この本を作った出版社、合同出版が、出版文化正賞を受賞しました。「個性的で良質な活動を続ける出版社として、長年、一貫して核兵器を始めとする非人道的兵器の問題、戦争と平和の問題に取り組んできた出版活動が認められたもの」です。
そして、出版活動の一貫としての「原爆詩集」の存在を知りました。
年齢を問わず、原爆によっていかに多くの人々が死に、苦しみ、焼けただれ、ガラスの破片が骨に食い込み、目玉が飛び出し、石の階段に影しか残らず、極限の恐怖に曝されたことか、誰によって、何のために、と、うめきながら殺されていったか、詩という器に血のように流れ出した肉声が、伝えています。
それらはもう、伝えるということの根源的な姿でしょう。もうやだ、もう、絶対に戦争なんかやだ! なんで、どうして、僕らが死ななければならないのだ? そんなこと、絶対に許せない!
僕は死ねない 徳納晃一
うつむいて
一生懸命ノートしている授業中
いきなり
ポタリと鉛筆のさきへ鼻血がちった
とめどなく
ノートの字を染めつぶして
血はいつまでも止まらなかった
死
すきがあれば心のすみのどこからか
頭をもたげようとすることば
死
だが僕は死なない
あの原子爆弾のために
だまって死んでしまえるものか
原子爆弾が地球のいたるところに
光って落ちて人の命をうばって
地球上のいたるところに
僕のような運命をむりやりにせおわされて
悲しい人びとができていいものか
僕は死ねない
そっと腕をまくってみる
まだ斑点は出て来ない。
死ねない。そんなことで死んではならない。死んでいいはずがない。
しかし、実際に、原爆だけで広島で14万人、長崎で7万人もの犠牲者が、1945年末まで、推定で出ている。
遺され、生かされている僕らにできることは何なのか?
黙祷 倉知和明
碑のまえで
目蓋をかたく閉じた祈りは
やがて 歩きはじめます
一つの言葉を抱いて
一つの希いを背負って
とおい道を歩きはじめます
かつて閃光を浴びて悶死した街をあとに
歩きはじめます
人々の心の扉を叩きながら
人々の瞳の窓をみつめながら
たった一つの希いで手をとり合いながら
たった一つの祈りで励まし合いながら
歩きはじめる わたしたち
あなたの跫音のすぐ隣りに
わたしの跫音があり
わたしの言葉の上に
あなたの声が重なり合って
平和
心を寄せ合った一つの祈りを
両手にかざして歩きます
呟やきは死んだ人の名を呼んで
指先は強ばった皮膚を温め合って
明日にむかって歩き続ける
跫音は
わたしとあなた
世界の人よ
科学が人間を虐げることのないように
にんげんが にんげんを
追い払うことのないように
わたしたちは歩きます
朝から欺かれる一日に
出会ったとしても
わたしたちの無言の約束は
一日を刻み続けて
一つの祈りを彫り続けて 歩きます
百万屯の兵器で国境が守られることよりも
たった一つの言葉を 信じ合えること
軍服を記章で飾ることよりも
信じ合える言葉を 磨きあげること
そのことが 跫音のなかの
わたしの希いです
わたしたちの祈りです。
合同出版編集部/合同出版/2008
そして、出版活動の一貫としての「原爆詩集」の存在を知りました。
年齢を問わず、原爆によっていかに多くの人々が死に、苦しみ、焼けただれ、ガラスの破片が骨に食い込み、目玉が飛び出し、石の階段に影しか残らず、極限の恐怖に曝されたことか、誰によって、何のために、と、うめきながら殺されていったか、詩という器に血のように流れ出した肉声が、伝えています。
それらはもう、伝えるということの根源的な姿でしょう。もうやだ、もう、絶対に戦争なんかやだ! なんで、どうして、僕らが死ななければならないのだ? そんなこと、絶対に許せない!
僕は死ねない 徳納晃一
うつむいて
一生懸命ノートしている授業中
いきなり
ポタリと鉛筆のさきへ鼻血がちった
とめどなく
ノートの字を染めつぶして
血はいつまでも止まらなかった
死
すきがあれば心のすみのどこからか
頭をもたげようとすることば
死
だが僕は死なない
あの原子爆弾のために
だまって死んでしまえるものか
原子爆弾が地球のいたるところに
光って落ちて人の命をうばって
地球上のいたるところに
僕のような運命をむりやりにせおわされて
悲しい人びとができていいものか
僕は死ねない
そっと腕をまくってみる
まだ斑点は出て来ない。
死ねない。そんなことで死んではならない。死んでいいはずがない。
しかし、実際に、原爆だけで広島で14万人、長崎で7万人もの犠牲者が、1945年末まで、推定で出ている。
遺され、生かされている僕らにできることは何なのか?
黙祷 倉知和明
碑のまえで
目蓋をかたく閉じた祈りは
やがて 歩きはじめます
一つの言葉を抱いて
一つの希いを背負って
とおい道を歩きはじめます
かつて閃光を浴びて悶死した街をあとに
歩きはじめます
人々の心の扉を叩きながら
人々の瞳の窓をみつめながら
たった一つの希いで手をとり合いながら
たった一つの祈りで励まし合いながら
歩きはじめる わたしたち
あなたの跫音のすぐ隣りに
わたしの跫音があり
わたしの言葉の上に
あなたの声が重なり合って
平和
心を寄せ合った一つの祈りを
両手にかざして歩きます
呟やきは死んだ人の名を呼んで
指先は強ばった皮膚を温め合って
明日にむかって歩き続ける
跫音は
わたしとあなた
世界の人よ
科学が人間を虐げることのないように
にんげんが にんげんを
追い払うことのないように
わたしたちは歩きます
朝から欺かれる一日に
出会ったとしても
わたしたちの無言の約束は
一日を刻み続けて
一つの祈りを彫り続けて 歩きます
百万屯の兵器で国境が守られることよりも
たった一つの言葉を 信じ合えること
軍服を記章で飾ることよりも
信じ合える言葉を 磨きあげること
そのことが 跫音のなかの
わたしの希いです
わたしたちの祈りです。
合同出版編集部/合同出版/2008
迷走中年には判断しかねる大問題である。しかし自身の変わらぬ愛読書が『野火』であり、『神聖喜劇』であり、『真空地帯』である事にささやかな希望も感じている。
朝鮮の北と南も、実は停戦中なだけ。
日本に広まっている「見えない戦争」。その犠牲者が、死を強いられている。
天皇だとか軍だとか。昔と違って今は「敵」や「相手」が見えない。巧妙に隠されている。責任が分散されている。
その中でどんな文学を産み出していけるのか?
僕は僕にできるところから始めていくしかありません。
危機意識は、常に持っています。