泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

沈まぬ太陽

2009-11-09 19:30:51 | 映画
 このブログに、2008年8月16日、小説『沈まぬ太陽』の感想を書いています。改めてそれを読み、現代に必要な作品なのだという思いを強くした。
 主人公恩地は、会社のため、働く人たちのため、またお客さんの安全、幸せのために、労働組合の委員長を務め、ストライキを辞さず、労働条件の改正に尽力した。しかし、会社側は、報復人事として、彼をカラチへ、テヘランへ、ナイロビへ、島流しとも言える対応をした。さらに労働組合の切り崩しを行い、自殺者まで出した。
 恩地は、ただ単純に、いいものを実現しようとし続けた。大勢に流されることが危険なことを、戦争によって知っていた。心身でわかっていることを行動し続けた。だから経営者側への詫び状など書けるはずもなかった。
 それでも、家族もばらばらになり、追いつめられた彼は、アフリカの大地に救われた。そこには、懸命に生きる命があった。神々しく輝く太陽があった。
 この世界で一番危険な動物である人間の所業を見せつけられるたび、また、ほとんど人災であったジャンボ機墜落事故の犠牲者、遺族の悲しみが深まるたび、大地はより広く、どこまでも人間を包み込む。人間の中に、太陽の光が差し込んできてありがたい。それはほんとにあったかい。
 そこには『大地の子』へも通ずる感動がありました。人間が、より大きな器に変容した瞬間というのでしょうか。僕もまた、夏に行った沖縄の大自然を思い出したのでした。
 配役がまたはまっていました。自信のなさゆえに昇進にこだわる行天には三浦友和、息子夫婦と孫を一気に失った遺族として宇津井健、事故後の再建を首相直々に頼まれた会長に石坂浩二、などなど。どの俳優もぴったりでした。それはスタッフを含めて、この映画に関わった人すべてが気持ちをひとつにして取り組んだ結果でしょう。
 沈まぬ太陽とは、どんな境遇にあってもめげない、投げやりにはしない、違うものには違うと言う、よりよい社会を志向する希望のことなのではないでしょうか。あるいは、人間の持っている強さへの信頼とも言えるのかもしれません。
 それでも、犠牲者は帰ってきません。その重さを、僕ら一人ひとりが、少しでも分かち合おうとする、聴こうとする、その心が大切だと思いました。
 恩地のようには強くなれないかもしれない。でも、人間としての芯を通す意志を持っていたい。
 会社員、社会の一員として、観た人それぞれに励ましをもたらす作品なのではないでしょうか。
 疲れた心身に、よく入ってきました。そして深いところまで、根付く力がありました。
 人間は、失敗から学ぶしか、成長する術はない。
 自信のなさとは別に、謙虚で、低くいたいものです。

山崎豊子原作/若松節朗監督/西岡琢也脚本/渡辺謙、鈴木京香他出演/東宝/2009

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