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[book club]ブレア時代のイギリス

2006-03-16 00:50:19 | book club
ブレア時代のイギリス  岩波書店同じ議院内閣制を敷いているからなのか、日本人はイギリスの政治体制が大好きです。
その理由はいろいろあると思いますが、古くは汚職がないことであったり、小選挙区選挙の
モデルであったりしました。また最近では、やはりイギリス政治から「マニフェスト」という小冊子を
配ることを覚えたりと、とにかく日本人は同じ島国であるイギリスの政治にある種の理想系を
見出しているようです。

そのイギリスの現在の首相は、いわずと知れたトニー・ブレアです。ブレアが労働党の党首になり、
"natural party of government(当然の与党)"とすら呼ばれていた保守党から政権を奪取し、
10年近くになろうとしている長期政権の分析を行ったのがこの本です。今の日本と比較して読むと、
いろいろと示唆に富む内容がちりばめられています。

ブレアの労働党は、戦後の1/4を「当然の野党」として過ごしており、このままではいけないという
ある種の危機感が党内を漂っていました。しかし一方で労働党規約第4条(いわゆる「国有化条項」)という
左派政党の絶対的な規約と、最大の支持母体である労働団体に対して悪いことはできないという
束縛がありました。

その時に前党首の急死という思いがけない出来事で党首として現れたブレアが打ち出したのが「第三の道」です。
いわゆる冷戦時代にあったような「右」か「左」かという単純な二分論を排して、簡単に言えば、
「脱・社会主義」とグローバル化に適応した政策です。そうすることによって、衰退進む保守党支持者の票も、
野党暮らしに飽きた労働党支持者の票も獲得することができたのです。

一方でブレアは自らが先頭になってイギリスを引っ張っていく姿をマスコミを通じて現していきます。
それもただテレビに出るのではなく、象徴的なシーン、例えば先の「第4条削除」や有名な演説である、
"Education! Education! Education!"といった、演説重視で人々に訴えたことです。これは言ってしまえば
イメージ戦略なのですが、専門用語ではこれを「政治の人格化」というものです。

しかし、イラク戦争への積極関与を図った頃から、ブレアの手法に疑問が呈されます。この点については、
まだ議論が完全に煮詰まっていない面もありますので、この本で有力な支持説/批判説を読んでもらうのが
よいかと思います。いずれにしろ、ブレアは政権と獲るという情熱と国民を引っ張っていくための理論に
満ち溢れていた、いや溢れすぎていたように思えてきます。

では、ブレアのイギリスと日本の小泉自民党はいったい何が似ていて何が違っているのか。少なくとも、
抵抗勢力又は政策遂行の妨げになるものを排除した点、そして「政治の人格化」を図った点は、
日英が似ている点です。

しかし、筆者も言っているようにブレアが論理によって人々を納得させることに重きを置いているのに対し
(イラク戦争の口述として「イラクは即時に大量破壊兵器を配備できる」というものを使ったこともあるが)、
小泉自民党が行ったのは論理ではなく物事のすり替えと単純化、個人的な見方だと思考を停止させることで
支持を得た点が大いに違います。昨年の総選挙なんかを見てもそれは明らかです。「郵政民営化が実現すれば
日中関係は良くなる」とかホリエモンは私の息子です」などと叫んでみたりする一方、日本の将来像という点は
ぼやけていました。

では民主党はどうかと言えば、個々の政策では自民党を上回っている点もあるかもしれないですが、
絶対に与党になろうという情熱は今ひとつ感じられません。もしそうしたものがあるのであれば、
無死満塁で満塁ホームランでの一発逆転ではなく、連打での逆転を仕掛けるべきでした。今年の初め、
民主党は「4点セット」で勢いづいたのですが、例のメール問題で沈没しました。無死満塁で4点獲るどころか、
トリプルプレイであっけなく攻撃が終了したのです。拙攻に走った民主党も思考停止だったと思います。

これに輪を掛けて「政治の人格化」の仲介者でもあるマスコミもイギリスの主要マスコミと違い冷静な分析ができず、
国民も思考停止気味になりつつあります。そうなると喜ぶのは官僚や公務員になります。どうも、日本政治は、
政治資金の規制や選挙制度などというハード面を一生懸命に真似ることができても(完璧か否かは問わず)、
理論(政策)立案および施行面ではまだイギリスの足元あたりじゃないかとも思えてきます。この本にあるような
イギリスを超える政策や理論が日本から生まれてもらいたいという希望は、高すぎるのかもしれません。

そんなことを考えてしまう自分もやはり、イギリス政治に理想を見ているのでしょうか。


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