは、役所に提出する書類に、一切印鑑を使わなくて良くなることを意味する。

なので、今回のニュースが出てきた原因としては、
・②の取組みがあることが理解されていない
・②の取組みに印鑑業界が不満を述べていることに自民党内閣は結局屈し、不便な世の中が続いてしまうのではないかと世の中の人々が不安になっている
・企業が法的には必要ない印鑑文化を社内に残しており、大臣が言う通りの民間の問題になっている

のどれかだと思われる。もし3点目なのであれば、プロセスの改善に取り組む良い機会ではないかと思う。

プロセスの改善手法を実際に用いる図解などを含めて整理したレポート



製造プロセス改善の歴史的事例

2020-04-14 23:09:00 | 分析・観察
ズボンやジャケット、カバンまで日常にはたくさんのファスナーが存在する。
カバンも洋服も欧米で発明されたことを思えば、当然これらの市場は欧米企業に支配されているかと思えばそうではない。市場とシェアについてはNewsweekの記事に詳しい。
内容は次の通りだ。
・ファスナーの発明はアメリカだった
・ファスナーの世界トップ企業は日本企業のYKKになっている
・生産量あたりの労働力と資本の少なさが競争力の決め手の一つ

それではYKKは何をしたのかと見直したとき、プロセスの改善が連続で成し遂げられていることに気づく。
創業者吉田忠雄氏は、1977年に「私の履歴書」に登場している。
1908年に富山県に生まれ、15歳で上京して中国陶器の輸入店で働き出したところがやがて立ち行かなくなり閉店、そこで店の整理をしていたときにファスナーの半製品が多く出てきて、それを何とかお金にしようと加工を数人で手掛けたのがファスナー製造の始まりである。(借金返済については「のちのちまで言うに言えない辛い思いをした」と述べており、そのせいか今でもYKKの負債比率は極めて低い。今のような危機下では安定感があり強い)

吉田氏は手作業でファスナー製造していたときにも日本で有力企業にまでYKKを育てたが、あるとき商談で米国の機械製造品に出会い、そこで資本金を超える金額で機械の導入を決めた。
そしてそれだけでなく、

・ファスナー製造機械の国内発注と製造工程の大幅な機械化
・原料の金属調合も内製化して改良
・原料金属をファスナーに最適なものへと改良し、世界的にも優位な品質を実現
・アメリカに工場を建てて逆に進出(このときに知り合った縁でカーター大統領の就任式にも上院議員席近くで出席)
・国内販売を同業他社を卸売業者にして委任し、アジアなど世界全体へ展開

と改良を重ねているのだ。
プロセスの改善は、担い手の創意工夫の表れである。今後も効果に思いを馳せ、取り組んでいきたい。



株価はどこへいった

2020-04-13 19:43:00 | 分析・観察
コロナショックから株価が中々戻らない。
株価が下がり、資産はどこへいったのか…と長引く在宅生活の合間にふと不思議に思われる方もあるのではないか。
証券投資に関わり、何年か研究してきた僕からみて最高の解説は、1代で20兆円以上運用する巨大ファンドを立ち上げたレイ・ダリオ氏の30分ほどの動画である。(日本語版)

この動画は、レイ・ダリオ自身がリーマンショックを切り抜けた後、経済の本質について質問が集まりすぎたので解説用に作ったという経緯を持つ動画だ。(ちなみに、レイ・ダリオ自身は二兆円ほどの資産をもつ世界的な富豪であり、動画の広告収入はもはや考慮していないと思われる。)

この動画からの結論を言えば、株価下落で市場からなくなった価値は消えたのであって、どこかにいったわけではない。この星から消えてしまったのだ。
正確には、貨幣価値を担保するものが「現金」と「クレジット」の2種類あるうち、後者が消えたのである。
(プロセス)
①企業の先行きが不透明になる
②企業の所有権である株式が、「今後は株主に利益をもたらしてくれないだろう」と投資家に判断される
③投資家が株式を売却しようと考える
④売却オーダーが多くなり、株式の値段である株価が下がる
=株式がその将来性をもとに作り出していた「クレジット」が株式市場で消え去り、保有者全員も、売却した人も損をする。

この話の企業を牛に置き換えるならば、将来ミルクをたくさん出すと思われた牛を5人で100万円ずつ出して500万円集め餌を買い育てていたところ、あまりミルクを出さないので牛が300万円でしか売れなくなったようなものである。1人あたり60万円にしかならず、資金の出し手は損をしているのだが、その分誰かが得をしたということではなく、将来の富に対する信用(クレジット)が減ったのだ。

金融市場をみるにあたっては、クレジットをみることが背景理解の為に大切である。

証券会社の損益を10年程の期間について調べ、動向について解説をしているレポート

人権保護実現のプロセス

2020-04-13 00:50:00 | 分析・観察
人権が話題になる時、その強制力に疑問を持つ方はいないだろうか。
例えば今回新型肺炎の初期のニュースのなかで、アジア系の旅行者への差別的な行いなどが話題になった(今では欧米の方が感染者が多いが)。
ここで、差別禁止・迫害禁止という観点から人権の法的な実現プロセスを主要項目についてみると、

・憲法で国の私人の扱いについて差別を包括的に禁止している(憲法14条)。
但し憲法は私人同士の問題には直接適用されないことが三菱樹脂事件の判例で示されている。
・私人同士の関係については、男女雇用機会均等法(厚労省の解説)で性的な差別の禁止を明記している
パワハラは今年、大企業で社内に対策体制を作るところまでが義務になったくらいで、まだ公には保護の対象ではないと言える。(厚労省サイト
・国籍の差別については、民法709条の不法行為に対する損害賠償義務と人種差別撤廃条約等の条約および憲法14条を組み合わせて違反者に損害賠償させた判例があり、実質規制が存在する。(小樽温泉入浴拒否事件の判例
・残業の強要は禁止された。(厚労省の解説サイト
・宗教での労働差別は、厚労省からなるべくなくすように企業へ協力依頼が公式に出ている。(厚労省サイト
義務ではないので社会での評判を考慮して企業が自律的に努力するにとどまる。

今後の世論動向、それを形作るような、人権に目を向けるだけの社会の豊かさによってさらに規制は人権尊重に動くと思われるが、現状は上記の通りである。今はパワハラが微妙な扱いにあり日常生活でも許容度に人による差があるなど、まだ議論の途上にあるようだ。
以上から、人権尊重の実現プロセスは未だ発展途上にあり、今後さらに議論が広くなされ強化が分野により進む、というのが僕の見解である。