泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

バーネット・ニューマン展

2010-11-18 20:38:12 | 
 昨日、初めて川村記念美術館に行ってきました。職場の同僚(このブログのブックマークの一番下から彼のホームページに行けます)からこれはいいですよと薦められて。「川村記念美術館」これも名前だけは知っていた。おそらく、テレビ東京の番組「美の巨人たち」を通じて。
 予定の都合と自分の行きたさ具合によって昨日になった。晴れることを願っていたけどあいにくの冷たい雨。冬の到来を感じさせる北風ぴゅー。事前に女性を二人誘った。二人とも来なかった。
 東京駅八重洲口前から直通のバスに乗った。しかし高速は大渋滞。事故があったという。一時間ものろのろ。持って行った文庫本を読み終えてしまう。人生は思うように運ばせてくれない。
 着いたらまず腹ごしらえでスパイシーカレーをいただく。おいしゅうございました。会計後、初心者であることを告げ、チケット売り場と美術館の場所を聞く。ていねいににこやかに応じてくれた。お姉さんは傘まで貸してくれた。
 いざ、美術館の中へ。洋館を思わせる建物。らせん状の階段があり、ステンドグラスから弱い光が届けられる。
 一階は常設展。しかし、そのどれもがすごい。ルノワールの「水浴する女」、モネの「水連」、シャガールの「赤い太陽」「ダヴィデ王の夢」、ピカソの「シルヴェット」などなど。冷たい雨で平日ということもあり、一部屋に僕一人というぜいたくさ。十分に満喫できた。僕はやはりシャガールが好きだ。赤、青、黄色。絵に含まれた豊かな物語。詩情。悲しみ。喜び。花束。それはシャガールにしか描けない。夢と現実と歴史と感情が混ざった一枚。一枚。
 次の部屋は前衛の部屋。「線的構成NO1」という作品はプラスチックの容器の中ににナイロン糸を張ったもの。なんだこれは。よく作ったものだな。こんなことにエネルギーを使うなんて、世界は広い。おもしろい。
 その奥の部屋は日本画。大きな屏風絵がガラスに守られて大事に飾られてある。長澤蘆雪の「牧童図屏風」は牧童が何人も描かれているのだけど、どれも同じおやじ顔なのがおかしかった。
 中庭を右手に見て、扉を開けるとダダとシュールレアリスムの部屋。アルプの「臍の上の二つの思想」は、ブロンズ製で、滑らかに窪む臍の周囲の丘に、空豆のような小さなまが玉がちょこんと乗っている。ブロンズの美しい曲線と空豆と窪みがなんともいい味を出している。
 さらに奥の青い部屋はカルダーという人の作品が4点。「黒い葉、赤い枝」は、金属の支柱に天秤がかかり、その枝にまた小さな天秤がかかり、その先にまたもう少し小さな天秤がかかり・・・、というように地面すれすれにまで黒い葉と赤い枝が伸びている。空調でゆらゆらと揺れているけど決して均衡は崩れない。この部屋には見張りが二人もいた。つい触ってみたくなる。
 奇妙な部屋を後にすると上り坂の廊下が長く伸びている。正面に見える緑も絵かと思ったが窓だった。
 突き当り左が「ロスコ・ルーム」。マーク・ロスコの壁画が四面に大展開。その色合い、染み、茶褐色が血のようにも見え、ここは体内なのかと感じさせもし、まったく初めて入った空間を受け止めようと五感が心地よい刺激を浴びる。絵画は空間を作ることもできるのだと体感。絵の前に立ち、初めて立ち現れる手垢のついていない感覚の放流。画家にしてみればしてやったりというところでしょうか。そうだとしてもその試みは尊い。安心して新感覚を味わうことができるなんて。わざわざ来たかいがあった。
 「ロスコ・ルーム」でうろうろすること10分ほどでしょうか、名残惜しみながら出るとらせん階段が。二階へ着くと、大広間に抽象作品群が息づいている。中でも最も引かれたのはジャクソン・ポロックの「緑、黒、黄褐色のコンポジション」でしょう。コンポジションとは創作、作詩、作曲、構成の意味。ポロックという人も確か「美の巨人たち」で見たことがあった。くわえ煙草で地べたに置いたキャンパスにペンキを投げ打っている映像。アクションペインティングの先駆け。実物は、まったく力に満ちていた。解釈なんてしようがないんだけど、いいなと思った。元気が出てきた。
 そしてメインディッシュが、川村記念美術館20周年を祝っての企画でもあり、日本初ともなったバーネット・ニューマン展。
 おそるおそる入ると、暗闇に一枚の絵が浮かんでくる。題して「Be」。日本語では「存在せよ」と訳されていた。朱色の中央に白い一本の縦線。それだけなのですが、強烈に引き込まれた。なんなのかよくわからない。でも見ずにはいられない。正面にベンチがあって、座り込み、しばし対峙。白い一筋が、二本になったり三本になったりする。目が二つあることに気づく。二つを交差させて一つの像を見ていたのだと。
 ようやく立ち上がり、次の間へ。どの作品にも縦の線が走っている。直線なのにとても感情を揺さぶられる。またタイトルがとても魅力的。「夜の女王」「名」「原初の光」「そこではない。ここ」「ここ」「詩編」。感情が、なにより反応している。色彩が、そこに引かれた線が、こんなにも心を動かすとは驚きだった。ぐるりと回り、次の間にはいっぱいのオレンジ。右に白い縦の線。題して「アンナの光」。アンナとは、ニューマンの母の名前。作成する三年前に亡くなっていたという。ここでもベンチに座る。思わず目を閉じてしまう。とても温かい。孤独を忘れてしまう。存在が包まれてしまう。それが母であるアンナの光。ニューマンを生かした光。
 右手から快活なおしゃべりがずっと聞こえている。行ってみるとニューマンのインタビューが上映されていた。ニューマンの柔和な笑み。その語りがとてもおもしろい。後で知ったことだけど、大変な読書家だったという。大学は哲学科を出ていた。考え、悩み抜かれた末の作品たちはまさに大切な宝物。彼の作品を持っている人たちは、大切に保管しているから簡単には出てこないという。よくわかる。常に置いておきたい、愛でたいから。それはもう形ではなく心だから。
 ということで、とてもよかったです。結果的に、雨で、寒くて、一人で、大変によかった。僕という一個の存在が活性化するような、すばらしい作品たちでした。
 川村記念美術館。ぜひ一度お立ち寄りください。ちら見したい方は、Here!


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