観ました。ツタヤの会員カードの更新で、一本ただだったので、DVDで、他に思い当たるものもなかったので。
やっぱり、これが一番です。他の映画も、少なからず観たはずなのですが、映画でいいものというと、これしか思い浮かびません。
30年、お役所勤めをしてきた市民課長が主人公。彼はある日、胃がんを宣告されます(直接的にではありませんが)。この事実を受け入れるまでの放浪、酒、女、博打。そんな二週間で、決定的な影響を与えた、役所を辞めて工場で働く若い女性との対話がありました。
「わしは、もうすぐ死ぬ。君は、なぜそんなに生き生きしているのか? 君と一緒にいると、この辺が(胸に手を当てて)楽しくなる。教えてくれ。でなきゃ、死ねない」
「わたし、こんなの(ぜんまい式のうさぎ人形)を作ってるだけよ。世界中の赤ちゃんと友達になったみたいで。課長さんもなにか作ってみたら?」
ぴょこぴょこと飛び跳ねるうさちゃん。うなだれていた市民課長は、ああっと気づきます。やればできる、と目を輝かせて。うさちゃんを奪い、役所に戻る。そのとき、喫茶店に居合わせたグループは、お誕生日会の真っ最中。「ハッピバースデイトゥーユー」は、彼のためにこそ流れていた。
陳情されてたらいまわしになっていた公園の設立に、課長は一心不乱に取り組みます。「命が惜しくないのかね」というやくざの脅しも、余命半年の彼には通じない。
できた公園のブランコに揺られながら、彼はしみじみ歌います。「命短し 恋せよ乙女」と。
あまりに感動したので、調べました。この歌は、『ゴンドラの唄』といい、大正時代、1915年に、島村抱月が主催する文芸座の女座長として、主役を演じていた松井須磨子が、ツルゲーネフ作の『その前夜』劇中で歌ったのが始まりだそうです。
短いので、歌詞を載せてみます。
ゴンドラの唄 作詞:吉井勇 作曲:中山晋平
いのち短し 恋せよ乙女
朱(あか)き唇 褪(あ)せぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを
いのち短し 恋せよ乙女
いざ手をとりて 彼(か)の舟に
いざ燃ゆる頬を 君が頬に
ここには誰も 来ぬものを
いのち短し 恋せよ乙女
波に漂う 舟の様(よ)に
君が柔手を 我が肩に
ここには人目も 無いものを
いのち短し 恋せよ乙女
黒髪の色 褪せぬ間に
心のほのお 消えぬ間に
今日はふたたび 来ぬものを
死を自覚して、初めて生きる。それは真理なのかもしれません。
身近な死を、遠ざけ、隠すほどに、生もわからなくなるものなのでしょう。
生きる。時間に追われるのではなく、退屈でもなく、恨んでいる暇もないくらいに。
生を受けたもの、すべての宿題。
書いたように、ヒントは死の自覚であり、作ることなのでしょう。
文句なしにすばらしいです。観るたびに、きっと自分を映す鏡になります。
黒澤明監督/志村喬・小田切みき他出演/東宝/1952
やっぱり、これが一番です。他の映画も、少なからず観たはずなのですが、映画でいいものというと、これしか思い浮かびません。
30年、お役所勤めをしてきた市民課長が主人公。彼はある日、胃がんを宣告されます(直接的にではありませんが)。この事実を受け入れるまでの放浪、酒、女、博打。そんな二週間で、決定的な影響を与えた、役所を辞めて工場で働く若い女性との対話がありました。
「わしは、もうすぐ死ぬ。君は、なぜそんなに生き生きしているのか? 君と一緒にいると、この辺が(胸に手を当てて)楽しくなる。教えてくれ。でなきゃ、死ねない」
「わたし、こんなの(ぜんまい式のうさぎ人形)を作ってるだけよ。世界中の赤ちゃんと友達になったみたいで。課長さんもなにか作ってみたら?」
ぴょこぴょこと飛び跳ねるうさちゃん。うなだれていた市民課長は、ああっと気づきます。やればできる、と目を輝かせて。うさちゃんを奪い、役所に戻る。そのとき、喫茶店に居合わせたグループは、お誕生日会の真っ最中。「ハッピバースデイトゥーユー」は、彼のためにこそ流れていた。
陳情されてたらいまわしになっていた公園の設立に、課長は一心不乱に取り組みます。「命が惜しくないのかね」というやくざの脅しも、余命半年の彼には通じない。
できた公園のブランコに揺られながら、彼はしみじみ歌います。「命短し 恋せよ乙女」と。
あまりに感動したので、調べました。この歌は、『ゴンドラの唄』といい、大正時代、1915年に、島村抱月が主催する文芸座の女座長として、主役を演じていた松井須磨子が、ツルゲーネフ作の『その前夜』劇中で歌ったのが始まりだそうです。
短いので、歌詞を載せてみます。
ゴンドラの唄 作詞:吉井勇 作曲:中山晋平
いのち短し 恋せよ乙女
朱(あか)き唇 褪(あ)せぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを
いのち短し 恋せよ乙女
いざ手をとりて 彼(か)の舟に
いざ燃ゆる頬を 君が頬に
ここには誰も 来ぬものを
いのち短し 恋せよ乙女
波に漂う 舟の様(よ)に
君が柔手を 我が肩に
ここには人目も 無いものを
いのち短し 恋せよ乙女
黒髪の色 褪せぬ間に
心のほのお 消えぬ間に
今日はふたたび 来ぬものを
死を自覚して、初めて生きる。それは真理なのかもしれません。
身近な死を、遠ざけ、隠すほどに、生もわからなくなるものなのでしょう。
生きる。時間に追われるのではなく、退屈でもなく、恨んでいる暇もないくらいに。
生を受けたもの、すべての宿題。
書いたように、ヒントは死の自覚であり、作ることなのでしょう。
文句なしにすばらしいです。観るたびに、きっと自分を映す鏡になります。
黒澤明監督/志村喬・小田切みき他出演/東宝/1952
命が輝くような、気がするよ。
細部まで、文句なしです。
俳優の演技もすばらしい。志村喬さんの目、涙には、思わずひきつけられます。
監督は、観るものに問うているそうです。で、あなたは? と。感動するばかりでなく、自分の生き様を見ないわけにはいきません。