日々のメモ

事業や企業、経済の動きについて分析していくブログ

お墓のデジタル化

2020-09-26 17:33:00 | 分析・観察
この夏、お墓参りにはいきましたか。お墓は手入れされているでしょうか、どれくらい訪れていますか。…

僕は近所にお寺が多いことから、お墓をよく見かけるが、お墓の形や大きさ、手入れ具合は様々だと感じる。そうしたお墓を見るにつけ、これらはどのような意味合いから作られたのだろうかと不思議に思う。特に青山霊園ともなれば、その墓地代は400万円を下らない(記事)。中々の投資であるといえる。どんな効果を期待しているのだろうか?
なかでも墓碑(お墓や、横にある石碑に故人の事績が書いてあるもの)についてはあまりに記載が簡潔で、その存在を特に不思議に思う。

おそらくこの答えは、故人への尊敬や追慕の思いを昇華する効果なのだろう。
・文明の始まりと同じくらいのタイミングで埋葬の文化が起きていること
・人間にだけ見られること
を考えれば、「過去の出来事を尊び学ぶ」という、知性と同じ精神性に源はあって、そ思いを昇華したのがお墓というのが納得感のあるところだ。

そうなると、お墓を作って昇華する目的は
①作り手個人向け…個人的にとっておきたい過去を記念碑のようにしてとどめたい
②作り手以外向け…その人の生き様がどれほど学ぶべき素晴らしい過去であるか後世に伝えたい
という2点に整理できそうだ。

デジタル化という選択肢があり得る今、墓石という存在を物理的に作るのは主に①の目的になるだろう。だから作り手として直接に関わった人々が亡くなると、次第に省みられなくなるのだろう。②の目的を追求するなら、デジタル化の力を使えば、wikipediaのように文章を書き起こし、公開するなり親族の間でやりとりすると良いのではないか。もしお墓で追求するとするならば、通行人の目を引くくらい大きく、墓碑は分かりやすく十分長くしなければならないが、それは観光地になるレベルのお墓でも困難である。

これらを考え合わせると、お墓は①の意味だけを残して、世代の移り変わりと共にお墓の代謝をしながら文化として続き、②についてはデジタル化をするのだろう。大型のお墓・墓碑は今後減るのだと思う。(あるいはQRコードをつけて事績に誘導する墓碑になるのだろうか)
お墓はすでに伝達の意味では本やデジタルに超えられている。Wikipediaほど事績を伝えるお墓は存在しないだろう。裏返して言えば、お墓の作り手の②の願いはデジタルによって強化され、より良く叶えられる世の中になってきている。

ちなみに僕は夏に祖母から先祖の話を聞いて文章に起こし、LINEのノートで家族に共有したら「初めて知ったよ!」と驚かれ喜ばれた(大学教育の普及に力を入れたエピソードなど出てきて先祖の努力に思いを馳せたりした)。
在宅の長引く時期、お墓参りという一つの外出もこれまでほど気軽に出来ないこの時期に、お墓の「デジタル化」をしてみてはいかがだろうか。

レポートバンクのレポート一覧


含み益の株式の探し方

2020-09-22 14:30:00 | 投資・会計・ガバナンス
投資家として道を歩き出した時、いくつかの本を読めば「財務諸表には現れない財産を評価して利益を出す」という方法が載っていることと思う(ピーター・リンチの著作にもある)。

そんなことが本当にあるのか?という問いに、有価証券表記の会計ルールの点から、「ある」ことをお話ししたい。

会社が株式を買うと、会計の報告書である財務諸表に記載するルートとして、内容に応じて
・売買目的有価証券
・関係会社株式
・その他有価証券
の3つの項目に分かれる。
このうち売買目的有価証券とその他有価証券は株式の価値を時価で記載、配当があれば営業外収入で記載、
関係会社株式は取得原価で記載する代わりに純資産・純利益を持分比率で記載、配当金は基本的に不参入(保有割合に応じて変わる)、株式の時価総額は無視

という扱いの違いがある。
このルールからは、金融商品として持っているわけではない関係会社株式なら、利益を合わせることで評価に表すのが妥当である、という思想が読み取れる。

つまり、「関係会社株式として買っているものが、利益に不相応に高い評価を得ているとき」に含み益が財務諸表に記載されない状態に陥るのだ。

仮定の話で、具体例を考え出すと次のようなものになる。

利益のわりに株式の価値が高いことで世界的に知られる株式としてAmazonが存在する。
この会社は、1ドル110円で大雑把に計算すると、2013年末は利益300億円、時価総額22兆円である。

仮に、
このときに20%にあたる株式4兆5,000億円分を、NTT(当時時価総額5兆円くらい)が「新たなインターネットサービスのプラットフォーム事業として活用し本業を強化する」と言って購入し、関係会社株式にしたとする。
このとき財務諸表には、関係会社株式として4兆5000億円が記載される。(20%を保有すれば持分法適用会社となり関係会社株式になる)

時が経ち、Amazonは2019年末に時価総額がおよそ100兆円になる。利益は1兆3000億円ほどである。
NTTの持分は20兆円になるが、財務諸表の表記はまだ4兆5000億円のままだ。
利益は保有比率分、2600億円ほどが算入される。
NTTはおおよそ利益9000億円で時価総額9兆円という市場評価(PER10倍程)なので、PERを最重要の指標として評価するならば、2600億円の利益は、時価総額を2兆6000億円高めるくらいになる。

つまりこの仮定上の2019年末のNTTは、本当は20兆円のAmazon株式をもちながらもそれは財務諸表に「関係会社株式4兆5000億円」としか表されず、
利益1兆1600億円、時価総額11兆6000億円という存在になりかねないのだ。

実際には、新興IT企業に投資してそのIT銘柄が値上がりしている企業において、このような財務諸表と保有証券市場価格の乖離が出ている。
もちろんそのIT企業の株価は単なるバブルかもしれないので見極めは必要だが、少なくとも財務諸表だけを見るよりよほど正確で、今後の値動きに納得のいく投資が出来るようになるだろう。
財務諸表をあくまでスタート地点と見ることが必要である。

レポートバンクの作成したレポート一覧


デジタル庁への期待

2020-09-19 12:06:00 | ビル・ゲイツの方法論
新内閣でデジタル庁が出来る予定になっていて、役所手続きが飛躍的に改善されるのではないかと大いに期待している。

1999年に、ビルゲイツが著書@思考スピードの経営の第20章「政府を国民の手に」で述べたのは、税金支払や給付金受取を行う世界観であり、そこでは司法も医療も電子手続きでスムーズに進められる。
今の世の中に合わせて言えば、手元に置くのはマイナンバーカードくらいで、あとは税金も年金も健康保険も運転免許も医療データも適切にデジタルに管理され、マイナンバーカードと暗証番号で呼び出せるような形になるのではないか。そのマイナンバーカードがスマートフォンに取込み可能となれば、役所手続きはスマホ一つで書類手続きなく完了出来る。

そして「政府は…もし情報技術の使用面でリーダーになれば、自動的にその国の技術熟練度をつり上げ、情報市場への移行を推進する」と予測する。
つまり、政府にならって会社の社内手続きもデジタル化しようと一斉に皆が動き出すようなイメージだ。これは本当に便利な世の中を作り出すと思う。

また、政府サービスのデジタル化は、
・デジタル化の工事を請け負う事業
・デジタル前提の運用の中で必要とされるセキュリティやデータ分析による業務改善を手掛ける事業
・デジタルサービスを担えるようにする教育や教材事業
・デジタルサービス業界への人材移動を手掛ける人材サービス事業

といった幅広い民間ビジネスで仕事を増やす働きをするだろう。産業界の構造も変えていくのだ。

ビルゲイツを輩出したアメリカには、2014年にデジタルサービス庁がホワイトハウス内に作られており、形だけみると2022年にデジタル庁を発足する日本は8年遅れというように思えるが、ここからの追い上げに期待したい。

レポートバンク作成のレポート一覧。


監査役とガバナンス

2020-09-16 00:46:00 | 投資・会計・ガバナンス
会社には、取締役のほかに監査役という役職が存在する。経営判断を積極的に行って売上と利益を伸ばしていくという役割ではないが、ガバナンスを効かせることにおいては大きな期待を持たれる職務である。
(制度の概説は、公益社団法人の日本監査役協会に会社法の権威である神田秀樹教授が説明文を寄せている)

監査役は株主によって選ばれ、場合によっては会社を代表して取締役と訴訟を起こすことも任されているなど、ガバナンスの中心的役割を担っている。
監査の観点も、業務の遂行がルール通りに行われているか、会計処理が適切に行われているか(会計監査人を自らの補佐にして確かめることになる)というもので、これらを最後の砦として確認するという任務がある。

それではこの職務を様々な企業の監査役は果たしているのだろうか…とニュースを調べると、ここでも違和感に声をあげずに済ませている東芝粉飾決算など、不正会計を会議の空気によって許容している様子が浮かび上がる。
この空気への対抗はとても困難で、せめて職務を託してくれた株主の期待に応えようとするならば、ウォーレン・バフェットがかつて社外取締役に関して述べたように
「声をあげられないなら監査役を辞めることによって企業の異常事態を伝える」
という手法が正解になるのだと思える。そしてこれをやるためには、取締役の「独立性」についての議論と同じく、個人として報酬にどれだけ頼ることになっているかを考え、「その報酬がなくとも困ることがなく独立心を保てる」という判断をできる人が監査役の資格を持つだろう
…そう考えると金持ちの名誉ポジションという気もするが、本当のところその方が当たり前の不正に堂々と声をあげる余裕をもち、良い監査役になるのではないか。

企業の業務運営に関心を持ち、堂々と声をあげられる金持ちの監査役が増えることを期待したい。

地方銀行がどのような経営実績をもつか、日米の数行を比較観察したレポート。

複業解禁の副作用

2020-09-14 00:27:00 | 投資・会計・ガバナンス
今年、メガバンク内で唯一の制度として、みずほ銀行が副業を許可したことが大きなニュースになった。
これはとても先進的で競争力を高めることにもつながる経営判断だと思う。多様な志向を持つ人材の採用につながったり人材が多様なスキルを身につけて会社全体の事業遂行能力が高まるというだけではない。副作用として経営のガバナンスが高まると考えるからだ。

経営のガバナンスについては、取締役会の制度を巡って少なくとも20年近く議論が続けられてきた。そして今は、企業と雇用関係を持たず、報酬の他に利害関係を有しない独立役員を1人おくことが義務に、社外取締役を2名以上登用するとが上場の一般基準として設けられている。(日本証券取引所のサイト
しかしこの独立性は常に有力な批判を受ける対象である。それは、過去の粉飾決算などの例でスタンフォード大学の教授など複数の社外取締役を持つエンロン社(取締役会構成)が不正を防げなかった例などがあるからだ。

ウォーレンバフェットによれば、取引関係といった着目点は不足であり、有効な「独立」社外取締役の定義は報酬を収入源として重んじる必要のないことである。
取締役会で社外取締役に選んでもらうことに家計を助けてもらう意識がある限り、どんな取引関係にあっても従属的な意識を持つことになるというのは説得力のある話だと思う。
雇われる身であれば、(他社から引く手数多のスターでもなければ)給料を支払ってくれている企業にぶつかることは困難なことである。

そしてこの原則は取締役のみでなく一般のスタッフにも当てはまる。

ここで、副業解禁が非常に大きな意味を持つのだ。この制度が本格的に行き渡った時には、みずほ銀行は同様の制度を持たない他の銀行に比べて、営業ノルマや上司の圧力による不正融資やハラスメントは確実に減る。
給料に頼る気持ちが弱められれば、早い段階でアラートが出され、問題が未然に防がれるだろう。

複業解禁の副作用としてガバナンスの改善がもたらされ、会社の競争力をより一層高めると思う。社内の様子がよく分からなくてガバナンスに不安があるという大企業は特に、導入を検討していただきたい。

レポートバンクのレポート一覧
様々な業界の会社を国内外を視野に比較分析したレポート。