そのさきへ -Deep Sky Blue version-

このブログは引っ越しています

奇跡と女神

2008-03-02 20:50:33 | 日常生活
現在、ESPNで"Gratest Highlights"という投票企画が行われてます。歴代のスポーツの名シーンから
16個が選び出され、最強のハイライトシーンを投票で決めるというものです。

トーナメント方式で行われているこの企画で、決勝戦に残ったもののひとつが、"Miracle on Ice"でした。
日本のウィキペディアではこれほどに短い説明ですが、英語版のウィキではかなり詳細に書かれています。
それほどまでに、アメリカでは"Miracle on Ice"は有名なものです。




これは1980年2月22日、レイクプラシッド冬季オリンピックの男子アイスホッケー準決勝、アメリカ対ソ連戦の
試合を指します。当時、史上最強チームと呼ばれていたアイスホッケーソ連代表に対して、アマチュアと大学生を
中心とした(当時はプロ選手の参加が認められていないから当然なのだけど)、ハーブ・ブルックス監督率いる
アメリカ代表チームが、逆転勝利でソ連を破り、ソ連代表の連勝とオリンピック連覇を阻みました。

アメリカでは30年近く経った今でも、この試合は相当の語り草になっており、嫌いという人は相当少数だと思います。
それは時代背景と大きく関係しています。1970年代、アメリカはベトナム戦争で疲弊し、基軸通貨としてのドルの
地位は揺らぎ、リチャード・ニクソンは大統領を失脚し、アメリカ全体が自信を失った時期でした。その上1979年に、
結果的には「最後の冷戦」となる、ソ連のアフガニスタン侵攻が発生し、嫌がおうにも、アメリカのソ連への対抗心は
燃えることになります。

そうした時代背景の中、商業化前夜の冬季オリンピックが開幕します。事前にはそれほど期待されていなかった
アイスホッケーのアメリカ代表(オリンピック前に行われたソ連との試合では、10-3の大敗を喫していた)の
がんばりは、全米中を熱狂に入れることとなり、準決勝でのソ連との直接対決を迎えます。この時点まで来ると、
単なる応援を超え、多くのアメリカ国民は、敵国ソ連に対峙するアメリカ代表を通じて愛国心を覚えるようになります。
God Bless Americaが歌われ、多くの星条旗がゆれる中、アメリカ代表は逆転でソ連を下し、決勝でフィンランドを破り、
金メダルをもたらします。だからこそ、9.11後の愛国心が高まる中に行われた、ソルトレイクシティオリンピックで、
最後の聖火点灯者が"Miracle on Ice"のメンバーであったことには、何も不思議なことではありませんでした。

"Gratest Highlights"の投票者の意見では、他のハイライトシーンは1プレイを焦点に当てているのに、
"Miracle on Ice"は、このソ連戦すべての事を指すのであって、適当ではないという意見もありますが、
この試合がアメリカ国民の愛国心を呼び起こす象徴であることには、疑う余地はないでしょう。

翻って、この試合に相当するものが日本にはあるのかなとふと考えてみました。例えばイチローが珍しく愛国心を
前面に出して戦い優勝した2006年のワールド・ベースボール・クラシック。しかし決勝の相手は野球大国ではあるが、
日本人が描いていた相手アメリカではなく(アメリカとの対戦では愛国心うんぬんよりも疑惑の判定で盛り上がった)、
キューバでした。しかも、日本だけは最初このシリーズへの参加を拒んできたという事情もあります(その反面、キューバは、
出場したくても国務省がなかなか許しを出さなかった)。

一方で、先に行われたサッカーの東アジア大会にて、中国と戦った日本代表は「手荒い」プレーを受けました。
毒入り餃子問題で新たに日中関係がギクシャクする中、「中国はサッカー民度が低い」という意見も出ました。
その意見自体は正しいでしょうし、日本代表はラフな環境下でも中国代表に勝利を収めました。しかしながら、
注目度の違いもあるのでしょうが、一部の人が期待するような、愛国心を植えつけるような試合ではなかったし
(先のソ連代表とは違い、中国代表の技術レベルは日本よりも正直言って高くない)、そもそも日本代表は
この大会で優勝しませんでした。広告代理店が植えつけた日本代表のイメージに踊らされている気すらします。

そう考えると、"Miracle on Ice"は特異中の特異なできごとだったのかもしれません。時代背景とアメリカ国内で
行われたオリンピック、そして組み合わせの妙などなど、後から振り返ると、多くの偶然の賜物だったとも言えます。
ただし、当時はオリンピックには商業性が全くというほどなかったので、今以上に純粋な愛国心の高まりが
あったようにも思えてきます。

ちなみに、今回の投票企画で"Miracle on Ice"に対抗するプレイは、2007年フィエスタボウル、オクラホマ大学対
ボイジー州立大学で出た、逆転のプレイ(とそれに続く、元旦早々全米放送されたプロポーズ!)です。このプレイは、
そのときのパスフェイクの格好から"Statue of Liberty"と呼ばれています。なぜこのプレイが決勝まで残ったか、
それについては疑問や疑惑(アイダホ州の一部メディアで投票を促す運動が起こっているらしい)があるようですが、
愛国心の象徴"Miracle on Ice"に対抗するものが、自由の国アメリカを象徴する「自由の女神」という構図が、
実にアメリカらしくも思えてきます。




ミラクル

ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

このアイテムの詳細を見る


Out Of The Blue Boise State: Undefeated Fiesta Bowl Champions

Sports Pub

このアイテムの詳細を見る


なかのひと


最新の画像もっと見る