井上ひさし版「坊ちゃん」という感じ。しかし、学校を辞めるのは私たちじゃない。
仙台の「一高」という男子高校に通う六組の生徒たち五人が主人公。
彼らの成績は下から数えた方が早い。
彼らの一人、稔の家は料亭で、彼の部屋は宴会場の二階へ通じる階段の途中にある。
そこは仲間たちが集う溜まり場でもあった。
彼らの考えている、というか、妄想していることは女の子のことばかり。
とてもよくわかります。この本を、高校のとき読んでいたらなあと、しみじみ思った。
もう少し、何というか、舞い上がったり落ち込んだり、必要以上にしないで済んだのではないかと。
「一高」の隣には「二高」という女子校があり、合同で演劇をやろうという企画が持ち上がる。
英語劇で。シェイクスピアを。提案したのは東京からの転校生、俊介。
高校始まって以来の偉業を達成するはずだったが、目的はジュリエット役のひろ子だった。
俊介にくっついていく形で、他の四人も演劇部入り。
しかし途中でひろ子は、本物の劇団に入ってしまい退学。男子たちはやる気を失う。
本番は散々なもの。その後始末で出会った女の子たちを松島に誘う。
来たのは一人だけ。男五人に女一人。
一人の男子が仕方なく(お目当ての子たちは来なかった)散歩するも何一つ噛み合わず。
残る四人に付けられ、急かされて、男子は女子を草むらに押し込み、倒し、服を脱がせにかかる……。
しかし女子は、水着を着用していた!
ひどくしょげ返った男子たちは、当然校長室に呼ばれる。校長はチョロ松というあだ名。担任は「軽石」。地学担当で、顔がボコボコしているので。
チョロ松は講義に来た「二高」の先生を言いくるめ、うなぎをご馳走にいく。その後、軽石の話がとてもいい。
ゆかいなだけじゃないまじめな話が、とても印象に残ります。
その後、彼らはずいぶん大人しくなったのですが、チョロ松がある女性と連れ立っているのを見て、またいきり立つ。
ある女性というのは、俊介の姉で、稔の料亭の看板芸者、多香子姉さん。
女神のように慕ってた彼らは、ついにチョロ松襲撃に打って出る。
顛末は、どうぞ読んでみてください。最後の一行がまたとても鮮やか。
悪ふざけばっかりして、影響を受けやすくて、激しやすくて、性欲と未来が渾然一体。要するにバカな男子高校生たち。
この小説が胸に残るのは、彼らを何とかして成長させようという先生たちの懐の深さがあるから。
先生たちだけじゃない。ラーメン屋の店主の安さんや、元少佐のおじいさんなども。
知的障害があると思われる稔の同級生の女子が妊娠させられてしまい、寄付金を集めて届けたときの話なども、ここでしか味わえない。
小説でしか味わえないものがある、と、改めて感じさせてくれます。
井上ひさし 著/文春文庫/2008
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