昔の私は、他人の目が気になって仕方なかった。
洋服でも持ち物でも、他人からどう思われるかということばかりを気にしていた。
突然の発症から精神科にかかるようになって1年半、
随分変わったな…と自分でも思う。
お隣の奥さんはどちらかと言えば男性のような性格で、
思ったことを大声でハッキリと言う。
お向かいの奥さんと世間話をするのが好きで、
夕方、お向かいの奥さんが仕事から帰るのを待っていて、
どちらかの家の前で井戸端会議が始める。
何年か前までは私も、犬の散歩の帰りなどに出くわせば、
一緒に話をすることもあったが、
この奥さん方はいろんなお店に買い物や食事や飲みになど出かけるので、
ほとんど出かけることのない私は話しについていけないところがあった。
それに、お隣の奥さんは他人の噂話が好きで、
話しているところに近所の人たちがそれぞれ仕事などから帰って来て通りかかると、
それまでの話をぴたっとやめて、
黙ったままずっとその人の姿を目で追う。
そして、通り過ぎるころになって、
「この人の娘さん、離婚して帰って来てたけどどうなったんだろ、まだ家にいるんだろうか?」
などと大声で言うので、
私は相手に聞こえているんじゃないかと内心ヒヤヒヤする。
お隣の奥さんは昔印刷会社で働いていたことがあり、
機械の大きな音がするところにずっといたので声が大きいのだ。
一緒になって悪口を言っていると思われるのが嫌で、
だんだん井戸端会議の輪に加わらないようになった。
そうなると、お隣でもお向かいでもだんだん疎遠になってくる。
特に私が病気になってからはほとんど顔をあわすこともなくなっていたが、
井戸端会議の声だけはキッチンで夕飯の用意などしている私の耳に届くのだ。
お隣の奥さんはたぶん、聞こえてもいいと思って大声で言うのだろう。
私は父に届けるために朝から煮物を煮たり揚げ物をしたりすることがあるが、
わが家のキッチンの換気扇がお隣の玄関に向いているので、
ニオイが気になるのだろう。
以前に
「お宅はまた肉じゃが?」「ニオイがすごい」「今日はおでん?ニオイがすごい」
などと面と向かって言われたこともあったが、
お向かいの奥さんとの井戸端会議でも
「ここの家は朝から煮物とかして、ニオイがすごいのよ」
「おでんなんんか煮てる時はダイコンのニオイがぶわ~ってしてすごいのよ」
なんて言ってるのが聞こえてくる。
以前の私なら、そんなふうにいわれるとくよくよ気にしていただろう。
だけども、精神科の先生やカウンセラーさんとお話をしてきたせいか、
こんなことを言われても
「うるさい!じゃあお前の家は煮物もおでんも作らないのか!」
と心の中で叫んで、スッキリしている。
去年、町内の班長の当番で清掃作業があったときも、
医師から人間関係の幅を狭めるように言われていたので、
夫だけが参加して私は行かなかった。
先日、スーパーでお隣とお向かい2人の奥さん方が仲良く買い物をしているのに出くわし、
お向かいの奥さんが、今年清掃作業は親戚が遊びに来るので出られない、と私に言った。
その時、お隣の奥さんがひとり言のように、だけどもとても大声で
「行かなくていいよ!
協力しないといけないと思ってこの前参加したのに、本人が来てなかったんだから!」
と言った。
つまりは、班長の私が清掃作業に参加しなかったことを責めているのだろう。
でも、私は2010年の秋から精神科にかかっていて、
医師から人間関係の幅を狭め、ごく親しい身内とだけ付き合うようにしなさい、
と言われている、ということを、
清掃作業に参加できなかった理由としてお隣の奥さんに説明する必要などないだろう。
人って、私のことをすべて知っているはずはないのに、
自分の勝手な思い込みで悪口を言うことが多いね。
朝早くから煮物をするのも、父に届けるためなんだけど。
でも、こんなことをあれこれ言われても、
昔のように気にならなくなったのはなぜだろう。
それどころか、心の中にとても意地悪な私がいるような気になってしまう。
今までのように愛想よく笑ったり、明るい声ではきはきと受け答えをしたり、
そんな感じのいい私はいなくなってしまったようなのだ。
これは治療の成果なのか、よくなったと思っていいものなのか。
ただ、人の目が気にならなくなってとても楽になった。
洋服でも自分の好きなモノが着られる。
そして、そんな私の姿を見て、「変わってる」と思う人もいるだろうけど。