(トガン隊長の話 その4)
ロシアは10を超える諸公国に分かれており、連合してモンゴル軍にあたることができず、各個撃破されてしまった。
モンゴル軍はロシアの村々を焼き払いながら南下し、ドン河下流域に入った。
そこで停止し、軍の休息と補充を行った。
1年後の春、遠征軍は再び行動を開始する。
ロシアのキエフ公国を滅ぼし、ハンガリーとポーランドになだれ込んだ。
私もその頃には数々の闘いを経験し、一人前の戦士になっていた。
集団で敵の側面に回り込み、雨あられと矢を射かける。
敵がバラバラになったところで突撃し、切り倒す。
家畜を殺すのと同じ気持ちで、敵を殺した。
捕虜や住民を教会に押し込め、火をかけもした。
その代償として、私の10人隊では、3人が戦病死した。
友のトルイも負傷して、後方に残された。
我々はポーランドに侵攻する部隊に組み込まれた。
ある日、敵の大軍が集結しているとの情報があり、ムカリ隊は捕虜の獲得を命じられた。
林の中を静かに進む。
斜め前方の木陰に、何か動くものを見つけた。
10騎ほどの敵だ。
鎧、甲に身を固め、長槍を持っている。
よく見ると、白地に赤の十字架が画かれたガウンを着ていた。
「馬鹿な奴らだ。ここに当ててくれ、と言っているようなものだ。」
囮戦法を使う。
3騎の仲間が敵を誘い出す。
それを追って、敵が速歩でやってくる。
我々が待ち伏せしている場所に来た。
「撃て!」
木陰から弓を引き絞り、馬上の騎士に矢を放つ。
あっという間に、10人は馬から転げ落ちた。
「歩けるやつを捕まえろ。」
数歩踏み出したとき、倒れた人影から、矢が飛び出してきた。
突進し、弓を持った敵を切り倒す。
矢はムカリ隊長の胸に突き刺さっていた。
矢は上手く引き抜かないと、矢じりで傷を大きくしてしまう。
矢じりを絹の下着に巻き込み、何とか引き抜いた。
傷口から血が噴き出し、ムカリの顔は苦痛でゆがんでいる。
「トガン、お前が隊長だ。捕虜を本部に連れて行け。」
参考図: 「図説 モンゴル帝国の闘い」、ロバート・マーシャル、東洋書林、2001
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