<成都市の空室率は46.9%にも>
・大都市の上海でもこのありさまだから、地方の中小都市の景気がいかに悪化しているかが窺い知れよう。
・いま、地方都市で、オフィスビル空室率が全国ワーストワンとなっているのは、四川省の成都市だ。2010年から空室率はうなぎ上りに上昇し始め、2012年に34.6%、さらに2014年には43.9%という驚くべき数字にまで達した。
<廃墟化する全国の「経済開発区」>
・中国には、もう一つの経済バブルが確実に弾け始めている。それは、「経済開発区」と呼ばれるものである。その損失規模は、オフィスビルの開発より数倍大きいといわれている。
・いろいろな呼び名があるだけではなく、経済開発区の数は想像以上にあり、全国各地に夥しく存在している。正確な統計数字はいまだに出ていないが、国だけでなく省や市が認可したものも含めると、数万以上あると推測される。
中国には22の省(台湾を除く)、4つの直轄市、2つの特別行政区、5つの自治区があり、それらの下には2856の県があり、さらに4万906の鎮と郷がある。香港とマカオ特別行政区を除けば、経済開発区のないところは見つからないのだ。
・開発区の敷地内には雑草が生え、空き地が目立っている。堀で囲まれた工場は数ヵ所あったが、窓から中を覗き見ると、床が裸土のままで機械は1台も置かれていない。現地の人々は、もし稼働している工場が見つかったら「国宝級のパンダ」という称号を送りたい、とよく揶揄している。
<氾濫するニセの外資企業>
・原因はいろいろあるが、やはりひどいGDP依存症にかかっているため、正常な経済活動に歪みがでていることが大きい。実績を粉飾するのは当たり前になっており、将来性や持続性のない外資企業の導入が盲目的に行われていた。
高汚染、高エネルギー消費、かつ本国で禁止された生産品目を扱う外資企業が続々と中国に進出してきた。結局、そのつけが回ってきて、やむをえず閉鎖や破産に追い込まれたのである。
<6000万戸の空き住宅>
・2014年6月、西南財経大学の調査チームが、「2014年、中国住宅空室率および住宅市場の発展趨勢」という報告書をまとめた。その報告書の中で、都市部の販売済み居住用住宅の空室率23.4%にも上り、約6000万戸は誰も住んでいないという驚くべき真相が明らかにされた。このニュースが伝わると、大きな反響を呼んだ。
<30%にも及ぶ「無効GDP」で地方債務は爆発寸前>
・重複プロジェクトとは、全国的に企業の生産過剰が広がっているのに、同じものを生産する新規事業のことをいう。コストの回収はほぼ絶望的で、地方債務が膨らむ一方である。
中国ではGDPのうち、「無効GDP」の部分が非常に大きい。無効GDPとは、帳面上は入金が記載されているが、実際にはその金は消えており、存在していないということである。日本ではあまり聞きなれない現象だ。専門家の試算では、いままでに、この無効GDPが全体の20~30%を占めるとされている。
<役人の監視体制は機能しない国>
・このようなことが可能になるのも、地方(県)の最高指揮権は党委員会書記(党委書記)にあり、党委書記の裁量ですべてのことが決められるからだ。
日本の場合、県や市にはそれぞれ県議会、市議会があり、知事といえども勝手に公共事業の立案や予算などを決めることはできない。だが、中国では党委書記がすべての権力を持っている。だから、地方の党委書記は「地方皇帝」と呼ばれているのである。
<老齢人口の増加と実体経済の低迷が年金制度を直撃>
・いま、中国では60歳以上の人口が約2億人に達しており、総人口の約14.7%を占めている。35年後の2050年には高齢者人口が総人口の40%まで占めるようになるという試算が、ほぼ確実なものだと見られている。
・ちなみに、1998年まで中国には本格的な年金制度が存在せず、誰も年金の掛け金を納付していなかった。したがって、定年退職の年から平均寿命の年までに受け取る年金総額は、在職期間中に納付した掛け金の15倍にもなってしまうのである。このデータはすでに明らかだ。
年金財政が破綻の危機に陥っているもう1つの原因は、年金制度の設計における重大な欠陥が挙げられる。
前述したように、中国の年金制度は1998年から本格的に実施したもので、あまりに歴史的に浅く、年金財源の備蓄不足は大変深刻な状態である。
<7000万人の役人はただで年金が受け取れる>
・中国の公務員数は約1000万人で、「事業単位」と呼ばれるところで仕事をしている準公務員は約6000万人いる。
事業単位とは、学校、病院、学術研究所、文化団体、新聞社、テレビ局などを指しており、仕事は政府の行政指示のもとで進め、政府から運営経費をもらっているのが特徴である。
実は、この7000万人の年金が大問題なのである。彼らは昔も今も年金保険金を納付していないが、一般の国民より多額の年金を受け取り、年金生活を享受するという非常に不公平な現状があるのだ。
<「理財商品」で税収の5倍に膨れ上がった地方債務>
・実は、地方債務は、土地を強制買収して大型プロジェクト建設を進めようとしている。しかし、資金がなければどうしようもない。
<国家に還元される利益は10%にも満たない>
・中国企業には、投資対象国の政治的、経済的リスクをまったく無視して、無理やり勢力拡大をしようとする傾向がある。さらに、中国国内と同様に、現地の法律や法規を無視する行為もよく見られる。そうしたことが、海外進出で多額の損失を招いているのである。
だから、中国では、国有企業が「第2の税務署」という渾名で呼ばれている。もちろん、国民の富を容赦なく吸い上げるという皮肉が込められているのはいうまでもない。
にもかかわらず、前述のように11万社に上る国有企業のうち、利益をあげている企業は10社くらいである。ほとんどの国有企業は破綻寸前の状態に陥り、国からの資金注入を頼りいいかげんな経営をしているのだ。
『チャイナ・リスク』
黄文雄 海竜社 2005年3月9日
<中国の破局は突然やってくる><農村の崩壊が引き金となる>
・中国の破局は突然やってくるだろう。というのも、歴史を見ると、中国の場合は、そういう傾向があるからだ。
<通常、大きい国は没落に時間がかかる>
・中国の場合、没落には時間がかかるが、破局は突然やってくる。どのような環境変化によって、あるいは歴史的条件の変化によって破局を迎えるかと言うと複合的にやってくる。
<今、中国が抱える大きな問題点の一つに、「三農問題」がある>
・中国の農村人口は約8億6000万人だが、農作業を行っているのは5億4000万人、実際せいぜい1億~2億人程度で十分だ。それ以外は余剰人口ということになる。
・中国以上に耕地面積を持つ、アメリカの実労人口がたったの300万人と比べれば一目瞭然だ。農村で仕事にあぶれた農民は、都市に出稼ぎに出る。年平均9000万~1億人の農村人口が都市に流入している。
・が、都市部の建設ブームが去り、農村の経済を支えていた出稼ぎ人口が、仕事にあぶれて農村へ帰ることになると農村問題はより深刻化する。それをきっかけに農村が一挙に崩壊する可能性はある。歴代王朝の末期に見られた流民の大噴出が再現するのは避けられない。
・歴代王朝を見ると、水害、旱魃、飢饉がおこり、流民が100万、1000万単位で出てきて、疫病が流行し、カルトつまり法輪功のような新興宗教が出てくると、それが易姓革命になる可能性が出てくる。
『100年予測』
世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図
ジョージ・フリードマン 早川書房 2009/10/10
・「影のCIA」と呼ばれる情報機関ストラトフォーの創立者でCEOをつとめる政治アナリスト・フリードマンが予想する衝撃のこれからの世界は……。
・アメリカ・イスラム戦争は近く終局をむかえる。
・勢力を回復したロシアは、アメリカと第2の冷戦をひきおこす。
・アメリカへの次の挑戦者は中国ではない。中国は本質的に不安定だ。
・今後、力を蓄えていき傑出する国は、日本、トルコ、ポーランドである。
・今世紀半ばには、新たな世界大戦が引き起こされるだろう。その勝敗を左右するのはエネルギー技術であり、宇宙開発である。
・そして、今世紀の終わりには、メキシコが台頭し、アメリカと覇権を争う。
・地政学の手法を駆使してフリードマンが見通す未来は、一見荒唐無稽に感じられても合理的で、的確な洞察力を感じさせる。示唆に富む未来覇権地図がここに描かれている。
<2020年の中国―張子の虎>
・中国は過去30年にわたってとてつもない発展を遂げている。これほどの成長が無期限に、あるいは永久に続くというのは、経済の基本原則を無視した考え方だ。いつか景気循環が醜い顔をもたげて脆弱な企業を淘汰するはずであり、実際そうなるだろう。そして技術力を持った労働者の不足が持続する成長にいずれ終止符を打つだろう。成長には構造的限界があり、中国はその限界に達しつつある。
<中国の政治危機>
・中国では忠誠は金で買うか、強制するものだ。金がないなら、強制するしかない。景気低迷時には、企業倒産や失業が多発するため、一般に社会不安が起こる。貧困が広く存在し、失業が蔓延する国に、景気悪化の圧力が加われば、政情不安が広がる。
・あり得るシナリオの二つ目が、中国の再集権化である。景気低迷をきっかけに相反する諸勢力が台頭するも、強力な中央政府が秩序を打ち立て、地方の裁量を強めることによってこれを抑え込む。
・第3の可能性は、景気悪化がもたらすひずみにより、中国が伝統的な地方の境界線に沿って分裂するうちに、中央政府が弱体化して力を失うというものだ。
・これが実現すれば、中国は毛沢東時代と同じ状況に陥る。地域間の競争や、紛争さえ起きる中、中央政府は必死に支配を維持しようとするだろう。中国経済がいつか必ず調整局面に入る事、そしてどんな国でもそうだが、これが深刻な緊張をもたらすことを踏まえれば、この第3のシナリオが中国の実情と歴史に最も即していると言える。
<日本の場合>
・大方の予想に反して、中国が世界的国家となることはない。
・中国のもっともともありそうなシナリオは、日本をはじめとする強国が中国に経済進出を活発化させるうちに、中央政府が力を失い分裂するというもの。
<アメリカの力と2030年の危機>
・アメリカは50年周期で経済的・社会的危機に見舞われている。
・次の危機は労働力不足で、2028年か2032年の大統領選挙で頂点に達する。アメリカは移民の受け入れ拡大政策で問題の解決にあたるだろう。
<新世界の勃興>
・2020年代のロシアの崩壊と中国の分裂が、ユーラシア大陸に真空地帯を生み出す。
・その機会を利用して勢力を伸ばしていくのが、アメリカと同盟を組んだ、日本、トルコ、ポーランドである。
『チャイナクライシスへの警鐘』 2012年中国経済は減速する
柯隆 日本実業出版社 2010年9月20日
<「市場経済」という言葉自体はタブーだった>
・実はその当時は、「市場経済」という言葉自体を公にすることができなかった。
・なぜなら、「市場経済=資本主義=反社会主義」という考え方が、当時はまだ根強かったからだ。そこで、苦し紛れに付けられた名称が「商品経済」というものだった。そういう状況だったから、「民営化」とか「私有化」という言葉など口にしようものなら、当時の中国社会では厳しく批判され、人生の前途が台無しになる恐れがあった。
<自浄システムが欠如している>
・経済格差や政治的腐敗がどんどん拡大していった先にあるのは何だろうか。それは、おそらく「暴動」という形で表面化する。中国の国民もバカでないから、そうした実態を目の当たりにすると、怒って暴動を起こす。それが鎮圧され、また暴動が起こるということを繰り返している。あまり日本では報じられないが、中国では年間8万件もの暴動が起こっている。
<貧者も富者も不幸せな社会>
・なぜ富裕層なのに安心感が得られないのか。それはいつ、財産を没収されるかわからないからだ。経済的にも資本主義でも、政治的には共産主義だから、政府の一声で、財産を没収される恐れがある。
・私有財産を安心して自国内に置いておくことができないから富裕層にとっても安心できる国ではないということになる。
<飢饉が起こる恐れすらある>
・このままいくと飢饉が起こる恐れすらある。飢饉というものはそう頻繁に起こるものではない。数十年に一度の割合で起こる程度のものだ。ちなみに、中国では直近、1960年に飢饉が起こっている。このときは飢饉が3年間続いた結果、実に3000万人もの人が亡くなった。
この数字は第二次世界大戦で戦死した人の数よりも多い。食糧危機というのは実に怖いのだ。
<北京の地下水は枯渇寸前>
・中国ではいま。水が完全に不足している。中国の大河、揚子江よりも北に位置する都市は、すべて水不足に悩んでいるといってもよい。
・しかし、中国には自力で水不足の問題を解決する力はない。
<中国のカントリーリスクに備えよ>
<減速と混乱は通過儀礼>
・したがって、個人、法人を問わず、中国に投資している人は、仮にXデーを迎えたとしてもパニックに陥る必要はない。求められるのは情報収集力を強化して、それを解析して戦略を考えることだ。仮にXデーを境に中国が谷に向かって進み始めることになったとしてもリスクを軽減できるようにいまから資産の分散を図っておくとよい。
『中国沈没』
沈才彬 三笠書房 2008年3月25日
・中国には「居安思危」という諺がある。この諺には、平時に有事を想定し、危機管理を徹底するという意味である。
・近い将来、中国が沈没するようなことになれば、このところ続いている10%を上回るGDP成長率が、一気にマイナス成長へと転落する可能性も否定できない。それを回避するためにも、中国は自国の状況に対して危機意識を持たなくてはならないのだ。
<中国沈没―9つのケース>
1、「政治闘争」になる社会・経済の不安定化
・66~76年までの文化大革命(文革)によって、中国は10年間という長期間の沈没を経験した。
・中国の「失われた10年」は、日本とは比べものにならないほど悲惨だった。文革の10年間、約2000万人の国民が非正常死したといわれている。
2、“爆食”による経済成長の行き詰まり
・エネルギーを非効率的に消費し、高度成長を達成する「爆食経済」。この言葉は、今の中国の高度成長の特徴を表すために私が作った造語である。爆食経済はいつか必ず破綻する。
3、アメリカ経済が、かって陥ったマイナス成長パターン
・ベトナム戦争は、アメリカを深刻なトラウマ状態に陥れた。さらに経済的な沈没だけでなく、価値観の崩壊まで招いてしまった。長期的な戦争は必ず国を沈没させる。
4、「格差問題」「腐敗蔓延」「失業問題」
・ラテンアメリカ諸国を不安定な状態に陥れた「格差拡大」「腐敗蔓延」「失業問題」という3つの問題は、中国が抱えている問題と完全に一致している。ラテンアメリカでは、こうした問題への国民の不平不満が政変へとつながっていった。
5、「民主化運動」による中国政府の分裂
・とう小平の南巡講話が行われ92年、中国は14.2%という経済成長率を達成し、天安門事件によってもたらされた沈没から脱却することに成功したのだった。
6、日本の「失われた10年」型長期低迷パターン
・バブル崩壊によって失われた資産価格は、約2000兆円といわれている。2000兆円は、今の日本のGDPの4倍に相当する額であり、驚異的な額の資産がバブル崩壊とともに消滅してしまったことになる。
・バブル崩壊後、日本は深刻な不況に陥った。90年代は景気低迷が続き、その10年間は「失われた10年」として、日本経済に大きなダメージを与えた。いまある問題を解決し、さらなる成長のための目標を決定することができなければ再び沈没してしまうことも十分に考えられる。
7、旧ソ連が経験した国家崩壊型の沈没
・国家崩壊は計り切れないほどの負のインパクトをもたらす。もし中国がソ連のように崩壊や分裂するようなことがあれば、とてつもない数の人々が犠牲になるのは間違いない。中国の人口はソ連崩壊当時の人口より4~5倍も多いのだ。
・中国とても、ソ連が経験したような国家崩壊型の沈没だけは何としてでも避けなければならない。
8、アジア「通貨危機」型のリスク
・アジア通貨危機はASEANに大きなダメージを与えた。98年のASEAN全体の経済成長率はマイナス8%にまで落ち込む。
9、アメリカ経済失速による世界経済の崩壊
・ただし、アメリカ経済はITバブルの崩壊からわずか2年後に再び回復軌道に乗っている。その理由は、ITバブルが日本のバブルとは違った特徴を持っていたからである。
<中国が抱える問題は、最後は「政治」に行き着く>
・民主化を定着させるためには、厚い中流層が形成されなくてはならない。しかし、中国では厚い中流層が形成されておらず、いわば発展途上国と中進国が混在している状況だ。こういった状況では、民主化は時期尚早といわざるをえず、中国民主化はかなり先の話になる可能性が高い。
<中国沈没の回避の方法は見いだせるか?>
・中国にとっての最善策はこれからも「気功療法的な改善」を進めていくことだ。農村地域や貧困層にも経済発展による恩恵を行き渡らせ、中流層を育てていくことが中国にとって何よりも大切である。
『数字が証す中国の知られざる正体』
「21世紀は中国の世紀」のウソを暴く
石平 日本文芸社 平成14年9月20日
<繁栄の集中的「演出」と普遍的貧困>
<各地で労働者による大規模な抗議デモが発生>
<失業率28%、1億7千万人の失業者がさまよう中国>
・2001年に全国の失業率はすでに26%に達しており、2002年には失業者数が1億7千万人に上り、全労働人口の28%が失業状態にあるという。要は、日本の総人口をはるかに超える大量の失業者が中国には存在していて、勤労能力を持つ国民の5人に1人が定職についていないという状況にあるというのである。
<コーヒー三杯分の月収で生活する千四百万人の貧困層>
・大量失業とともに発生しているもうひとつの深刻な問題は、広がる一方の貧富の格差である。
・中国では、都市部だけでも実に千四百万人もの人々がコーヒー三杯分以下の月額収入で生活している、ということになる。
・中国で最も貧しい雲南省では、農村部の「貧困人口」が2001年には1千万人以上という統計数字がある。さらに、そのうちの6百万人は食事も満足にできない「食うか食わず」の生活状態にあるという。
・一省の貧困人口が1千万人以上ともなれば、中国全国にはどう考えても億単位の貧困層が存在しているはずだ。
・「中国の繁栄と未来」という途方もない世紀の神話の中の日本人たちは、隣国において生ずるかもしれない不測の事態に対する備えも、自らが負うことになるかもしれない多くのリスクに対する冷静な計算も棚上げにしたまま、空気だけに流されて過熱な中国ブームに安易に乗ろうとしている。
このままでは、中国社会に内在する危機が総爆発して、神話が破滅する日もさほど遠くないかもしれない。
<「7%台の高い経済成長率」は果たして本当なのか>
<専門学校卒が60%も就職できない経済繁栄とは?>
<8年間で生み出された総生産の42%は『在庫』>
<中国経済はもはや完全に赤字債務経済>
・中国経済はもはや完全に赤字債務経済となっているわけである。
・以上の一連の数字から浮き彫りになるのは、財政赤字と負債によって支えられ、巨額の不良債権を抱えながら大量の在庫を生み出し続けるという中国経済の実態である。
・経済成長の最中にありながら、中国はすでに経済衰退期の「末期症状」を呈しているのである。ならば、経済成長が鈍化し、あるいは停滞してしまえば、この巨大国はいったいどうなるのか・・・。
『堂々たる政治』
与謝野馨 新潮社 2008/4
<官房長官として30日>
・「与謝野さんは事務所費の件、大丈夫ですか」
「うちは事務所費に関しては税理士を入れ、ちゃんと過去の分も監査しているし、いまは1ヶ月に1回、税理士の人が来て、全部点検していますよ」
・こうして私は、安倍改造内閣の官房長官に就任した。
官房長官として第1に考えたことは、私自身が記者会見や何かの発言で、絶対に間違わないようにしようということである。記者会見での言葉遣いには、とくに神経をつかった。
・通常の閣僚は、記者会見前に官僚から説明を受けるのだが、私は、とくに必要な時以外はこうしたブリーフィングをあまり受けなかった。
・内閣の基本的な方針は総理大臣が決めるものだが、個人的には、永田町を含めた巷にはびこる「市場原理主義」的な考えと戦うということを密かに心に決めていた。
<率直さが魅力だった安倍総理>
・このとき信三氏は、ミサイル防衛など専門的な事について、アーミテージ氏とも対等に話していた。アーミテージ氏が「アベさんは、非常によく物を知っている」と驚いていたことは今でもよく憶えている。最新の知識のみならず、戦前も含めた外交史、中国、韓国などの権力構造にまで詳しかったことに、私も驚いた。
<官房長官は番頭役>
・官房長官を重要ポストに変えたもう一つの要因として、財務省の力が落ちたことも挙げられる。
<梶山氏から学んだ役人操縦術>
・官房長官としての梶山氏は、「良い奴」と「悪い奴」の区別、識別がとにかく早い。そして「悪い奴」と判断した相手は、徹底的にどなりまくって対決していく。官僚の言うことなんか聞かない。ブルドーザーみたいにとにかく推し進める。後藤田氏とは対極のタイプだったという。
・梶山氏ならではの手腕で官僚をコントロールする場面は、何度も目の当たりにした。
・「与謝野たちの世代は、戦争の本当の悲惨さを知らねえだろう」とよく言われたものである。この言葉は今でも耳に残っている。
・梶山氏が亡くなった後、追悼文に思い出話を書けと言われて書いたら、原稿用紙で30枚にもなってしまった。それを届けたら1人3枚だと言われて書き直したが、私の書いた元の原稿は、聞くところによると、茨城にある梶山氏の家の仏壇に飾ってあるらしい。
<天才的なカンとひらめき>
・郵政民営化、構造改革を掲げた小泉純一郎元総理は、5年5ヶ月という戦後3番目の長期政権を担った。小泉氏の長所というものは、訓練によって得られたものではない。生まれつきもっている天性のカンとひらめきが、経験の中で磨かれていったというところだろう。自分が目指す改革が実現できなければ「自民党をぶっ壊す」。とまで宣言した小泉のやり方を、普通の政治家が真似しようとしても無理である。生まれつきのカンとひらめきが備わっていないから、多分、真似はできない。
・後で小泉氏の秘書官だった飯島勲氏に聞くと、小泉政権での登用にあたっては、徹底的に「身体検査」をしたという。この「身体検査」という言葉は、安倍内閣のときに一気に有名になった、一種の隠語である。要するに、登用しようとする政治家に金銭や異性の問題はないか、事前に行う調査のことだ。小泉内閣のそれは非常に徹底していたので大きなスキャンダルがなかったのに対して、安倍内閣は甘かったから様々な問題が続出した、とはよく指摘されるところである。
しかし、小泉内閣の身体検査は、通常イメージされる金銭や異性絡みのスキャンダル調査だけではなかったようだ。その政治家の主義主張も、国会での過去の質問をはじめ何から何まで全部調べあげたらしい。それが私の登用につながっていた。
<肝心な時は人に相談しない>
・要するに、人に相談すると平均的な答えしか返ってこないということが、よくわかっていたのだ。このときに、参院で否決されて衆院を解散などということまで想定していたかどうかはわからない。ただし、小泉氏ほど「自分で決める」という信念を強く持っている人はいないのは確かである。
この点で思い出すのが、安倍内閣の組閣だ。安倍氏が他人に相談せずもっと好きなようにやっていたら、ああはならなかったのではないか。いろんな人の意見を聞いて話を広げると、往々にして結論は平凡になってしまう。組閣という「肝心なとき」に人と相談しなかった点でも、小泉氏は天才だったのだろう。
<ワンフレーズ・ポリティクスの恐ろしさ>
・しかし、郵政という問題にまず熱狂したのは実は、政治家ではないだろうか。それも対抗勢力である郵政民営化反対派が、大した問題ではないのにもかかわらず、これに命を懸けてしまった。それでこの問題が実際よりも大きくなってしまったのだ。
当時はこんなことを言ったらおかしいと思われただろうが、現実的には、郵便局が民営であろうと公営であろうと、国民の生活を決定的に変えるような話にはならない。少なくとも短期的にみて、国民が不自由するようなものではない。ところがこれを天下の一大事だと、まず政治家が思ってしまった。ここには事実認識、時代認識のずれが相当あったと思う。
・しかし、小泉氏に常識は通用しない。ただ、これはほとんど本質的な問題ではないし、今後もああいうタイプの天才がそうそう出てくるわけではないだろうから、あまり考えても仕方がない。
・むしろ、このとき改めて感じ、今でも忘れてはならないと思うことは、小選挙区制度の恐ろしさである。以前、カナダの与党が169あった議席を2議席まで落としてしまったことがあった。これも小選挙区制ゆえに起きたドラマである。
日本の場合は、小選挙区とはいえ比例代表もあるので、そこまで極端なことは起きないだろう。それでもほとんどそれに近い地すべりというか、表層雪崩のような現象が起きたからこそ、自民党が圧勝することになった。
・今思えば、解散した瞬間に、国民は勧善懲悪の精神から小泉氏に軍配を上げていたのではないかと思う。
<自民党はぶっ壊れたか>
・土木建築業者は、バブルがはじけた時には53万~54万社あった。そのときに補正予算をバンバン使ったものだから、不況下でも土木建築業者だけは増えて58万~59万社になった。約60万社として300の選挙区で割ると、1選挙区に2000社の土木建築業者があることになる。つまり2000人社長がいる。
ところが、小泉政権以降、その人たちが「公共事業を何とかくれ」と文句を言っても、中央はやらない。地方自治体もロクにできない。仕事も作れない自民党なんか応援できない、という話になる。
・こうなったいま、政治家に出来ることは、個人レベルでの努力しかない。当たり前すぎてつまらないと思われるかもしれない。しかし、最終的に問われるのは、政治家としてきちんとしているかどうか、そのことに尽きる。ちゃんと地元を回って、地元の声をよく聞いているかどうか。人格的にも物の考え方も、高い志に支えられているかどうか。
そういうことによって政治家が選ばれる時代になった。
<新聞の社説にとらわれない>
・以来、日本の政治は、支持率など世論の動向を見ながら運営される傾向が強まる一方である。世論主導型政治となってしまった。
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